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声劇(ボイスドラマ)の台本

数年前に交流のあった方に誘われ「声劇をやろう!」というお話があったときに手探りながらも台本を書きました。(声劇自体はその話がなくなりました)
声劇(ボイスドラマ)というのは声だけで演じる劇だそうです。
Discordなどで作業通話をすることが元々多かったので、お誘いに乗っかった形でした。
桃太郎をベースに現代風にアレンジをしたショートショートを元にシナリオにしました。

仇名ビースト(台本)

※キャスト名は仮名に変更してあります。
キャラクター名の前のかっこの中の数字はセリフ数です。
大文字のMはモノローグの略です。
noteに合わせて改行などし直しています。

キャスト(敬称略)
(83)岡山僚太(僚太):キャスト1
(14)偽僚太:キャスト2
(33)戌村ハナ(ハナ):キャスト3
(37)猿野加菜美(加菜美):キャスト4
(37)木次山惣子(惣子):キャスト2
(09)ナレーター:キャスト2
(02)同僚♂A:キャスト3
(01)先輩♀A:キャスト1
(03)上司♂A:キャスト4
(01)祖父:キャスト1
(02)祖母:キャスト2
(01)船長♂:キャスト3

岡山僚太(桃太郎)(21)♂ −RyotaOkayama−
 ごくごく平凡な青年。ただしオタク。ニコ動やtwitterでコメントをするのが趣味。
 苗字が岡山というだけで“桃太郎”とあだ名されている。今はバリバリのブラック企業に勤めるIT屋。
 島に行くまで、自ら率先して動くことをしてこなかったが、リーダーをするのが楽しいことに気づく。

戌村ハナ(イヌ)(23)♀ −HanaInuyama−
 あるCMがきっかけで“イヌ”呼ばわりされるようになってしまった不遇の乙女。
 優しく気遣い屋。心の機微を読むのが得意で、いつも気づくとお母さん役になってしまう。
 相手の心を読むことをやめてみようと思うようになる。

猿野加菜美(サル)(24)♀ −KanamiSaruno−
 子どもの頃から賢く、人を騙すのに長けているエリートビジネスウーマン。
 小柄な体がコンプレックスで“サル”と呼ばれている。
 シークレットシューズを履いているのは死んでもバレたくない。
 もう少し素直に正直になってもいいかもしれないと考えを改めた。

木次山惣子(キジムナー)(17)♀ −SoukoKiziyama−
 沖縄在住の焼けた肌が健康的なバンドガール。真っ赤な髪が印象的。
 ヤンキーっぽいところがあり、高校では恐れられている存在。いつの間にかついたあだ名が“キジムナー”。
 島から帰った後、人にもう少し優しくなろうと努力するようになる。

【展開】

・ある島行きのチケットを渡される僚太。それは帰ってきた人がいないと噂される場所だった。
・道中、僚太は三人の女性と知り合う。それぞれ個性を持った彼女たちも何故か行き先は同じ島だった。
・嫌なあだ名を付けられているという共通点しか見つからず困惑する僚太をよそに、三人の彼女たちは僚太を“リーダー”と呼び始める。
・桃太郎の役割を演じさせられるのではないかと推理する四人。
 何も説明もなく手がかりもないまま、船は上陸。明日の朝まで迎えはない。
・そこは鬼どころか無人島で何もない場所だった。四人のサバイバルが始まるのだった。
・食料をめいめい集める四人。久しぶりに誰かと食べる食事。携帯が鳴らない夜。
・四人は語らいます。年齢も性別も職業も住まいも違う四人は、旧友のように打ち解け、それぞれの悩みが解決していきます。
・そこへ偽の僚太が現れ戦うことに。無事勝利した四人。
・晴れ晴れとした状態で迎えた朝。迎えに来た船の船長が「胸のつかえは取れたか」と言います。
・別れ際に連絡先を交換し合い、もっと自分本位に生きようと決意するのでした。
・後日、選ばれた人物だけが受けられる特別プランだと知ります。そして、船長に合格をもらえたものしか帰ることが出来ない旅だったと加菜美から三人は聞くのでした。


【本編】
〜プロローグ〜
(デジタルなBGM)
ナレーター0001『これはあるところ、ある場所でのお話。そこには、桃太郎と呼ばれる青年がいました』
僚太M0001  『俺は岡山僚太。        
        岡山出身で名字が岡山というだけで幼少の頃から
        ”桃太郎”と、
        あだ名を付けられたごくごく平凡な男。
        趣味はアニメ・ゲームにニコニパ動画への投稿、
        特にコメント職人としての自負は他に認める人はいない
        自己満足なもの。
        専門学校を卒業後IT系の会社に勤めていたけど、
        こんなブラック会社見たことがない!
        と、叫びたくなるほどに職場環境は劣悪だった』

(僚太が深い溜息を吐く)

僚太M0002  『何も選択肢がないまま家業を継ぐのが嫌で、
        卒業後、上京してIT企業に入ったのは良いけど、
        いや、良くなかったんだけど。
        ブラック企業って本当にあるんだなって
        実感する毎日が明日も続いていくかと思うと嫌になる』

(BGMなし)

僚太0003、ハナ0001、加菜美0001、惣子0001 (タイトルコール『仇名ビースト』)

(さわやかなBGM)

〜シーン1〜
(タイピング音や電話の着信音と忙しそうなBGM)

僚太が会社で働いているシーン
パソコンで作業をしているところを同僚や先輩にパシリの注文を出される

同僚♂A0001 「おい、桃太郎。ビックマッグが200円らしいから、
        20個大急ぎで買ってこい」
僚太0003   「えと……お金は……」
同僚♂A0002 「…………」
僚太M0004  『先輩は無言で俺を見下ろした。これも特別なこと
        じゃない、いつもの日常だ』

僚太はおどおどしながら答える

僚太0005   「あ、いえ、なんでもないです……買ってきます」
先輩♀A0001 「あ、そうだ、桃太郎くん。LLセットでそれお願い。
        セットでもらえるグラス、彼氏が集めてるのよ」
僚太M0006  『こうして俺は今日も自腹で買い出しに行かされ、
        これが食事だと言わんばかりに自分の仕事のみを
        もくもくと消費し続ける毎日。
        俺はずっとこの日々が続くものと思っていた』

(何かジングルが欲しい)

僚太M0007  『しかし、俺が思い描く現実とは程遠く、
        ある日直属の上司から呼び出しを食らうのだった』

(遠くで電話の着信音と忙しそうなBGMが鳴っている)

上司♂A0001 「あー君はいつも勤勉に働いてくれていて助かっているよ」
僚太M0008  『いつもインターネットを閲覧し、そこでは饒舌な俺には、
        すぐに悪い話だと思い至った』
上司♂A0002 「鬼ヶ島って呼ばれてるあの場所知ってる?
        ちょっと君にはそこに行ってもらいたいんだ。
        左遷? 違う違う、君が優秀だと話したら先方に
        是非にと言われてね。
        僕も優秀な部下を失うのは痛いよ。
        これ新幹線と船のチケット、唐突で悪いけどすまないね」
僚太M0009  『俺は無表情に無言でチケットを受け取って、
        開くよう促されてると感じて中身を見て驚いた』
僚太0010   「これって今日の日付……ですよね……」

しばしの沈黙

上司♂A0003 「(咳払いをして)なあに、ちょっとした休暇、
        そうだな、旅行とでも思って行ってくれればいいから。
        では、気をつけて」
僚太M0011  『そう言うと上司はここから出ていけとジェスチャーで
        示し、俺を追い出した』

〜シーン2〜
(船のSEと波の音のBGM)

僚太M0012  『数時間後、俺は最低限の荷物だけを持ち、船の上にいた。
        携帯電話を弄りながら、この事を告げた時の祖父母の
        悲しそうな顔を思い出す』

(僚太の回想 蝉の鳴き声のSEのみ)

祖母0001   「なんで、あんたばかりそんな目にあわんといかんね(さめざめと泣きながら嘆く感じで)」

(祖父、怒りを露わに)

祖父0001   「そんな会社なんかやめて、わしのあとを継ぎゃあいい!」
僚太0013   「ありがとう……、でも、俺行ってくるよ」
祖母0002   「桃ちゃん……」
僚太M0014  『ばあちゃんはせめてと手作りのおはぎを握ってくれ、
        じいちゃんはせめてと戦時中にお守りにしていた
        短刀をくれた。
        これを持っていくのは軽く銃刀法違反だと思ったけど、
        俺は祖父母のことはゲームの中の彼女と
        同じくらい愛しているから、嬉しい気持ちになりながら
        受け取った。じいちゃん、ばあちゃん。俺、がんばるよ』

(回想終わり)

(船のSEと波の音のBGM)

twitterに投稿するため、携帯を触る僚太

僚太0015   「着くまで何もすることないだろうし、
        twitterでもチェックするか……」
僚太M0016  『鬼ヶ島へ向かう途中なんだけど、超だりぃww 
        @momotaro09(あっとももたろうぜろきゅう)。
        そう呟いてから、鬼ヶ島と言われる部署について
        ネットを駆使して調べてみるが、
        何も情報は掴めない。ところが』
ハナM0001  『私も今鬼ヶ島へ向かっています 
        @wannyan(あっとわんにゃん)』
加菜美M0001 『自分も @kana_yellow(あっとかないえろー)』
惣子M0001  『あたしも同じく @kizimunar(あっときじむなー)』
僚太0017   「え、まじで? レスが三つも?」
僚太M0018  『俺が呟いてこんなに反応があったのは初めてじゃないか。
        今乗ってる乗り合いの船には、船員を除けば、
        四人しか居ないことに改めて気づいた。
        ちょ、うはw 
        珍しくめっちゃレスついたしw ウケるww
        @momotaro09(あっとももたろうぜろきゅう)』
ハナ0002   「ねぇ、もしかしてあなたがmomotaro09さん?」
僚太0019   「(声が裏返る)う、うん、そうだけど……」
僚太M0020  『やばっ! 突然可愛い女の子に声かけられたから、
        思わずリアルだっていうの忘れて即答しちゃったよ。
        でもだって、しょうがないじゃないか。
        目の前の彼女はレイナインたんそっくりだったんだから!
        落ち着け俺、落ち着くんだ俺』
加菜美0002  「へぇ〜。君が我々の同志と言うことですか。
        twitterではやや攻撃的な性格に見えましたが、
        ふむ、
        現実とギャップを抱えるよくいるタイプみたいですね」
僚太0021   「同志? ギャップ?」
僚太M0022  『何か品定めされてるみたいだけど、黒フレームの眼鏡がやたら似合う綺麗なひとだなぁ。
        でも、どうして船の上でスーツ?』
惣子0002   「はっ! こんななよっとしたのが、
        あたしたちのリーダーかよ!」
僚太0023   「な、なよっとしたやつってのは的確すぎるんだけど……」
僚太M0024  『この子は高校生ぐらいなのかな?
        赤い髪がすごく鮮やかで、バンドのボーカルみたいだ。
        けど、なんでこんなに俺が注目されているんだ?
        俺は目の前の状況が把握できず悩む。
        でも俺がリーダーだというなら、ひとつ思い当たる』

自分が出した結論に納得のいかない様子で誰にといった様子でもなく呟く僚太

僚太0025   「もしかして……、俺達で鬼ヶ島へ行って鬼退治?」

(三人の吐息が重なる)ハナ、加菜美、惣子が驚いて息を飲む

惣子0003   「何、お前知ってたわけ? じゃあ、説明なんか
        いらねーじゃん、なあ?」
加菜美0003  「いえ、何となく彼は何も聞かされていない気がします」
ハナ0003   「とにかく! 私達の話も聞いてもらおうよ」
僚太0026   「あ、え、じゃあ、はい。よくわかってないけど、
        よろしくお願いします」
僚太M0027  『三人の勢いに俺は押されてしまったのだった』

〜シーン3〜
(シーン4の最初まで謎提示っぽいBGM)

ハナ0004   「じゃあ、まずは私から話させてもらうね。
        私はイヌって呼ばれる当人としては
        とても不本意な呼び名で呼ばれているんだけど、
        名前は戌村ハナ。23歳だよ。
        服飾関係の仕事してまーす。
        とあるCMが登場するまでは、
        ごく普通の呼び名だったんだけど、
        変わっちゃったんだよね。
        元々ふわふわもこもこの真っ白な服装が好みなんだ。
        白い小型犬に見えるとか友達に言われたりしてたけど、
        さすがに私のことを犬呼ばわりする人はいなかったよ?
        でも、ソフトパンクって有名な有名な会社あるよね?
        その会社が白い犬をお母さんとして、
        そのお母さんを大黒柱とした白井家というCM。
        あれ、あれのせいなの。
        私はあのCMのせいでイヌと呼ばれるようになったのです、
        しくしく。
        それが私の唯一のコンプレックス。
        ハンドルネームは @wannyan。
        名前の通り、わんことにゃんこが大好き!
        でもイヌって呼ばれすぎるのは……ちょっと困りものかも」
加菜美0004  「なら、次は私の番かしら。
        子どもの頃から私は自分でも賢しい女だって
        自負しています。
        猿野加菜美、24歳。
        自分で言うのも何だけど、友達や先生を巧く動かし、
        順調に出世の道を駆け上がっている最中。
        会社からも優遇されている方だと思います。
        その姿が周囲には小賢しく見え、
        大きくない容姿も相まって、
        陰口ともいえない声量で私をサルのようだと
        揶揄されることも結構あるわ。
        正直、私のプライドが許しません。
        自嘲気味の @kana_yelloというハンドルが私。』
惣子0004   「大トリはあたしだな! 今は、沖縄在住。
        そのおかげで日サロ行かなくても肌、良く焼けたぜ。
        木次山惣子、17歳だ。
        ん? この髪か? この真っ赤な髪、目立つだろ?
        おじいちゃんの血を強く受け継いでるらしくて、
        元々赤茶に近い色味なんだけどな。
        バンド活動するのにちょうどいいとは思ってたけど、
        最近もっと赤くしたくてカラー入れたんだよ。
        誰がいつから呼び始めたのか、わかんないけど、
        多分あたしを怖がってる子らか、敵対してるチームだろ。
        沖縄の妖怪にちなんでキジムナーって呼ばれてる。
        だからネットでの名前は @kizimunar』〜シーン4〜
僚太M0028  『俺は黙って三人の話を聞き終えた。
        ちなみに俺のハンドルは @momotaro09。
        まだ俺には状況を飲み込めていない。
        分かったことといえば、みんな嫌なニックネームを
        つけられているなってことぐらいだ』

(船のSEと波の音のBGM)

僚太を三人で囲っている
僚太0029   「えっと、その話がこれから島へ行くことと
        どう関係してくるんだろう?」
加菜美0005  「どうやら私の推測通り、本当に何の説明を受けることなく
        この船に乗せられたようですね」
ハナ0005   「うーん、なんでなのかな。リーダーなのに」
僚太0030   「俺がリーダー?」
惣子0005   「そうだよ(吐き捨てるように)」
加菜美0006  「不本意ですが、
        私のことはサルと読んでくれて構いません。
        白いあなたはイヌ、赤い髪のあなたはキジ、
        そしてあなたが桃太郎。
        桃太郎さん、あなたをリーダーだと
        我々が言っていることに……
        この仇名を聞いてピンときてはいませんか?」
僚太0031   「やっぱり、鬼ヶ島へ鬼退治……?」

(三人の吐息が漏れる)
みんな静かに頷く。

僚太0032   「鬼退治って、具体的には何を……」
加菜美0007  「それは聞かされていません」

(船の汽笛が鳴る)

ハナ0006   「……もうすぐ島に着くみたい」

〜シーン5〜
船から下りる四人

(砂を踏むようなSE)

僚太M0033  『船は明日の朝また来るって言って行っちゃうし、
        俺が桃太郎でリーダー?
        冗談じゃない。しかし、リーダーにされてしまった手前、
        先頭を歩かざるを得ないよな。
        イヌと呼ばれている戌村さんも、
        サルと呼ばれる猿野さんもキジムナーと仇名されている
        木次山さんも黙ってついて来ていた』
僚太0034   「まずは、ここに住人がいるかどうかを確かめてみよう」
加菜美0008  「そうですね。もしかしたら、原住民の方が居て
        好戦的かもしれませんしね」
ハナ0007   「それなんかの映画みたい」
僚太0035   「とりあえず、あの森? を抜けた先を目指そう」
惣子0006   「虫除けスプレーでも持ってくればよかった」

(ジャングルっぽいBGM)

密林を探索する四人

僚太0036   「鬼も居なければ人もいない。いわゆる無人島じゃないか。
        一体鬼退治って何なんだろう?」
惣子0007   「鬼が居たらどうするつもりだったんだ?」
僚太0037   「えっと、それは、やっぱり鬼退治になるのかな」
ハナ0008   「退治って、どうしたら倒したことになるんだろうね」
惣子0008   「やっぱり、殺したらじゃねーの?」
加菜美0009  「相手が降参したら、退治扱いにはならないでしょうか」
僚太0038   「そういうことなら、鬼が居ないのは良かった
        ってことかな」
惣子0009   「やっぱり、あんたってなよっとしてるな」

惣子のお腹が鳴る

惣子0010   「わ、悪いかよ。朝食って以来、何も食ってねぇんだ! 
        あんたたちも腹、空いてるだろ?!」
僚太0039   「あ、木次山さん、ちょっと」
僚太M0040  『一人で海辺の方へ戻って行っちゃったけど、
        今からでも引き留めに行った方が良いよな……?
        (迷っている感じ)』
加菜美0010  「キジさんなら大丈夫ですよ。この辺りの植物は、
        食すのに適していそうですよ」
僚太0041   「え?」
ハナ0009   「ほら、桃太郎さんも一緒に手伝う!」
僚太0042   「う、うん」
僚太M0043  『なんで……』
ハナ0010   「これなんておいしそうだよ?」
僚太M0044  『なんでこんなに……この人達は楽しそうなんだろう。
        すごく自由に動いているように見えて、
        そんなことはないってわかっちゃいるけど、
        うらやましいな』
加菜美0011  「(僚太に被せて)それはまだ熟していませんね。
        それならこちらの方が」
ハナ0011   「(僚太に被せて)へぇ〜そうなんだ!
        んっ、やっ、ほっ!(飛び跳ねながら木の実を取っている)
        うえーん、なんで木の実ってこんな高いところに
        なるの〜?」
僚太0045   「俺が取るよ。えっと、戌村さん」
ハナ0012   「(被せて)ハナでいいよ。じゃあ、お願いするね!」
加菜美0012  「イヌさんったら、ぴょんぴょん跳ねながら木の実を
        取っていてすごく可愛い!
        (僚太の視線に気づき、気まずそうに咳払い)
        こほん、失礼。
        あ、あの実なんて良いと思います」
僚太0046   「取って鞄にでも入れていけば良いのかな」
加菜美0013  「そうですね、お願いします」
ハナ0013   「(遠くから二人を呼ぶ感じで)
        こっちに見たことないような果物っぽいものが
        あるよ〜!」
加菜美0014  「今、そちらへ向かいます」
僚太M0047  『四人の腹が少しは満たされるだろうという量の食べ物を
        集め終えた俺達は、
        木次山さんが向かった海辺へと戻ることにした』

(波の音のBGMと火が爆ぜるSE)

魚を焼いて待つ惣子

僚太0048   「あれ、もしかして、魚を釣って、
        焼いて用意して待っててくれたの?
        木の枝もこんなにたくさん……」
惣子0011   「あたし一人で食うのは悪い気がして……って、
        そんな目で見るな! 焼くぞ!」
ハナ0014   「ありがとう、惣子さん(惣子の頭を撫でる)」
惣子0012   「ああ、もう気安く人の頭を撫でるな!(そっぽを向く)」
僚太0049   「ぷっ! あははは(思わず笑ってしまった感じ)」
四人     「(楽しそうに笑う)」

〜シーン6〜
(星空瞬く夜っぽいBGM)

僚太0050   「こんな浜辺で釣りたての焼魚と取れたての木の実とかを
        食べるなんて、
        初めてだったかもしれない」
惣子0013   「あたしもこの食べ合わせはあまり覚えがないな」
ハナ0015   「惣子ちゃんって釣りも出来るんだね〜。
        私にも出来るかな?」
惣子0014   「難しいものを釣ろうとしなければ」
加菜美0015  「釣り、ねぇ」
僚太0051   「(つい言葉が漏れた感じで)
        こんなのんびりしたのいつ以来だろう。
        そういえば携帯鳴らないな」
ハナ0016   「さっき見たけど、圏外だったよ。
        それに自然に囲まれるのって何年ぶりだろう」
惣子0015   「本当だ、繋がってなかったんだな。
        スマホが鳴らない日も悪くない」
加菜美0016  「私は島について真っ先に確かめましたが、
        電波が届くはずもありませんね。
        それよりもスーツがこんなにしわだらけになったのは
        初めてですよ」

(少しの間)

僚太0052   「俺さ、なんだかもう桃太郎って呼ばれても良いような
        気がしてきた」
惣子0016   「どうしてそう思ったんだ?」
僚太0053   「呼びたければそう呼べば良いし、何て呼ばれようと
        俺は俺かなって」
加菜美0017  「俺は俺、ですか(意味を噛みしめるように)」
ハナ0017   「私はさすがにイヌって呼ばれるのは、
        やっぱりちょっと嫌だけど……。
        あっそうか、私、嫌だって言いたかったのかも。
        今、口にして気づいたよ」
惣子0017   「言葉にしないとわからないことってあるよな。
        あたしそういうのわかるぜ」
加菜美0018  「今更だけど、あなたは言葉遣いどうにかならないの
        ですか?
        って、いつもなら思うし言うのですが、
        今の私からすると、
        物怖じしないその姿勢が少しうらやましいです」
惣子0018   「そんな風に思われたの初めてだ。
        あたしは頭良くないからさ、あんたみたいに賢そうな人が
        ちょっといいなって思うぜ」
ハナ0018   「二人ともしっかりしてる感じするのに、
        フレッシュだから、
        私みたいにお母さんのイメージつかなくて良さそう」
僚太0054   「みんな、個性があって良いなって思うよ。
        俺なんか没個性だから」
ハナ0019   「(三人一緒に)そう?」
加菜美0019  「(三人一緒に)そうですか?」
惣子0019   「(三人一緒に)そうか?」
僚太0055   「え?」
ハナ0020   「何だかんだで、桃太郎さんはアクが強いキャラですよ?
        それをまた自分で気づいてないのが、
        桃太郎さんらしいね」
僚太0056   「へ? アクが強い??」
加菜美0020  「桃太郎さんって結構頑固で、周りに流されないとこ
        ありませんか?」
僚太0057   「え? どうだろう? 俺、結構流されるタイプ
        じゃないのかな」
惣子0020   「でも、ここに来るのだって、家族に反対されたり
        したんじゃないのか?
        だけど、自分の意思で来たんだろ?」
僚太0058   「どうして、それを……」
惣子0021   「あんたと一日も居れば、簡単に想像つくよ」
ハナ0021   「桃太郎さんはもっと自信持っちゃって大丈夫ですよ! 
        ちゃんとリーダーしてるし、ね」
僚太0059   「ちゃんとしてるかはわからないけど、リーダーも
        やってみると面白いと思ったよ」
僚太M0060  『そうして、俺達は語らいあった。
        年齢も性別も職業も住まいも違う四人だけど、
        昔からの友達のように打ち解け、
        それぞれの悩みが解決していくようだった』

(茂みから何かが現れるようなSEとエンカウントしたようなBGM)

加菜美0021  「誰?! 誰かそこにいるの!?」
惣子0022   「なんだ、動物か?」
偽僚太0001  「相変わらず、しけたツラしてるなぁ、俺よぉ?」
ハナ0022   「桃太郎さんが二人いる?!」
偽僚太0002  「ももたろおさん、ねぇ? お前それで本当に良いわけ?」
僚太0061   「なんで……あいつがここに!? お前は俺の心とネットに
        だけ住む鬼じゃなかったのか?!」
惣子0023   「なんかこいつ、twitterでの桃太郎に似てね?」
加菜美0022  「まさか……! いえ、そんなことがありうるなんて、
        ありえない」
ハナ0023   「サルさん、何か知ってるの?」
加菜美0023  「桃太郎さんの鬼を何らかの形で具現化させるなんて、ありえない」
僚太0062   「具現化?」
偽僚太0003  「ありえないありえないって、人の存在を軽々しく
        否定すんなよなぁッ!」
ナレーター0002『突如現れた僚太に似たものが加菜美に
        殴りかかろうとした』
加菜美0024  「(息を詰める感じで)っ!」
僚太0063   「危ないっ!(鈍いSE)(加菜美を庇って殴られる)
        ううっ……」
加菜美0025  「桃太郎さん!」
惣子0024   「なんだ、やろうっての? 得物を使ったら卑怯だなんて
        つまんないこと言わないよな」

ナレーター0003『惣子は足下に落ちていた木の枝を手に取り、
        偽僚太と対峙する』

偽僚太0004  「へぇ〜。剣道でもやってるわけ?」
惣子0025   「鉄パイプが二段だっ!(殴りかかる)」

(ぶんっと得物を振り回すSE)

偽僚太0005  「こわいこわい。当たったら相当痛いよ?
        そこの俺を消したいだけだから、邪魔しないでくれる?
        (嫌な言い方で)キジムナーちゃん」
ハナ0024   「それなら、なんでサルさんを殴ったりしたの!?
        そもそもあなた誰! いきなり出てきて意味が
        わからないよ」
僚太0064   「ハナさん、ダメだ……」
偽僚太0006  「ずいぶんな言われようだなあ。
        俺は俺で……そうだなぁ、鬼ヶ島にちなんで、
        鬼ってことでもいいけどね?」
ハナ0025   「ふざけないで! 今日島を探索してた時にはあなた
        みたいな人、見かけなかった」
偽僚太0007  「鬼やあやかしの類は夜に出る方がそれっぽいでしょ? 
        (嫌な言い方で)イヌちゃん」
ハナ0026   「もう怒った私!(偽僚太に近づこうとする)」
僚太0065   「ハナさん、ダメだ! そいつは危険すぎる!」
ナレーター0004『ハナは偽僚太に手を引かれ、人質にされる』
偽僚太0008  「わんころの命が惜しければ、その出来損ないの
        桃太郎を差し出せ。
        あと俺を崇めろ。これからは俺が岡山僚太だ」
加菜美0026  「劣等感丸出しでみっともない」
偽僚太0009  「(威圧的に)何だと?」
加菜美0027  「それに人質を取らないと目的を達成できないのは、
        三流の仕事方法ですし」
ナレーター0005『加菜美が偽僚太を挑発している隙に惣子が僚太に近づく』
惣子0026   「(小声で)これ、悪ぃけど勝手にあんたのバッグから
        見つけた」
僚太M0066  『これは……じいちゃんの短剣』
惣子0027   「(小声で)あたしが隙を作るから、あいつを倒せ」
僚太0067   「(小声で)……でも、」
惣子0028   「(被せて)(小声で)あいつは人間じゃないらしい。
        猿野が影がないから幽霊とかの類だとかなんとか、
        難しいことはよくわかんないけど」
僚太0068   「(小声で)……わかった。ハナさんを助けよう」
ナレーター0006『僚太は惣子から短剣を受け取り、覚悟を決めた』
加菜美0028  「あなた自身が自分を偽物だと言い張ってるのが
        見てて恥ずかしいです」
偽僚太0010  「違う! 俺こそが俺であって偽物なんかじゃない」
ナレーター0007『激昂する偽僚太に惣子は僚太の鞄から
        見つけていたおはぎを投げつける』(べちゃっというSE)

偽僚太0011  「ぺっぺっ、なんだこれは、はぁ? おはぎ?」
惣子0029   「おはぎあげたんだから、あたしの家来になれよ」
偽僚太0012  「家来になるのはお前だろうがぁぁぁ!!」
ナレーター0008『惣子が作った隙に乗じて、偽僚太の背後に回っていた
        僚太が反撃する』
僚太0069   「お前はリーダーの器じゃない」

(ざしゅっと剣が刺さるSE)

偽僚太0013  「ぐはっ……! お、お前ぇぇ!」
僚太0070   「(ハナを介護しながら)ハナさん、大丈夫?
        (偽僚太に向き直って)俺は、お前とは今日決別するよ。
        (更に剣が刺さるSE)消えろ、俺の鬼め!」
偽僚太0014  「ははっ、ははははは! 俺は消え……ない、
        お前……の中にずっと……」
ハナ0027   「煙になって、消えちゃった……。みんなごめんね、
        ありがとう」
僚太M0071  『じいちゃんの短剣も消えちゃったみたいだ。
        じいちゃん、ばあちゃん助かったよ』
惣子0030   「無事なおはぎはみんなで食おうぜ」
加菜美0029  「あ、流れ星」
僚太0072   「みんな無事か? ……良かった」
僚太M0073  『こうして突如現れた鬼は、俺達四人のチームワークに
        よって倒されたのだった』

〜シーン8〜
(船のSEと波の音のBGM)

僚太M0074  『晴れ晴れとした様子で迎えた次の朝。
        俺達が起きるとすでに船が来ていた』
船長♂0001  「(ぼそりと)胸のつかえは取れたか?」
僚太0075   「はい。これからはもっと軽く過ごしていける気がします」
僚太M0076  『これからはもっと自分らしく生きよう。
        俺はそう心に決めた』

〜エピローグ〜
僚太M0077  『あれから数年後』

(居酒屋っぽいざわざわしたBGM)

加菜美0030  「僚太さん、こちらです! 待ちましたよ、もう」
僚太0078   「ごめん、ごめん。仕事のキリがなかなかつかなくてさ」
惣子0031   「今じゃ、社長やってるんだっけ? 人間やれば
        成り上がれるもんだなー!」
ハナ0028   「その言い方だと桃ちゃんのがんばり全否定だよ」

(笑い合う四人)

僚太0079   「そう言う惣子ちゃんだって、メジャーデビュー
        決まったんだろ? おめでとう」
ハナ0029   「すごいよね、私達の中から有名人が生まれるって。
        でも、納得。
        キジちゃんの歌声、心に来るもん」
加菜美0031  「クラッシック以外はわからない私でも、
        惣子さんのロックバンドはクオリティが高いのが
        わかります」
惣子0032   「み、みんなしてやめろよ! 
        あたしだけの力じゃないわけだし。
        そうだ! 猿野も今度、某国のお偉いさんと会うって
        聞いたけど、実際どうなんだよ?」
加菜美0032  「どうとは?」
惣子0033   「政治家デビューしたりしねーの?」
加菜美0033  「私は裏方で支えるのが向いていて、やりがいがあることに
        気づきましたから、
        表立つつもりは今のところないですよ」
僚太0080   「ハナさんもブティックの店長を任されたのおめでとう。
        今度、遊びに行くよ。
        男物もあるって聞いたんだけど、俺でも大丈夫?」
ハナ0030   「来てくれるならサービスするよ。女性向けのものが
        メインだけど、男性にも見てもらえる商品ラインナップ
        用意してるから、期待してて」
惣子0034   「それなら、あたしも見に行きたいな」
加菜美0034  「私も興味があります」
ハナ0031   「それならみんなでおいでよ」
僚太M0081  『久しぶりの再会を祝した俺達の積もる話は
        とどまることを知らない。
        そこで、加菜美さんがふと、
        以前体験した鬼ヶ島でのことを口にした』
加菜美0035  「情報源はシークレットなのですが、どうやら
        あの鬼ヶ島行きは特別なあるプランらしく、
        選ばれたものだけがリフレッシュできる
        サービスだったらしいのです」
僚太0082   「え? そうなの? 俺、左遷みたいなもんだと思ってた」
ハナ0032   「結局、鬼退治の鬼もよくわからなかったけどねー」
惣子0035   「そうだな。でもまさかあんなことが現実に起きるとはな」
加菜美0036  「鬼というのは精神的ストレスを指すみたいでしたし、
        何かカラクリがあるのかもしれませんが、
        推測でしかありませんね。
        鬼ヶ島のことですが……、
        (声のトーンを下げて)合格したものしか、
        帰ることが出来ない一方通行の旅だったと聞いています」
僚太0083   「それって……」
加菜美0037  「事実かはわかりませんが、
        偽物の僚太さんが現れるなど信憑性が高そうなのも
        ちょっと怖いところですね」
惣子0036   「でも、無事だったんだし、こうして仲間が出来て、
        あたしは満足だけどな」
ハナ0033   「(ハナが惣子の頭をわしゃわしゃ撫でながら)もう〜〜!
        この子は時々すっごく可愛いこと言うんだから〜〜!」
惣子0037   「や、やめろって、ちょっ誰か、
        この酔っ払いとめてくれ……!」
ナレーター0009『四人にとっての心に住む鬼は、あの時確かに退治され、
        周囲に惑わされることなく真っ直ぐ
        これからも進んでいくことでしょう。
        めでたしめでたし』
END

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