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ジョブハンティング(創作小説)

 私、ナカムラミズキは何となく周りがそうするからと大学に進学した。
 これから話すのは私にとってターニングポイントになった思い出の話。
 この日がなかったら私は前に進めなかったかもしれない。

 ある日の午後、幼なじみのクロハユウタロウ君と大学で知り合ったオオキアリカちゃんの3人で昼食後くつろいでいた。
 何の話題から脱線したのか就活や資格試験の話になった。
 目的もなく生きていた私と違って友人たちは確実に未来を考えて生きていることを知る。

「わたし? わたしは簿記と宅建の資格は取ったんだよね。何か得意なことがあるわけじゃないから、資格のお力を借りようと思って」
「まじかよ。俺は建築士の資格目指して猛勉強中。親父がオレの後を継ぐのはお前しかいないとか熱くなってて」
「ミズキは何か資格取ったりしてる?」
「ううん……。アリカちゃんが勉強してるのは知ってたけど、資格試験受けてたんだね。私何も知らなかった」
「ついこのあいだ結果がわかったところだったから。ミズキには先に言えば良かったな〜」
「アリカちゃんもユウタロウ君もすごいね。夢にまっしぐらって感じで」
「夢っていわれてもしっくりこないけどね」
「俺もそうだな。昔から親の後を継ぐことしか考えてなかっただけだから、夢ってわけじゃないかもな」

 私、ナカムラミズキは世界に取り残されていた。
 大げさだと思われるかもしれない。
 けれど、私にとっては誇張していない表現だった。

 アリカちゃんもユウタロウ君ももみんなしっかりと先を見据えて行動していることを知ったのが昼の出来事だというのに。
 午後には出る必要のある授業がなかったから、すぐに帰ってきたのにずっと自分の部屋で鏡の前で呆然としていた。
 いつもは自分を癒やしてくれるぬいぐるみでさえ、私を責めるように見てきているように感じてしまって抱きしめたい気持ちが起こらない。
 酷く私は自己嫌悪に陥っていた。
 どうして私は何もしてこなかったんだろう。
 みんなが遠く感じるのは私の勝手な被害妄想なのに。
 鏡に映る自分に向かって聞く。

「ねえ。私は何がしたい?」


 同じ週の土曜日、アリカちゃんに誘われて駅前で待ち合わせていた。
 心配性の私はいつも約束の20分前には来てしまう。
 でもアリカちゃんは私が待ち合わせ場所に来るともう来ていた。

「アリカちゃん! ごめんね、お待たせ。今日は早いね」
「たまにはミズキを驚かせたいなって思って。じゃあ行こっか!」

 アリカちゃんはとても可愛くて何を着ても様になるプロポーションもしてる。
 うらやましい気持ちが湧かないわけじゃないけど、いつもどこか残念なファッションポイントがあっていつも指摘してしまう。
 ショップを見て回ったり、雑貨を見たり、いろいろなところに連れていってくれる。
 さすがに疲れたねって近くのカフェに入った。
 カフェに入るとユウタロウ君がいて、私たちを見つけて手招いている。
 偶然会うことってあるんだなあって感心しながらアリカちゃんと二人のいるテーブルに向かった。

「オオキ、遅いんだよ〜。俺ら1時間以上待ったんだけど? おかげで腹ん中がたっぷたぷ」
「ごめんね。ミズキが選んでくれるアイテムがセンス良くてあれもこれもってなっちゃって」
「とりあえず、ミズキもオオキも何か頼んだら?」

 私もアリカちゃんもアイスカフェオレを頼んだ後は、会話がなくなってしまって頭の中がぐるぐるした。
 もしかして偶然じゃなくてもともと予定されていたのかな? とか、だとしたら何で? とか、答えの出ない疑問が次々と浮かんでは消えていく。

「もうっ! クロハ君も賛成したんだったらもう少し気の利いた行動起こして欲しいわ。あのね、ミズキ。水曜日にみんなでお昼したときのこと覚えてる? その後からミズキに元気がなくなっちゃったからわたしたちのせいかなって2人で話したんだけどね」
「ううんううん! 2人のせいじゃないよ! 私が何もしてこなかったせいだから……」
「そう! それが間違いだってわたしもクロハ君もミズキに伝えたくて、今日遊びに誘ったの」
「え? 間違いって?」
「ミズキさ、自分には何もないって思ってない? 俺もオオキもそんな風に思ってないよ? 服選びとかバッグのチョイスとか結構センスいいじゃん。俺も何度か頼ったことあったろ」
「そうそう。わたしに面と向かって『それあってないよ』って言ってくれたのってミズキだけだし。そういう美的センスって素敵だなって思うよ」
「だからさ、ミズキ。それを生かした資格を今からでも取ればいいんじゃないか? 別に資格を取らなくてもいいだろうけど、お前ずっと引きずるタイプだろ」
「わたしも当然手伝えることがあれば手伝うよ」
「みんな……ありがとう!」

 自分のことしか考えられてなかったのは恥ずかしかったけど、私もアリカちゃんやユウタロウ君みたいになりたい! って強く思った出来事だった。
 一人で抱え込むぐらいならみっともなくてもみんなに頼ろう。
 そして私は今日、まず第一歩としてファッション色彩能力検定を受けに行く。

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大饗ぬる
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