見出し画像

第1章:成り上がり(後編)

【要約】
ライバル勢力である佐伯組と黒虎会の内部分裂を画策。特に、黒虎会幹部の武田の側近・村上啓二に目をつけ、その不満を巧みに煽ることで武田を裏切らせる。この策略で、武田は失脚し、佐伯が一時的に港南湾を制圧するも、織田が背後で操る「リジェネック・ジャパン」を通じた地域活性化プロジェクトで徐々に影響力を強める。


シーン:結婚式場のチャペルにて

場所:結婚式場のチャペル(隠れ家)

昼下がり、人気のない結婚式場のチャペル。ステンドグラスから柔らかな光が差し込み、整然と並べられた椅子が静寂の中に沈んでいる。織田と篠塚が祭壇前のテーブルに座り、ランチコースの料理が並んでいる。テーブルにはパスタ、前菜の盛り合わせが置かれている。

篠塚がフォークを手にしながら、ちらりと織田を見やる。

篠塚昴:
「こんな場所を隠れ家に選ぶとは、君らしい。」

織田が微笑む。

織田理久:
「静かで、料理がいい。ホテルの厨房で腕を振るうシェフたちは、決して妥協しないからな。」

篠塚が少し苦笑しながらパスタを一口食べる。

篠塚昴:
「……確かに悪くない味だ。」

織田がグラスをテーブルに置き、ステンドグラス越しの光を見つめる。

織田理久:
「この場所もまた、期待を裏切らない。祭壇の前で静寂を手に入れる……皮肉なものだな。」

篠塚が真顔に戻り、パスタを食べ終えるとタブレット端末を取り出す。画面には港湾地区での取引現場の様子が映っている。

篠塚昴:
「武田が動き始めた。佐伯を潰すつもりらしい。」

織田が端末を一瞥し、冷静に答える。

織田理久:
「当然だろう。佐伯を潰せば、次は私たちだ。」

篠塚が少し声を低める。

篠塚昴:
「神楽木が危険かもしれない。武田が彼に疑いをかけ始めている。」

織田がコーヒーを飲み干し、微笑む。

織田理久:
「神楽木にはすでに伝えてある。疑われることも計画の一部だ。」

篠塚が首をかしげる。

篠塚昴:
「計画?」

織田がゆっくりと立ち上がり、祭壇の方へ歩いていく。

織田理久:
「疑念は新しい秩序の種だ。彼らが私たちを追うことで、次の一手が見える。」

篠塚がタブレットを閉じ、織田を見つめる。

篠塚昴:
「……次の一手は?」

織田が祭壇の前に立ち、背後のステンドグラスを背景に静かに答える。

織田理久:
「彼らが互いを憎み合い、動きが取れなくなるまで待つ。そして、その瞬間に全てを奪う。」

篠塚が一瞬微笑み、短く頷く。




場所:神楽木のオフィス(夜)

広々としたオフィス。神楽木がデスクで書類を整理していると、扉が乱暴に開かれる音が響く。村上啓二が険しい表情で入ってくる。

神楽木正道:
(驚いた表情で振り返り)
「村上さん?どうしたんです?」

村上啓二:
「織田理久……お前が奴と繋がってるって話だ。」

神楽木正道:
(眉をひそめ、わざとらしく笑う)
「滅相もない!誰がそんな噂を?」

村上啓二:
(デスクに手を置き、低い声で問い詰める)
「奴がどこにいるか教えろ。」

神楽木正道:
(困惑しながらも慎重に答える)
「……都内の結婚式場のチャペルです。あそこを拠点にしているらしい。」

村上啓二:
(じっと神楽木を見つめる)
「……よし。お前が本当に何も企んでいないなら、今後も奴に関する情報を俺に伝えろ。」

神楽木正道:
(軽く笑みを浮かべる)
「もちろんです。疑いを晴らせるなら、それが一番ですから。」

村上啓二:
(デスクを離れ、出口に向かいながら冷たく言い放つ)
「忘れるな。次にお前が嘘をついたら終わりだ。」

神楽木がその背中を見送り、安堵の表情を見せながら小さく息をつく。

場所:結婚式場のチャペル(昼)

美しいステンドグラス越しの光が差し込む静かなチャペル。祭壇前には白いクロスをかけたテーブルが置かれ、上質なランチコースが並んでいる。織田が椅子に腰掛け、料理を見つめている。

扉が勢いよく開き、村上啓二が険しい表情で入ってくる。

村上啓二:
「織田理久……ここにいることは分かっていた。」

織田理久:
(顔を上げ、座ったまま村上を見つめる)
「君が来るのを待っていたよ。思ったより早かったな。」

村上啓二:
(懐に手を入れながら一歩踏み出す)
「これが貴様の最後の食事だ。」

織田理久:
(背筋を伸ばし、低い声で静かに)
「まあ、座れ。」

村上啓二:
(足を止め、一瞬たじろぐ)
「……好きに話せ。」

織田理久:
(穏やかにスープを示す)
「まずはスープだ。ここのシェフの豆スープは絶品だぞ。話はそれからだ。」

村上が警戒しながらも椅子に腰を下ろし、スプーンを手に取る。一口すすると思わず感嘆の表情を浮かべる。

村上啓二:
「……悪くない。」

次の料理が運ばれる間、織田が静かに話を切り出す。

織田理久:
「君の過去の話を聞いたよ。甲子園の試合、なかなか劇的だったそうじゃないか。」

村上啓二:
(スプーンを置き、眉をひそめる)
「甲子園……あれが俺の人生で一番悔しい試合だ。」

織田理久:
「九回裏、ツーアウト満塁。君がセンターでのファインプレイでホームランを阻止した……しかし、続く延長戦で敗れた。」

村上啓二:
(苦笑いを浮かべる)
「あの打球は普通ならフェンスを越えていた。それを必死で追って、ギリギリ捕ったんだ。だけど、次のイニングでピッチャーが崩れて……俺たちは負けた。」

織田理久:
(真剣な目で村上を見つめる)
「だが、君のプレイがなければ、チームはその場で敗北していた。あの瞬間、君がチームを勝利に近づけた英雄だ。」

村上啓二:
(鼻で笑いながら)
「英雄だ?結局負ければ、そんなものは意味がない。」

織田理久:
(微笑みを浮かべて答える)
「意味を見出すのは君自身だ。君のその力は、周囲に秩序を生む才能だと私は思う。」

メインディッシュが運ばれ、二人は料理を静かに味わう。

織田理久:
「君にはその力がある。武田の首を取れ。そして佐伯に仁義を切る。それが、君の才能を最大限に活かす道だ。」

村上啓二:
(険しい顔でフォークを置き、低く問い返す)
「……俺にそれをやれと?」

織田理久:
「そうだ。そして新しい秩序を作る。その秩序を支える柱の一つに君がなるべきだ。」

村上啓二:
(しばらく沈黙した後、椅子を引いて立ち上がる)
「どうするかは、俺が決める。」

織田理久:
(静かに微笑みながら頷く)
「もちろんだ。」

ランチが終わり、デザートと共にコーヒーが運ばれる。村上が一口コーヒーを飲み、静かに口を開く。

村上啓二:
「ご馳走様。確かに、今この街で食べられる最高のランチだった。」

織田理久:
(静かに微笑みながら頷く)

村上が立ち上がり、無言で扉に向かう。扉が閉まる音が響き、チャペルには再び静寂が戻る。織田は静かにテーブルの上のナプキンを手に取り、ゆったりとした動作で膝に広げ直す。

ステンドグラス越しに差し込む光が、織田の穏やかな微笑みを映し出す。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

シーン:織田、篠塚からの報告を受ける

場所:軽井沢の別荘(昼)

森に囲まれた静かな別荘。大きな窓から光が差し込み、緑豊かな景色が広がっている。織田がテラスでゆったりと椅子に座り、テーブルには冷えた紅茶と軽食が並べられている。隣には耳の聞こえない女性(美咲)がいて、織田と手話で穏やかに会話をしている。

篠塚昴が外からやってきて、軽く頭を下げる。

篠塚昴:
「織田さん、村上の件ですが、やはり佐伯を支持する形で動きました。そしてその結果、武田は壊滅しました。」

織田理久:
(軽く微笑みながら)
「そうか。村上がうまく立ち回ったようだな。」

篠塚昴:
「ええ。ただし、佐伯がその空白を埋める形で地域を完全に制圧しました。」

織田がカップを手に取り、紅茶を一口飲む。

織田理久:
「予想通りだ。村上が判断を誤らなかったのは喜ばしい。」

篠塚が慎重に言葉を選びながら続ける。

篠塚昴:
「ただ、佐伯の勢力は以前よりも強固になりつつあります。新しい幹部を取り込む動きも見られる。」

織田が少し眉を寄せ、考え込む。

織田理久:
「それが問題だな。佐伯を制御する準備を進める必要がある。」

美咲が軽く織田の肩に触れる。織田が美咲に微笑みながら手話で答える。

篠塚昴:
(少し間を置いて)
「神楽木についても調べましたが、居場所を特定するのは難しいです。彼は民間人でありながら、警察よりも情報収集が巧妙です。」

織田理久:
「そうか。あの男の動きがつかめないとなると、少し厄介だな。」

篠塚昴:
「引き続き、神楽木の動向も追います。」

織田が軽く頷き、再び紅茶を口に運ぶ。

織田理久:
「篠塚、SNSの方は?」

篠塚昴:
「まだ、影響力を持つには数字がたりません。」

織田理久:
「こればっかりは読み切れんからな。セオリー通り進めておけ。金も惜しむな」

篠塚昴:
「それでも伸びなかった場合は?」

織田理久:
「その時はその時だ。いずれにせよ、佐伯が気づかないうちに進めておけ。」

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

シーン:港湾の地域活性化イベント

場所:港湾地区の企業イベント会場(昼)

港湾の物流企業が主催する地域活性化イベント。従業員やその家族、地元住民が集まり、活気に満ちている。会場には地元特産品のブースや子供向けのアクティビティが並び、SNSでのライブ配信も行われている。

壇上には織田理久と、企業の社長である佐伯隆三が並んでいる。司会者がトークセッションを進行している。

司会者:
「さて、続いて織田さんにお伺いします。地域活性化に向けたビジョンを教えていただけますか?」

織田がマイクを受け取り、ゆっくりと立ち上がる。会場の視線が一斉に彼に集中する。

織田理久:
(穏やかな笑みを浮かべながら)
「ありがとうございます。この港湾地区には、豊かな自然と素晴らしい人々がいます。しかし、それだけでは十分ではありません。私たちが本当に誇れる未来を作るためには、解決すべき問題があります。」

会場が静まり返る中、織田が少し声を強める。

織田理久:
「そのために、私は地域から『ギャングを一掃する』ことを目指しています。」

一瞬の静寂の後、会場が大きな拍手に包まれる。SNSのコメント欄にも「素晴らしい!」「勇気ある発言だ!」といった肯定的な意見が並ぶ。すでに織田のアカウントは影響力を持つほどに大きくなっていた。

壇上で横に座る佐伯隆三が、顔を引きつらせる。その表情を目にした何人かの参加者は、織田の発言が佐伯を暗に指していることに気づき、ささやき合う。

司会者:
(少し動揺しながら)
「素晴らしい目標ですね、織田さん。では、佐伯社長にも同じ質問を……」

佐伯が険しい顔でマイクを受け取り、短く答える。

佐伯隆三:
「私たちも、地域を良くするための努力を続けていきます。」

その言葉には熱が感じられず、拍手もまばらだ。

裏での佐伯と村上のやり取り

場所:イベント会場の控室(夕方)

イベント終了後の控室。佐伯が苛立ちを隠せない様子で村上を詰め寄る。

佐伯隆三:
「あいつ、一体何を考えてやがる!俺の目の前で『ギャングを一掃する』だと?あれは俺に対する挑発だ!」

村上啓二:
(落ち着いた声で)
「おそらくそうでしょう。ただ、奴はSNSで支持を集めています。ここで下手に動くと逆効果かと。」

佐伯隆三:
(机を叩きながら)
「逆効果?そんなもの関係ない!あいつを黙らせないと、俺の立場が危ういんだ!」

村上啓二:
「……何をすれば?」

佐伯隆三:
(険しい目で村上を見つめ)
「織田はお前の舎弟だろう。ケジメをつけさせろ。」

村上がしばらく黙り込んだ後、静かに頷く。

村上啓二:
「わかりました。」

佐伯が大きく息をつき、椅子に座り込む。

佐伯隆三:
「あいつが調子に乗る前に、何とかしろよ。」

織田の闇の交渉

場所:クラシックな喫茶店(夜)

高台にある落ち着いた喫茶店で、織田が地元議員と向き合っている。二人の間には薄暗い照明が差し込み、重い空気が漂う。

議員:
(慎重な声で)
「今日の発言は少々リスクがあったのではないか?佐伯が黙っていないぞ。」

織田理久:
(微笑みながら)
「それでいいんです。彼が動けば、こちらが動く大義名分ができる。」

議員:
「だが、彼を潰すとなると、港湾地区全体が混乱するぞ。」

織田理久:
(静かに紅茶を飲みながら)
「むしろ、混乱がなくては再生はできません。佐伯を組織から追い出せば、会社も地域もクリーンになります。」

議員:
(疑念を抱いた表情で)
「本当にそれで良くなるのか?」

織田理久:
(穏やかな口調で)
「私ならそれを実現できます。どうですか、一緒にやりませんか?」

議員が考え込む様子を見ながら、織田が静かに微笑む。

いいなと思ったら応援しよう!