映画館で、このシーンつまんないなって思いながら笑えるときこそが最高の瞬間だ
阿佐ヶ谷のミニシアターでウォン・カーウイの「恋する惑星」を見た。
邦題である「恋する惑星」、原題は重慶森林、Chungkin Express。1994年公開の香港映画である。映画好きな方々も多いと思うので、内容については僕が述べるまでもない。
結論から言って、アジア映画で一番だと思った。
金城武の若き輝き、トニー・レオンの佇まいにはアジア人男性の最高到達点の感がある。ある日付の賞味期限を書いたパイン缶、カラーレンズのサングラス、航空券を書いた手紙など、恐ろしく洒落たアイテムやシーンが満載で、音楽までも素晴らしい。夢中人、California Dreamin'...
映画が専門でもない僕に小難しい評論はできないので、いち若者としての感想を載せる。
伝えたいのは、良い映画には必ず全力で走っているシーンがあるものだ という事実。そしてこの映画の最高のシーンのこと。
全力ダッシュの法則
素晴らしい芸術作品には、(少なくとも僕の好きな作品には)必ずと行っていいほど全力で走るシーンがある。
ここで僕が言う「素晴らしい芸術作品」とは、巨匠の作った時代を超えて愛される万世共通の価値ある作品というよりは、なぜだかわからないけれどその瞬間に沢山の偶然が重なった結果生まれた奇跡のようなものを想像してほしい。その人のある人生の途中でふと出会い、その生き方にほんの少し影響を与えるようなもの。きっと誰にでもそんな尊い心の拠り所となる作品があるのではないか。誰がなんと言おうと、僕は好きだといえるものが。
僕は、全力でとにかく走っているシーンが好きだ。その瞬間こそが映画の魂である。流れる景色の撮り方や音楽のセレクト、沢山の技術的な要素がそこに凝集される。有名所では「マッドマックス」、60sでは「スパルタカス」もそうだったか。広義のダッシュとして自転車のシーンが素晴らしい「ヤング・ゼネレーション」も挙げておきたい。アニメーションではたしか「かぐや姫の物語」がすごかった。漫画では(大嫌いだが)「東京大学物語」の最初の数巻がそうだった。
決して有名な作家や監督でなくとも、ある一人の人間が、彼の人生のある一瞬の局面で、無意識的に自身でさえ二度と作れないような美しいものを作ることがある。
僕はそれらを素晴らしい芸術作品と呼びたい。
それらを見つけるために、僕はどんな作品に対しても真正面に向き合おうと思う。
それは正座をして血眼になって画面を凝視することではない、
古い映画館の椅子の上で、ぼーっと「つまんないなあ、このシーン」なんてつぶやきながら、映画音楽にゆらゆら身を任せていることだ。これこそが最高の映画の楽しみ方だと思う。
恋する惑星を観ていて、こう思った。
「金城武の走り方変だな。でも、最高だな、このシーン。」