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クラファン途中でブレーキをかけた理由

私は、誰でも弾ける楽器「インスタコード」のクラウドファンディングで7900万円の支援を集めました。
この話をするとたいてい驚かれるし自己紹介の良いネタなんですが、個人的にはこの数字を自慢する気持ちはありません。

なぜなら一般発売後の売上は既にクラファンの実績を超えていますし、実はクラファン実施中に、支援が増えないようブレーキをかけていたんです。

クラファンの「売れる法則」を無視

電子楽器インスタコードのクラウドファンディングは、先人が培ってきた支援を増やすためのテクニックをあえて使わなかったので異例ずくめのプロジェクトだと言われました。

異例1:目標金額5000万円

購入型クラファンの多くは目標金額100万円~1000万円の間に設定されていますが、目標金額を高くすると様々なデメリットがあります。

1)達成率の数字が小さくなる
たとえ支援金額が5000万円を超えても広告等で「1000%達成!」といった派手なうたい文句を使いにくくなります。

2)目標をクリアできなんじゃないかと心配される
目標金額が高すぎると「達成はムリそうだな」と思って支援をためらう人がいます。インスタコードも5000万円を達成したのを確認したあとで支援した人がかなりいました。

3)達成しないとクラファン会社にお金が入らない
クラウドファンディングの運営会社の収益は、支援金の手数料(10~20%)ですが、プロジェクトが達成しないとクラファン会社の収益はゼロになります。

4)達成しないとクラファン会社が存続の危機
もし目標金額を達成できなかった場合、数千万円分の審査だけ行って決済は実行されないことになるので、クラファン会社はクレジット会社からの信用を失い、場合によっては取引停止になる恐れすらあるそうです。

上記のような理由から、クラファン会社は目標金額5000万円というプロジェクトをやりたくないのです。とある会社からは「他でちゃんとお金を集めてから来てください」と言われたこともあります。
(…それって何のためのクラファン?)

でも、最低でも5000万円は達成しないと量産ができないことが分かっていたので、目標金額は死守しました。

異例2:割引特典なし

購入型クラウドファンディングは、通常、「早期割引特典」を用意し、いち早く支援してくれた人ほど安く購入できるようにします。
「この価格は今だけ!」と煽って背中を押すんです。

でも私は早期割引特典を導入しませんでした

だって、後でクラファンのページを見た人が「こんなに安く買った人がいるんだ」と気づいたら、残念な気持ちになるし、購入を躊躇しませんか?

「値引き販売」は、売り手側の「売れなかったらどうしよう…」という不安な気持ちを解消させるための手段にすぎず、全てのお客さんを幸せにする手段ではないと思うので、導入しませんでした。

異例3:商品が届くのは1年後

2010年代前半は、製品開発の資金を集めるクラファンが数多く実行されていたので「届くのは1年後」というのは当たり前でした。

しかし、計画性の甘さにより何年経っても製品を届けられないとか、計画より品質の劣る製品が届くといったトラブルが多数発生したため、2020年頃には審査が厳しくなり、既に完成している製品や、製品化がほぼ決まっているものしか掲載されなくなりました。

おかげで、通販のように気楽に支援できるプロジェクトが増えたのですが、インスタコードのような「ガチの開発案件」は日本では珍しかったので、1年後に製品が届くという点に支援をためらった人も多かったようです。

異例4:実機に触れない

当時は試作機が3台しかありませんでした。

ライターやインフルエンサーに貸し出すにもスケジューリングで一苦労しましたし、体験会なども数回しかできませんでした。

実機に触った人は、必ず「想像してたよりも良い」と言ってくれるだけに、触れる機会をほとんど作れなかったことは、かなりのマイナスになったと思います。

上記のように、売れる法則を無視した悪条件のクラファンにも関わらず、私の考えに共感し協力してくれたのが kibidango(きびだんご)でした。

クラファン終盤でブレーキをかけた

宝くじは買わないと当たらないのと同じように、クラウドファンディングの支援を集めるためにはまず知ってもらわないといけません
そのために主に「ネット広告」を使って認知を広げました。

毎日新しい広告を作って、少しずつターゲットと広告の内容を変えながら反応率を分析して広告を出していました。
最終的には、広告費を約2,000円使う毎に予約が1台入るようになりました。

でも、目標の5000万円を達成した時点で広告を一旦ストップしたんです。

今だから言えますが、クラファンの運営会社の人からは、「もっと上を目指しましょうよ」と言われましたが、「あまり売上を増やしたくないから」と言って、ブレーキをかけたんです。

ブレーキをかけた理由

売上を増やしたくなかった理由には、私のこだわりがありました。

クラファンで終わる製品にしたくない

世の中にはクラファンで売り切って終わり、とか、クラファンでヒットしても一般の人には知られていない商品もたくさんあります。
日本でクラファン発のヒット商品と言えば、照明型プロジェクタの「popIn Aladdin」くらいでしょうか。

インスタコードは、クラファンで売り切って終わりという製品にしたくありませんでした。その後も世界中で「ふつうの楽器」と認識されるまで育てることが私の使命だと考えているので、正直なところクラファンの実績なんてどうでも良かったんです。

あくまでテストマーケティング

クラファンの目的は、資金集めと市場調査と位置づけていました。
来るべき「本番」…つまり一般販売すれば何倍も売れるというデータは揃ったので、クラファンでの実績を無理やり増やす必要は無かったんです。

商品が完成したあとの方が売りやすい

ネットを見て興味を持っても、実際に触ることなく購入する人はごくわずかです。なら、今じゃなくて、製品が完成して、色んな場所で試せるようになってからのほうが売りやすいし、広告効果も高まると思いました。

初期不良が怖い

ソニーやシャープといった大手メーカーでも、初期ロットで不良が大量に発生して製品を回収することは少なくありません。
今まで前例のない製品をゼロから作るのでそのリスクは比べ物になりません。初期不良が怖かったので初期ロットの数はなるべく抑えたいと思ったのです。

とはいえ大変だった

そんなこんなで、支援金額を無理やり増やして記録を作ることを目指さなかったので、日本限定で実施した初めてのクラファンは7900万円という結果になりました。

まぁ、本音を言えば10万ドル(1億円強)の実績を作りたいという気持ちもあったので葛藤はありましたが、今思えばこの程度が妥当だったと思います。

とはいえ、これだけの支援が簡単に集まったわけではありません。
毎日必死になって、神経をすり減らしながら約2ヶ月を過ごしました。

次回はいよいよ、どうやって7900万円の支援を集めたのか、その裏側を包み隠さずお伝えしたいと思います。

このnoteでは、私がハードウェアスタートアップの起業で経験したことや、失敗しないものづくりのノウハウなどを書いています。

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私の開発した楽器インスタコードにも興味を持っていただけると嬉しいです。

インスタコードHP

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