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【卒論研究】『インスタ映え』と観光のまなざし —ホスト・ブローカー・ゲストの対応をめぐって

ご覧いただき、ありがとうございます。

駒澤大学文学部地理学科4年 鈴木健太と申します。

このページでは、現在実施しているWEB調査「『インスタ映え』ブームと観光行動に関するアンケート」についてご説明致します。

なお、まず先にWEB調査について(簡潔な本研究の目的や方向性を交えて)ご説明した後、この研究の詳細や参考文献について掲載致します。もしご興味がございましたら、スクロールしてご覧ください。

アンケートはこちら
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScau_zJYUDw17-jFGASLWKZAjnmFNKS2CO_Au9D-s2g9KIt6A/viewform?usp=sf_link

【WEB調査の目的や方向性】

 この研究は、「インスタ映え」ブームにおいて、SNSの一般ユーザー(≒観光する人)と地域(≒観光者を受け入れる人)、そして両者を仲介するインフルエンサー、この三者がどのように相互が作用してきたのかを明らかにし、地域とメディアの関係性について考察するものです。

 そもそも、「インスタ映えブーム」は、おもに写真共有SNSであるInstagram上で、フォトジェニックな写真を盛んに共有が行われる現象ですが、観光分野でもこのブームを活用する動きが出ています。具体的な事例は以下の通りです。

①自治体、地元組織、観光事業者、鉄道会社等による「インスタ映え」発信
近年の「インスタ映え」ブームを受け、「フォトジェニック」な観光地や景色、建築物を宣伝

・JRによるインスタ映えする伊豆の写真を募集キャンペーン
『#いずこい』https://camp-in.jp/izukoi/
・各自治体の「インスタ映え」ブームを受けた発信・観光まちづくり
『観光客誘致にSNS活用 国や自治体で取り組み加速』https://www.yamatogokoro.jp/report/22935/
『和歌山県広報』
http://wakayamapr.ikora.tv/e1124692.html

②自治体、地元組織、観光事業者、鉄道会社等が「インスタ映え」の対象を創造
観光事業者等が「インスタ映え」観光者の増加をねらい、既存の観光施設にライトアップや装飾を施し、新たな観光対象を創造している

・草津温泉湯畑のライトアップ
『100年先に通用する景観 湯畑再生&ライトアップでV字回復』https://www.sankei.com/premium/news/180125/prm1801250003-n1.html
・JRによる「インスタ映え」する観光列車の運行
『忍び列車の内装一新、インスタ映え狙う』https://www.sankei.com/west/news/200329/wst2003290009-n1.html

③ 主にSNSユーザーの発信による観光地の創造
「インスタ映え」ブームにより、SNSユーザー(写真家など)によって新たな価値や意味づけがなされた景観、それを活かした観光地が生まれる

・千葉県 濃溝の滝(もともと農業用水用の水路が「インスタ映え」ブームにより観光地化)
・香川県 天空の鳥居(「インスタ映え」ブームにより観光地化され、自治体も「絵になる場所」を集めたプロモーションを実施)
『インスタ映え「天空の鳥居」アニメファンも巡礼』
https://www.sankei.com/west/news/191107/wst1911070007-n1.html
・江川海岸 海中電柱(「インスタ映え」ブームにより密漁監視小屋への電柱が「日本のウユニ塩湖」として観光地化。オーバーツーリズムと老朽化により一部電柱が撤去、漁業組合がマナー遵守を呼び掛け)
・北海道美瑛 パッチワークの農場(「インスタ映え」ブームにより農地が観光地化、オーバーツーリズムとなり、農家が対策を実施)

④ インフルエンサーの存在
福井(2019)「観光・レジャー情報を積極的に発信し、社会関係を介して一定数の他者に影響を与える少数のキーパーソンが存在する。」
インスタ映え観光における「インフルエンサー」の存在=インスタグラマー(インフルエンサー)による撮影代行を行う企業
・『SNAPLACE』 https://snaplace-corp.jp/buyimages/
「インスタ映え」する「スポット」を集めたサイトを運営。Instagramの運用・撮影代行やインフルエンサーの派遣、インスタグラマーや「インスタ映え」スポットなどの発掘を行っている。

 これらの事例を踏まえ、論題にもあるように、まずはゲスト(観光者)・ホスト(観光事業者や地域)・ブローカー(インフルエンサー)の三者に立ち位置を分類しました。 

 そして、ホスト・ブローカー・ゲストのそれぞれが、Instagram、あるいはこのブームを様々な形で、観光において活用してきたか、ジョンアーリーの『観光のまなざし』を元に明らかにしたいと思います。具体的には以下の通りです。

【ゲスト】(おもにこのWEB調査を用いて調査を行います)
・Instagramを用いた旅行先の情報収集について
・Instagram上でどのように旅行体験を共有しているか 等
「事前に確認した旅行先に関するInstagramの投稿を見て、どのようなイメージを抱き、その投稿を元にどのように実際に旅行をしたか」
「旅行先でどのような写真を撮影し、投稿をInstagram上で行ったか」

【ブローカー】
・観光地をどのように「インスタ映え」演出してきたか
・ホストからどのような依頼を受け、ゲストにどのようなまなざしをもたらしてきたか 等

【ホスト】
・「インスタ映え」ブームをどのように観光振興に活用してきたか
・「インスタ映え」ブーム以前・以後での訪問者の変化や地域経済への効果、対応 等

 ※ゲスト向けWEB調査を元に、「インスタ映え」ブームを観光振興に活用されている観光事業者の方への聞き取り調査や、「インスタ映えスポット」(「インスタ映えブーム」によって観光地化された場所・「インスタ映え」を活用している観光地)などで訪問者への聞き取り調査や周辺施設の調査を行いたいと考えております。

 お手数ですが、このWEB調査へのご協力を頂ければ幸いです。

【私が考える地理学と「インスタ映え」ブームの関係性について】

 「インスタ映え」と地理がどう関係するの?とよく聞かれることがありますので、私が今考えている「インスタ映え」ブームと地理学の関係性について、ご説明致します。

 「インスタ映え」ブームと地域との関係性を明らかにする先行研究として、以下が挙げられます。

①田尾彩美・小舘亮之(2017)『ソーシャルメディアが観光に与える影響について ~ Instagramへの投稿事例分析を中心として ~』、信学技報、vol. 116、no. 488、LOIS2016-83、p.117-122

 この研究は、Instagramに投稿された写真やハッシュタグなどの投稿内容を分析し、観光地に関する写真投稿の法則性や人気となる観光地の特徴を見出し、Instagramと観光地の関係性を考察するものです。なお、情報通信・情報分析分野での研究です。ジョン・アーリ『観光のまなざし』や、ブーアスティン『疑似イベント論』、マッカネル『演出されたオーセンティシティ』など、観光学者の先行研究を冒頭で引用しています。

②福井一喜(2019)『東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用―「SNS映え」を超克する若者たち―』、E-journal GEO、14(1)、p1-13

 こちらは地理学の立場から、「都市部と非都市部の情報環境
の差異と、SNS上での影響力の個人差に着目し、東京大都市圏に居住する若者が観光・レジャーの情報の探索と発信においていかにSNSを利用しているのか」について明らかにしています。また、この研究に先立って、「東京大都市圏に居住する若者を対象とした観光・レジャーにおけるSNS利用に関するアンケート調査(2018)」も行われています。

 具体的には、都市部・非都市部における観光資源・観光情報の量的な差異が、SNS上で、ユーザーの「見る」・「見られる」関係性、すなわち情報発信・収集の差異を生みだしていることを示しています。これまで観光分野において検討されてきた「個人の観光行動とSNSの関係性」に対し、都市部・非都市部では目的・方法が異なるという新たな結果を明らかにしました。

 加えて、「影響力を持つ若者たちは安易な『SNS映え』の凡庸さを鋭く見抜き忌避する厳しい批評眼も持っている」と指摘しており、若者が「SNS映え」ブームを無批判に受容しているわけではない姿を示しています。

・ジョンアーリ(2014)『観光のまなざし 増補改訂版』、法政大学出版局
・金成玟・岡本亮輔・周倩編著(2017)『東アジア観光学 まなざし・場所・集団』亜紀書房.

  論題でも用いている「観光のまなざし」は、社会学者のジョンアーリ(2014)の『観光のまなざし』から得ているものです。アーリは、ミシェル・フーコーの「まなざし」の概念を用いて、近代の観光現象に迫ろうとしており、「観光とは、日常から離れた景色、風景、町並みなどに対してまなざしを投げかけること」と述べています。『観光のまなざし』は、社会学をはじめ、地理学者や観光学者からも参照されています。

 私の卒論研究と関係する内容として、とりわけ「写真と観光のまなざしの関係性」について、「写真が景観に意味づけを行い、受容者にストーリーを提供した」、「現代の観光とは『写真になりそうなところを探し求める行為』」とアーリ(2014)は述べています。

 これらは必ずしも「インスタ映え」ブームとは直接的に関係しない文献ではありますが、地域とメディアの関係性について考える際に、「観光のまなざし」、「地域イメージ」、「ユーザー同士の関係性」の三要素が重要な視点であることを示していると、これらの文献を元に考えています。

 「インスタ映え」と地理学がどのように関係するのか?という問いに戻ります。先述の通り、一般Instagramユーザー、職業化したインフルエンサー、Instagramを活用する各事業者や行政、それぞれの主体がこのブームを観光において活用してきました。それゆえ、「インスタ映えブーム」から地域とメディアの関係性について考えることは、地域と文化の関係性や、空間と社会現象の関係性の研究がなされてきた地理学において、一定の意義があると私は考えています。

【研究の目的・概要】 

 近年、スマートフォンの普及やSNSの流行とともに、SNSで話題になった場所が観光地化される動きが盛んである。特に、Instagramは「インスタ映え」ブームと称され、Google Trendsによれば、流行は2018年4月がピークとなっている。同時に、「インスタ映えスポット」と呼ばれるフォトジェニックな写真を撮影する場所への注目が集まった。
 もとよりメディアや写真技術の発展と観光の関係は切っても切れない関係である。ジョンアーリは『観光のまなざし』(2014)において、「ある特定の景色へのまなざしは、その個人の体験や思い出によって決まり、その枠組みは規範や様式で決まり、また流布しているあれこれの場所についてのイメージとテクストにもよる。こういう『枠組み』は、決定的な動機、技法、文化的なメガネとなって観光者が、具体的な物や実態的な場所を『面白い、いい感じ、美しい』と見るより先に、先行してそう見えるようにしてしまっている。」、「写真が景観に意味づけを行い、受容者にストーリーを提供した」、「現代の観光とは『写真になりそうなところを探し求める行為』」と述べている。地理学的に言えば、写真をはじめメディアは、人々に「観光のまなざし」すなわち「地域イメージ」と「景観に対する人々の価値観」の変化をもたらしてきたと言える。
 近年では、従来の観光地に加えて、映画やドラマ、アニメの舞台となった地域を訪れる「聖地巡礼」や「コンテンツツーリズム」が著しく発展している。このような観光形態は「メディア誘発型」とも称され、海外では20年近い研究の蓄積がある(鈴木、2009)。また、ブーアスティンは『幻影の時代』において、観光客の観光地における「経験」を「疑似イベント」とし、「観光とは本物を求める旅というよりもイメージを求めるものである」と性格づけたという(王屹、2015)。「疑似イベント」になぞらえて言えば、写真によって創出されたイメージすなわち「観光のまなざし」を観光地に投げかけるということである。
 「インスタ映え」ブームでは、「観光のまなざし」を向けられる地域の基準は「インスタ映えする」景観をもつ地域であり、「インスタ映え」すればどこでも「観光のまなざし」が向けられることとなった。イメージを元に「観光のまなざし」を投げかける点については、「コンテンツツーリズム」や「メディア誘発型観光」と共通している。しかし、SNSは誰でも情報発信の担い手になることができるため、誰でも「観光のまなざし」を創出することができる点で、これまでの「コンテンツツーリズム」や「メディア誘発型観光」とは異なる点であると言える。ただし、福井(2019)によれば、「①観光・レジャーにおいてSNSは情報探索に広く用いられているが、情報発信を積極的に行うものは少数であること、②情報探索時には,友人や知人などとのSNS上での社会関係を介して得られる観光・レジャー情報が重要視されていたことが明らかとなった。つまり観光・レジャー情報を積極的に発信し、社会関係を介して一定数の他者に影響を与える少数のキーパーソンが存在する。」、そして「多数の人々に影響を与える少数のSNSユーザーは『インフルエンサー』と呼ばれ注目を集めている」という。すなわち、SNS上では誰しもが「観光のまなざし」を創出できる可能性があるとはいえ、実際にまなざしを創出する担い手になる人物は「インフルエンサー」という存在であり、この「インスタ映え」ブームの観光において、ブローカーにあたると考えられる。
 以上を踏まえ、「インスタ映え」ブームの観光において、ホスト(観光地)、ゲスト(来訪者)、ブローカー(キーパーソン、「インスタ映え」ブームの観光における「インフルエンサー」)の三者に着目し、それぞれがどのように「観光のまなざし」を構築し、相互に関わり合っているかを研究することで、「メディア誘発型観光」の一つである「インスタ映え」観光の構造を明らかにすることができると考えられる。

【参考・引用文献】
・John Urry(2014)『観光のまなざし 増補改訂版』、法政大学出版局
・福井一喜(2019)『東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用―「SNS映え」を超克する若者たち―』、E-journal GEO、14(1)、p1-13
・朝倉槙(2014)『生活空間への観光のまなざしと住民の対応 ―徳島県三好市東祖谷地域を事例として―』、人文地理、66(1)
・中谷 哲(2007)『フィルム・ツーリズムに関する一考察 : 「観光地イメージ」の構築と観光経験をめぐって』、奈良県立大学研究季報、第18巻
・田尾彩美・小舘亮之(2017)『ソーシャルメディアが観光に与える影響について ~ Instagramへの投稿事例分析を中心として ~』、信学技報、vol. 116、no. 488,、LOIS2016-83、pp.117-122
・鍋倉咲希(2016)『文献研究 観光のまなざし 増補改訂版』、立教観光学研究紀要、第18号
・王屹(2015)『中国人観光客における日本観光の〈オーセンティシティ〉―観光政策と観光産業の狭間で体験する日本―』、Core Ethics Vol. 11
・周藤真也(2016)『アニメ「聖地巡礼」と「観光のまなざし」 ─アニメ『氷菓』と高山の事例を中心に─』
・株式会社JTB総合研究所(2019)「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査」https://press.jtbcorp.jp/jp/2019/11/20191111-souken.html
・法政大学国際文化学部「変化するまなざし ―SNSによる観光行動とその弊害―」
http://hdl.handle.net/10114/00021672
・2019年のインスタ映えスポットランキング SNS投稿データを分析した結果は?https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1912/24/news082.html
・100年先に通用する景観 湯畑再生&ライトアップでV字回復
https://www.sankei.com/premium/news/180125/prm1801250003-n2.html
・写真をシゴトにしたい旅人集まれ!「旅 × Instagram」に興味のある旅人募集!https://www.sagojo.link/work/show/30
・本当に「地方活性化の鍵」なのか?「インスタ映え」のダークサイドhttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/54354
・インスタ映え「天空の鳥居」アニメファンも巡礼
https://www.sankei.com/west/news/191107/wst1911070007-n1.html
・大迷惑の「インスタ映え」優先行為、発端はインフルエンサーか?名物の木を切り倒す自衛策まで…クラウドファンディングで対策講じる農家【北海道美瑛】
https://honichi.com/news/2019/07/01/bieiovertourism/#bieiovertourism-2
備考
【先行研究】
・田尾彩美・小舘亮之(2017)『ソーシャルメディアが観光に与える影響について ~ Instagramへの投稿事例分析を中心として ~』、信学技報、vol. 116、no. 488、LOIS2016-83、p.117-122
・福井一喜(2019)『東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用―「SNS映え」を超克する若者たち―』、E-journal GEO、14(1)、p1-13
・金成玟・岡本亮輔・周倩編著(2017)『東アジア観光学 まなざし・場所・集団』亜紀書房.



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