![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149805313/rectangle_large_type_2_6f4f34d1b92d9a046c971df46ea7c11f.jpeg?width=1200)
古琉球の光と唄
52破【アリストテレス賞:大賞】
『古琉球の光と唄』
原作 :
スター・ウォーズ:シリーズ「エピソード4-新たなる希望」
ワールドモデル:
15世紀はじめ、琉球が王国になる前夜の古琉球時代。白い砂浜と青い海の宮古で暮らす海人の少女は、海宝石の勾玉によって海神に召命され、セジと呼ばれる霊力の術師、神剣を持つ倭寇に導かれ、解放の旅に出る。
狙いの一言 :
琉球の美しい海が舞台の冒険活劇!封印された力を解き放ち、光の唄で世界を包み、輝かせる。
キャラクター :
〈原作での名前〉 → 〈回答での名前〉
・ルーク・スカイウォーカー → スイ=水蓮(スイ・レン)
・オビ=ワン・ケノービ → 梁=梁仁(ヤン・ジン)
中国語のリャンが転じてヤンに、仁をつなぐものという意味。
・ハン・ソロ/レイア姫 → 彗羽(イーファ)=彗太玖(イータイク)
当て字です彗星のスイで、イだけ残しました。
室町時代ハはファと発音してたそうなので。
・ダース・ベイダー → 黒蝶妃
・ドロイド → 颯(ハヤテ)、精霊、ニライカナイよりの海神の使者
・ルークの叔父 → 凛(リン)
・アナキン・スカイウォーカー → 月清(ツキキヨ)
・マスターヨーダ → 徳蓮
・ジェダイの騎士 → セジ術師/二ライ神女
・ライトセーバー → 神剣、金環丸
・フォース → セジ
・密輸船ミレニアム・ファルコン号 → 倭寇船(海賊船)天妃号
・ランドスピーダー(ルークの乗り物) → 鱶舟(サバニ、小型漁船)
・クローン戦争 → 紅賊の乱
・帝国軍の超兵器デス・スター → 黒蝶の呪い
・暗黒面 → ヤナカジ (悪霊、闇の王)
・宇宙 → 二ライ・カナイ/海神(ワタツミ)
……
『古琉球の光と唄』
1 海神の使い
この世で一番美しいのは宮古の海だ。鱶舟が宙に浮いて見えるほど透明な、青の中の青。磨くと虹色に輝く夜光貝を海底で見つける。体は子どもだけれど、私は宮古の海人の中で一番深くまで潜れる。
17歳の誕生日。育ての親、梁と凛がお祝いだと、艶やかな黒漆に螺鈿の櫛をくれた「スイは髪が綺麗ね、よく似合うわ」と凛が笑う。二人が大好きだ。私の親は誰なの?聞くと疫病で死んだと言う。瞳の色から何か隠しているとわかる。体が育たないのと関係しているのかな。溢れる心許なさを吐き出したい。唄声が出ないのが苦しい。
その夜、夢の中で声がした「御嶽にまいれ、知りたいことを教えよう」飛び起きたら、月が明るかった。気配を消して薄闇の中、古代からウプキの森にある御嶽に向かう。私達が祈りを捧げる場所だ。中に進むと、祠の奥から蒼い光。組まれた珊瑚岩を動かすと木箱が現れ、開けると宮古の海の色、手のひら半分はある美しい海宝石の勾玉があった。いくつもの水晶珠が連なり2尺はある。思わず手に取ると、勾玉は仄蒼く輝き始め、頭に声が響いた「私は海神ワタツミ様の使い、颯」。風がくるくると円を描き、何かがいる気配がする。「邪悪な神女黒蝶が人々を苦しめ、琉球の気が穢されておる。お前にそれを祓い海神様を助けて欲しい。体が育たぬ訳は梁に聞け。悪霊がそなたの家に向こうている、勾玉を持ち、早う帰るのじゃ」。
2 涙の夜明け
夜明けに向かって走り家に辿り着くと、梁が剣を振り翳し禍々しい影と戦っていた。足元には凛が血まみれで倒れていた。「凛!嫌っ!」私は叫び、梁が目を向けた時、夜明けの光が差し影は消えた。
凛は梁の腕の中で、私の胸に輝く勾玉を見つめ「スイ…無事で良かっ…心配…してたの」と微笑み息絶えた。訳が判らず号泣し、御嶽で起きた事を伝え尋ねると、梁は苦渋に満ちた顔を見せた。「スイは名門三家の一つ蓮家の長で琉球随一の神官、徳蓮様の孫。琉球を救う二ライ神女との託宣を受け、月清の元に生まれた。真の名は水蓮。成人するまで見つからぬよう、徳蓮様が神女の力を勾玉に封じたのだ、それで体が成長しない。私はセジの術師、梁仁だ。黒蝶が企てた紅賊の乱で、一族は皆死んだ。スイには黒蝶を封じる天命がある」強く抱きしめられた腕の中で「梁、私を助けて」と呟いた。
凛を埋葬し、私たちは黒蝶がいる沖縄島に向かうことになった。
3 剣の使い手
珊瑚礁を避け、帆が風を孕み鱶舟は進む。こんな沖まで出るのは始めてだ。遠くに大きな黒塗りの船が見える「倭寇船だ」。梁が呟いてから、見る間に詰め寄られ、鉤縄を投げ込まれ舟は捕まった。
倭寇船は船尾に明の女神が描かれていた。縄梯子が下ろされ、船上から強面の男が上がってこいと身振りを見せる。不安になりどうするのかと梁の顔を見ると、なぜか不敵に笑っている。甲板にあがるやいなや、梁は空中に舞い上がり回転しながら倭寇の長剣を奪い、手から閃光を放ちながら次々と彼らを倒す。「強え!」「速過ぎだろ!」屈強な男どもが梁を囲み動けない。ゆらり、甲板下の船室から背の高い優男が出てきた。金環光る細身の長剣を持っている。梁が剣を見て驚く。男は剣を抜き、舞うように振り上げ、打ち合う二人の剣技は見事な乱舞だった。どれほど打ち合っていたのか。男は突如構えを解き、剣を鞘に納め礼を執り言った。「蓮家のセジ術師、梁仁殿とお見受けいたす」優男は天妃号の火長、彗羽と名乗った。
船室に招かれた。倭寇は強い男が好きらしい。皆笑顔で梁の杯に次々と酒を注いでいる。「俺は三家の一つ、太玖家の三男だった。お前の年頃に進貢船で明に留学するはずだったのだ」私を子どもに見る目つきに無性に腹がたつ。倭寇に捕まり、頭領に気に入られ跡取りに据えられたのだと言う。17年前の紅賊の乱で、一族は根絶やしにされたが、海にいた彗太玖は彗羽として生き延びたそうだ。
私が託宣を受けて生まれた二ライ神女だと聞き、目を見張り、射抜くように見つめられた。「黒蝶は悪霊を呼び込み尚家を支配し、三家を争うように仕向け、蓮家と太玖家を滅ぼした。琉球に怨嗟を撒き散らし、人心は乱れ大気が穢れ、海は荒れている」。「どうにかして水蓮様の封印を解き、彼奴を倒さねばならぬ」。梁の言葉を聞き、「助太刀しよう」と彗羽は力強く言い、倭寇達が笑った。
4 闇からの瘴気
商船を装い、浮島那覇に私達の天妃号は入港した。上空は暗雲。人々は脅え蠢いているように見える。港で馬を調達し商人のふりをし、黒蝶がいる尚橋王の館を目指した。「封印を解くために魂の叫びが必要なのだ」夢の中で梁の話し声が聴こえた。途中兵に襲われたが倭寇達は強く、彗羽と梁の剣技は鬼神の如き凄まじさ。尚橋王の館までなんなくたどり着いたが、館に入った途端、死霊と化した兵に囲まれた。梁や彗羽が切っても切っても蘇る、黒蝶の罠だった。
「久しぶりじゃな梁仁!」黒い瘴気に包まれた女が甲高い声をあげた。「黒蝶!」刹那、梁が透き通る眼差しで私を見つめた。黒蝶が手を振り被り、瘴気の剣が梁を斜めに切り付ける「梁避けて!」叫んだが梁は切られ、黒い霧と化して消えた。「うあーーっ!」絶叫しながら無我夢中で彗羽の剣を奪い、黒蝶に突き進む。「闇の王ヤナカジ様よ、お求めの二ライ神女ですぞ」笑う黒蝶の背後に濃い闇が立ち上がる。悍しい怨嗟が、奔流となって襲いかかってきた。剣を振りかぶると勾玉から閃光が流れ込み、闇もろとも黒蝶を2つ
に裂いた。「あああああーっ!」黒蝶か、自分の声なのか判らない。声は止められず身体が拓いてゆき楽器となる。勾玉が炸裂し、光の奔流が渦を巻き体中を駆け巡る。細胞が全て霧散し肉体は消えた。
5 光の唄
四方は白い光に包まれていた。はるか下方に琉球の海が見える。肉体は存在せず、白金に光る楕円の光の珠となっていた。海神ワタツミの思念が直接魂に響く。“ここは二ライカナイ。琉球の海と時空が重なり存在する。全てに我はいる、人の魂はここにたたみこまれている。そなたは我とひとつになることで、あらゆる魂を浄化し、時空を超えられる。太古の神々の契約で、我は人の世に直接関与できぬ。二ライ神女だけに力を貸せるが、そのために神女は一度、人の体を捨てねばならぬ”。祖父徳蓮、母月清、凛、そして梁。みんなここにいて微笑んでいた。すべての命はここに還るのだと悟った。
永遠のような一瞬。魂が尚橋王の館に帰されると、光の粒が私の体を創り始めた。すんなり伸びる長い手足、細い腰に豊かな胸。喜びと愛が溢れ、唄っていた。「光よ、清めたまえ。悪霊と化したかつての英雄よ、鎮まりたまえ」両手から生まれた光の珠が放たれ、唄声と共に大きくなり周囲を包み込む。光は大きな柱となり、黒蝶や数多の死霊悪霊どもを道連れにして天に登った。
正気を取り戻した尚橋王は、鎮魂祭を執り行った。紅賊の乱で尚家から失われたという、琉球を守る神剣、神器である金環丸を彗羽が返す。私は美しい着物を着せてもらい、祝福の唄を歌う。想いは全て光の唄となり、世界を包み輝く。尚橋王は私に剣を捧げ「海の瞳持つ、美しい二ライ神女水蓮に、琉球の平和を誓う。妃として余を助けて欲しい」と跪いた。私は首を振り「琉球の繁栄と平和を宮古の海で、静かに祈り暮らしたいのです」と彗羽の方を見て告げた。
天妃号から小舟で宮古の白浜に降りた。彗羽は私の髪を手に取り、
そっと口付けてから「そなたに逢いにまた来よう」と囁いた。
◆講評◆
3000字でこの大作を壮快に語り切ったことにも驚くのですが、登場人物の機微を切り取る場面化の技にも感嘆しました。透き通る眼差しは自己犠牲を伝え、髪をすくう仕草が恋慕を物語る。手に汗握る剣舞からの鮮やかな拝礼に、身体ごと解放される魂の奔流。見どころを挙げればキリがないですが、野暮を承知で煎じ詰めれば、加藤さんには場面の隅々までが本当によく“見えて”いるのですよね。ホスピタリティあふれるカメラの躍動ぶりは心憎いばかりです。
と同時に、読み手としての渇望と願望をよくご存知。書き手と読み手の間を自在に行き来しつつ、きっと誰より楽しみながら、主人公と喜怒哀楽を共にしたもうひとつの英雄伝説。加藤さんが幼い頃から培ってきた憧れと好奇心の種が、今こそ大輪の花を咲かせました。
実はスター・ウォーズの翻案はけっこう手強いのです。翻案側のワールドモデルがしっかりしていないと紋切りやご都合主義になりかねませんし、敵対勢力の世界観が充分に深刻な脅威でなければ、闘争も勝利も拍子抜けになってしまう。その点、敵もがっつり強かった。苦悩も喪失も犠牲もありました。そして主人公が世界を引き受けて闘争し、覚醒して勝利を手にする。エンタメ性と神話性のバランスも絶妙。じつに痛快でした。人々が読みたいと希うものを漏らさず編み上げた、テレスでアリスな本作にアリストテレス賞大賞を贈ります。
講評=評匠:福田容子