Jackson Hole 2023 パウエル議長の講演を読んでみよう①
2023年ジャクソンホール会合でのFRBパウエル議長の講演を聞いていて「ん?」となった個所その1。
難しい単語はないし、言っていることもなんとなく分かる気がするけれども、日本語話者の脳みそには(少なくとも私の脳みそには)負担の大きい文章だったので、Transcript を読んで、まるで大学受験生のように構文解析と洒落込んでみました。
以下、太字の部分の構文解析をしてみましょう。
構文解析
文の大枠は、two months of good data が主語、the beginning of what … toward our goal が補語の第2文型。ここまではOK。でも、補語がとても長い。そこで焦点を補語の部分に絞って、補語の部分を構文解析してみましょう。
まず、補語「the beginning of what …」の what 以降が1つの名詞節になっているのでこれをいったんXと表すと、
two months of good data are only the beginning of X.
これならばだいぶ分かりやすいのではないでしょうか。「2ヶ月分のいいデータはXの始まりに過ぎない。」
次にXの後半 confidence that inflation is moving down sustainably toward our goal に着目。ここに出てくる that は同格のthatと呼ばれるもので、that の前にある名詞の説明が that の後ろに続いています。同格のthat の後ろにある文は、それだけで完全な文になっています。もしthatが同格ではなく関係代名詞の場合は、thatがthat節内で主語や目的語になっているためにthatを抜くと主語や目的語が抜けた変な文になります。ここに出てきた文「inflation is moving down sustainably toward our goal」もinflationが主語、is moving downが述語の第1文型で完全な文になっているので同格のthatの条件にあてはまります(なお sustainably と toward our goal は修飾語)。文の意味は「インフレが目標に向かって持続的に低下してきている」。これが confidence と同格のthatで結ばれているので、
「インフレが目標に向かって持続的に低下してきている」という自信
となります。この部分もまたいったんYと置いておきましょう。
すると X の部分は、
what it will take to build Y
となります。だいぶ見えてきたのではないでしょうか。
冒頭のwhatは関係代名詞で、もともと
it will take O to build Y
という文だったものを、関係代名詞節にするために O it will take to build Y → what it will take to build Y と変形してきたと考えるとよいでしょう。ということでまずは関係代名詞節に変形する前の元の文で考えます。take は非常に基礎的で使用頻度の高い単語ですが、日本語でこれと1対1に対応する言葉がないために、意外と扱いづらい単語。だがここでの take は、
It will take about 2 and a half hours to finish my homework.
(宿題を終わらせるのに2時間半かかるだろう or 2時間半必要だろう)
と同じ。つまり it will take O to build Y は「Yを構築するのにOが必要だろう」
これが関係代名詞節「what it will take to build Y」に変形しているので、日本語訳としては「Yを構築するのにきっと必要となるもの」あたりが適切。
ということで Y の部分を復元すると、
インフレが目標に向かって持続的に低下してきているという自信を得るのに必要となるもの
になります。これが X。
そして X はもともと、
two months of good data are only the beginning of X.
だったので、X をもとに戻すと、
2ヶ月分のいいデータは、インフレが目標に向かって持続的に低下してきているという自信を得るのに必要となるものの始まりに過ぎない。
という日本語訳になります。