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株式報酬って、そんなにいいもんじゃない
労働の対価を「日本円」ではなく「日本円+会社の株式」で支払う会社が増えている、と日本経済新聞が報じていましたが。
株式報酬、社員にも 1176社に拡大
経営参加意識づけ 丸一鋼管は年収超え
企業が社員に株式報酬を出す動きが広がっている。導入企業は2024年6月末で1176社に増え、過去最高となった。社員に経営参加を意識づけし、業績改善につなげる。人手不足が強まるなか、現金よりも資産性の高い株式を配ることで優秀な人材をつなぎ留める狙いもある。
(略)
企業が資本効率の改善を加速するには、経営改革を組織全体に徹底する必要がある。社員に株式報酬を出すことで、経営者と同じ意識を持たせる。
(略)
企業が社員向け株式報酬を導入するもう一つの狙いは、人材の確保だ。株式報酬は値上がりなどが見込めるため現金報酬よりも資産性が高く、税制面でも有利な場合が多い。株式の売却を制限すれば、社員の長期就労も促しやすい。
(以下省略)
私も投資家の端くれなので、20代後半くらいから日本経済新聞を熱心に読み始め、30代半ばくらいまで愛読していましたが。
だんだんと「ホントに分かって書いてんのかなあ?」と思うことが増えてきました。
この記事もまさに「ホントに分かって書いてんのかなあ?」と思ってしまった1つ。あるいは、分かったうえで敢えて一面的な見方だけを書いているのかもしれませんが。前者ならお勉強が足りないし、後者なら不誠実。どっちにしてもダメだと思うのです。
まずこの記事、株式報酬の負の側面に一切言及していません。
株式報酬というのは、会社が本来従業員に支払うべき金銭報酬を、株式市場に代わりに支払わせる手段であって、
支払う側の会社側にはメリットしかない。
受け取る側の従業員にはメリットとデメリットがある。
既存株主にはデメリットしかない。
というのが私の認識です。
会社にとっては、現金がなくても従業員に給料を払えるという、とてつもなく便利なモノです。全額現金で給料を支払うなら、もしおカネが足りなければ銀行からおカネを借りるとかしないといけないですが、自社株なら自分の裁量で発行できます(もちろん上限はありますが)。将来株価が上がるのを期待していてね、でも事業が失敗したら無価値に等しいけど、という、いわば出世払い型の給料。
従業員は給料が株価に左右されます。これをいいと思うかイヤだと思うかは人に依ります。イヤと思う人にはメリットはまったくなし。いいと思う人も手放しで喜べるとは限りません。これはこの後で詳しく書きます。
既存株主にとっては、発行株数が増えるので、会社の利益が増えない限り、1株当たりの利益・・・つまり自分の取り分・・・は減るため、基本的には不利益を被ります。報酬で支払われた株式が市場で売却されるので株価にも下押し圧力がかかりますし、株を買い増ししようと狙っているのでない限りは一切ありがたみがありません。
従業員の立場で、株式報酬のデメリットを詳しく列挙すると、
会社が傾くと株価も暴落する。業績悪化で減給、ボーナスカットなどがあれば、株式資産の目減りとキャッシュフロー悪化が同時に起こる。ものすごく危なっかしい。投資においては「タマゴを1つのカゴに盛るな」が鉄則。
配当が莫大な金額になるくらい大量の株式をもらえない限り、市場で売却して現金化する必要がある。株式報酬は新規発行株にせよ金庫株(自己株式)にせよ、市場に出回る株を増やすことになるため需給を悪化させ株価を下押す要因になる。
従業員もインサイダーに該当するため、いつでも株式を売却できるわけではない。インサイダー情報を知らなかったとしても、決算発表後の数日間しか売却できない(つまり年4回しか売却チャンスがない)。急におカネが必要になったとしても、最悪の場合3カ月は現金化できない。
労働の対価が株式ということは、売却するタイミングにより報酬額が変わるということ。昨日売れば100万円儲けられたのに、50万円しか利益出なかった・・・人間というのは不合理なもので、50万円利益が出ているのにここは50万円損した、と感じてしまうもの。そうなると株価の動きが気になってしまう。そんな状態で仕事に集中できるだろうか?
報酬が株式そのものなら売却時期は任意だが、ストックオプション(株式を指定の価格で買う権利)だった場合は行使期限が定められている場合が多い。期限があるというのは基本的にマイナスでしかない。市場というところでは切羽詰まった方が必ず負ける。A社の株を1,000円で買いたい、でも買えなきゃ買えないでもいい、というSさんと、同じくA社の株を1,200円で売りたい、でも今日中に現金が必要だから今日中に売らなきゃいけないというTさんが市場にいた場合、Tさんが妥協して売値を1,000円に下げざるをえない。
といったことが挙げられます。
従業員にとってのメリットは日本経済新聞に書いてあるから今さら繰り返すこともないでしょう。ただこのメリットは「受け取った株式報酬を天井で売却できた」場合以外は何かしら禍根を残すと思います(「昨日売っておけばよかった、あと100万円儲け損なった」とか)。
取締役や従業員などいわゆる「身内」が株式を大量に保有している会社の場合、会社側にも自社株買いや資産売却など短期的に株価を吊り上げようという間違ったインセンティブが働く可能性があるため、不正と親和性があるというちょっと困った側面もあります。品質問題で世間をお騒がせ中のボーイングも、自己資本がマイナスになるまで自社株買いをしまくっていましたから。
キツネとタヌキの化かし合いといいますか、会社と株式市場が互いに相手を金づるにしようと画策しているといいますか、株式報酬というモノに私はあまりいい印象はないのです。
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それは私の視点が、経営者、従業員、投資家の3つの中ではいちばん投資家に寄っているからかもしれませんが。前述のとおり、株式報酬というものは「既存株主にはデメリットしかない」ので。
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