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私の失敗投資(6)グレイステクノロジー

明らかに失敗だった投資を記録して反省材料にする、そんな連載の第6回目です。
他の失敗も以下の記事から辿れます。


グレイステクノロジー

6番目の事例はグレイステクノロジー。

これこそ私の投資歴の中で最悪も最悪、思い出したくもない最低の事例。

この会社の経営幹部たちは、明確な悪意を持って、粉飾決算を実行した極悪人。
私だけではなく、投資家、監査法人、東証などにとんだご迷惑をバラまいた最低な会社。

事業内容はまとも。
違法薬物💉をバラまくとか、暗殺を請け負う😎とか、しているわけじゃない。
企業向けのマニュアルを作成する、あるいは企業が自身でマニュアルを自作するためのツールを提供する、という事業を行っています。

2016年12月にマザーズ市場(現在の東証グロース市場)に上場し、2018年8月には東証一部(現在の東証プライム市場)に鞍替えした、期待の急成長企業企業でした。しかしてその実体は、粉飾決算で4割近く売り上げをかさ増し(額にして7.5億円ものかさ増し)していた、ウソつきです。

滝川クリステルさんのCMを見たことのある人もいると思います。

グレイステクノロジーのCM。
粉飾に関わった経営幹部たちは全員ダメダメで万死に値するが、
製品やサービスまでダメとは限らない。知らんけど。

創業社長の死後、粉飾決算が明らかとなり、東証の定める期日までに決算報告ができず(決算出せないのは上場維持基準に抵触する)、社長の死から1年後くらいの2022年2月末に上場廃止となりました。

グレイステクノロジー特別調査委員会調査報告書(2022年1月27日)で誰が不正に関与したか、どういう手口だったかを公表しました(現在は削除されているようです)。創業社長がパワハラまがいの無理な売上目標の達成を要求していたようですが、社長の死後すぐに不正が明らかにならなかったことを考えれば、グルだったんでしょう。


失敗の要因

同じ失敗は繰り返すまいと、いろいろ検討してみたものの。

別の会社でこれと同じ手口で粉飾をされたら、残念ながらたぶん見破れないだろうと判断せざるを得ません。

それというのも、あたかも顧客からの支払いがあったかのように見せるため、経営幹部がグレイステクノロジーの銀行口座に実際に入金を行っていたためです。財務諸表上はキャッシュフローの裏付けまである完璧な状況なので、不正を見抜くには財務分析以外の別の視点が必須です。知り合いが勤めていて社内の様子が分かる、とか。
監査法人ですら見破れなかったわけですし、会社と特に関わりがない一般投資家が別の視点を得るのはなかなか難しい。

入金偽装までしてどう会計を弄ったかは、粉飾決算発覚後に作成された2022年3月期有価証券報告書に記載されている前年(21年3月期)の財務と、粉飾決算をまさに実行していた2021年3月期有価証券報告書の記載を比較することで明らかになります。ということで、次節で財務諸表からその不正の手口を読み解いてみます。


粉飾の手口

キャッシュフロー計算書の改竄

まず、2021年3月期の有価証券報告書に記載の営業キャッシュフローを見てみます。粉飾実行中の、ウソで塗り固めたキャッシュフローです。以後、こちらを粉飾決算版と呼びます。赤枠で囲んだ部分が、2022年3月期の有価証券報告書で訂正されています。

2021年3月期の営業キャッシュフロー(粉飾決算版)

粉飾決算版では、売上を過大報告した結果として税金等調整前当期純利益が不当に大きくなります。14億円もの税金等調整前当期純利益を計上していますが、本当は6億円しかありませんでした。それが下にある2022年度3月期の有価証券報告書に記載されています。以降、こちらを訂正版と呼びます。粉飾決算版と訂正版の営業活動によるキャッシュフローは12.9億円で一致していますが、この差の大部分が訂正版にある架空売上に係る入金額15億円です。グレイステクノロジーの経営幹部が、グレイステクノロジーの銀行口座に、顧客からの支払いを装って合計で15億円もの入金を行っていたのですね。

2022年3月期の営業キャッシュフロー(訂正後の正しい決算)

その原資は、ストックオプションです。
新株予約権1個だけで7,200個もの株式が得られます。新株予約権行使に必要な金額は株式1個に対しわずか30円です。2020年12月頃にはグレイステクノロジーの株価は4,000円を超えていましたから、新株予約権1個使うだけで、

( 4,000 - 30 ) × 7,200 = 28,584,000円

もの利益が得られます。この新株予約権が全部で66個もあったのですから、仮に全部が4,000円で市場売却できれば19億円近い利益が得られます。

投資家たちを騙して株価を不当に吊り上げ、そういう状態の市場からかすめとった利益を使って、経営成績を良く見せかけてさらに株価を吊り上げて・・・と、悪意しか感じません😤。


損益計算書の改竄

粉飾決算版と訂正版を見ると、キャッシュフロー計算書と貸借対照表は、差異がある箇所が意外と少ないのです。もちろん、その差異の中には前述の架空売上に係る入金額のように内容もその額も、正直想像を絶するものがあるのは事実ですが、ウソの数自体は少ない。たぶん誤魔化すのが難しいのです。

一方、損益計算書はウソだらけ。まず売上がウソ。本来の1.4倍。
話の起点からして狂っているものだから、粗利益、営業利益、経常利益、純利益といった4つの利益、果ては税額まで変わってきます。ウソがないのは支払利息くらいのものです。でも全体として整合して見えるからこそ分からない。

キャッシュ(CF計算書)は事実、利益(PL)は意見、とはうまいこと言ったものです。


貸借対照表

粉飾版と訂正版の貸借対照表資産の部を見比べてみると、前述のとおり差異が少ないです。今ある資産というのは、何しろその気になれば全部数えあげることができますから、ウソを入れ込む余地があまりないのでしょう。赤枠で示した部分に差異がありますが、差額は比較的少なめで、資産総額は粉飾版が6.3億円、訂正版が6.9億円です。粉飾で計上した過大な利益にかかった税金が資産に計上されています(訂正版にのみ計上されている未収消費税等、未収還付法人税等)。過剰に支払った税金は翌年以降の税額から控除されるようです。

2021年3月期の貸借対照表資産の部(粉飾版)
2022年3月期の貸借対照表資産の部(訂正版)

一方、負債の部は大きく異なり、訂正版の負債の方が20億円近く多くなっています。1.5倍くらいのサイズ。資産の差が6,000億円くらいしかないので、この差が純資産を傷つけています。訂正版の方が利益剰余金が15億円くらい少ないです。粉飾でウソの利益を計上していたのだから、当然です。このウソの利益剰余金などの原資となったのが、先に述べた「経営幹部がストックオプション行使で得てグレイステクノロジーの銀行口座に振り込んだお金」であり、訂正版の負債の部に仮受金として計上されています。不正利得で返還すべきものだから負債、というのは納得ですが、だからと言って振り込んだ経営幹部に返すのは違いますよね。犯罪の片棒をかついでいるんだから。

2021年3月期の貸借対照表負債、純資産の部(粉飾版)
2022年3月期の貸借対照表負債、純資産の部(訂正版)


対策

グレイステクノロジーの事例で、粉飾発覚前と発覚後の決算書を読み比べてみましたが、発覚前の決算書はなかなかよくできていると言いますか、経営者が悪意を持って投資家を騙そうとしたら、見破るのはかなり困難だと言わざるを得ないものでした。危険回避のために、

  • 創業社長が率いる会社はワンマンになりやすいので投資を避ける。

というのは必ずしも有効とは限りません。東芝のような老舗の大企業でさえ、経営者がその気になってしまって、粉飾決算された事例がありますから。それに創業社長が率いる会社の中にこそ、大きく成長するお宝銘柄が隠れています。その機会を無条件に捨てるのは惜しいです。

結局、タマゴをひとつのカゴに盛るな、という古くからある教えにしたがって深い傷を負わないようにする、くらいしか対策のしようがないのでしょう。


というわけで、私の投資歴の中の最悪事例でした。
粉飾決算に関わった経営幹部は、石を持って追いかけてやりたいという気持ちを込めて、タイトル画像(下に再掲)を作りました🏃‍♂️🏃‍♂️🏃‍♂️。


#グレイステクノロジー
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