【006】メンバー座談会「モーターショーから垣間見るモータリゼーションの潮流」
左から、島下泰久氏、佐藤夏生氏、渡辺敏史氏、岡崎五朗氏、岡崎心太朗氏。2018年10月 場所:EVERY DAY IS THE DAY(東京都渋谷区)
「ピクニックショー」に舵を切ったパリモーターショー
佐藤夏生(以下、佐藤):昨年のパリモーターショーと今年のジュネーヴ、それぞれ成り立ちも雰囲気も異なるモーターショーだったと思いますが、それぞれについて伺っていきたいと思います。まずはパリに関して。心太朗くんはパリが初の海外モーターショーだったんですよね?
岡崎心太朗(以下、心太朗):はい、僕はパリという街自体が初めてだったので全てが新鮮でした。同時にお仕事としてショーに参加したのも初めてだったので、押さえるところを押さえられたのか、充分な情報を得られたのか、これでいいのか、などずっとソワソワしていました。正直、今でもそんな気持ちです。
渡辺敏史(以下、渡辺):モーターショーの現場で全ての情報を完全に掴むということは僕らでも絶対ないですよ。後からあれ?そんなのあったっけ?っていつも思いますから。
島下泰久(以下、島下):ネットで資料が拾えなかった頃はもっと大変でしたよね。会場内をくまなく回って資料を集めることも仕事のうちでしたから。
岡崎五朗(以下、五朗):でもやはりモーターショーは体験の場。クルマそのものもだけど、各ブースのデザインとか床の素材とかも大事で、ブースに一足踏み込んだ瞬間に足の裏の感覚とリンクしてブランドが記憶される。床材が安普請か、毛足の長い絨毯かで、全く別ものとして頭に残る。僕は今回のパリには行けなかったけど、そういう意味でどこか記憶に残ったブースはありますか?
渡辺:全体を通して目新しさがなかったからかもしれませんが、正直これというものはなかったですね。とにかく先進国における興行としてのモーターショーは、完全に曲がり角にきている感じがひしひしと伝わってきました。大手ヨーロッパメーカーが不参加だったこともそうですが、各社節約モードというか、強いメーカーがプレミア情報をたくさん発信する場で、埋もれることが目に見えているのにわざわざ発表する必要はないだろう、という感じが蔓延していました。
島下:今はメーカー自身がネットでリアルタイムに情報を発信できる時代になりましたからね。つい10年ぐらい前まではモーターショーの現場でプレスに取材してもらって初めて情報が世に出ていった。そういう意味でモーターショーが機能していたんですが、今は違いますよね。でも一方で、パリは会期日程を4〜5日短くしたにも関わらず述べ100万人を動員しました。
心太朗:一般公開日も人は多かったと思います。特に地元メーカーが出ているところなどは人だかりができていました。あとは女性客も多かった印象がありました。
島下:それはパリの主催者も言ってましたね。女性も来やすいショーにしたいと。
渡辺:トイレをきれいにする、とかですか?でも実際きれいだった気がするなあ。
島下:レディースナイトが設けられたり、新しい取り組みもありましたよね。それにしても思うのは、先ほど渡辺さんが言った通り、モーターショーはモータージャーナリズムとしての場と、興行イベントとしての場、それが分かれる過渡期にきたのだということです。最近ヨーロッパのジャーナリストから「ピクニックショー」という言葉を耳にします。モーターショーは新しい技術の発表やトップ同士の交流の場というよりも、お客さんが家族でクルマを見て楽しむ、そんなピクニックのような場にすべきだ、と。むしろこれからはそっちが軸足になるんじゃないか、と。それもあってパリは一般公開日にいかにお客さんを盛り上げるかに注力したのだと思います。結果、それが100万人という数字に繋がった。
佐藤:マニアックなことをどう伝えて未来につなげるか、ということだけではなく、単純にわかりやすく楽しめるようにした、ということですね。
島下:ピクニックですからね。ピクニックは何か学びに行く場ではなく、単純に休日を楽しみにいく場。流行のレストランのご飯が食べられて、子供たちもプレゼントもらえて、ついでに新しいクルマに試乗できるとなれば、少しでもクルマに興味ある人だったら家族を連れて行くには充分な理由になる。
心太朗:女性や家族連れに加え、熟年夫婦の姿も目立っていましたね。
佐藤:あくまで傾向ですが、女性の車の所有欲が高まっている気がします。ここ10年で劇的に変わったのは、クルマを買うときに奥さんの同意なくしてクルマは買えないということ。今はどんなディーラーも必ず女性を大切にする。奥様に先に名刺をわたしたりしますからね。
五朗:国連の常連理事国みたいなもので、彼女たちは拒否権を持ってるんだよね。
佐藤:ちょっと前までモーターショーでレディースデーをやるなんて考えられなかった。でも今は女性が力を持って、オーナーとして乗ること、男性のパートナーとして拒否権を持つこと、そしてこれからのMaaS(Mobility as a Service)の実質的なターゲットになることも含め、業界全体が女性とどう関わっていくかは大きな課題であり、可能性でもありますね。
五朗:とにかくパリがレディースナイトを作って成功した。この事実はおもしろいよね。
クルマをクルマとして愛でるジュネーヴモーターショー
佐藤:一方、ジュネーヴはいかがでしたか?
五朗:ピクニックではなかったね。車が生活をどう変えますか、とかではなく、ジュネーヴは相変わらずクルマ好きがクルマを作って発表する従来型のショーでした。内容的にはEV一色という感じかな。参加人数は前年より減ってしまったようだけど。
渡辺:ある特権階級の人たちが訪れて、スポーツカーをその場で買う!みたいな商談の場ですよね。
島下:ジュネーヴはもともと昔からそういうショーで、それは今も変わっていないということですよね。だからこそ参加者数は減っている。クルマをクルマとして、もしくは憧れの対象だったりコミュニティの象徴として捉えている人たちは純減している。でもまだこれぐらいはいるよ、という証明でもあったと思います。
五朗:クルマ好きとしてはやはりジュネーヴは見ていて楽しいし、面白いんですよね。
佐藤:ジュネーヴショーでは自動車メーカーの人たちがかっこよく見えますよ。自分たちは貴族的に物を作っているぞ!みたいなプライドがあって、基幹産業でありながらもかっこいい。雰囲気は独特ですよね。
渡辺:イギリス勢が勢揃いするのもジュネーヴぐらいです。やはりイギリス勢が揃うと歴史的な雰囲気が出て、カチッと場が締まりますよね。
島下:趣味的なクルマの究極はやはりイギリス車ですよね。
佐藤:クルマを貴族的な文化として扱っている層も減ってはいるものの、まだ一定数いて、彼らは彼らでプライドを持って輝いていた、と。
五朗:全体的にはフランス勢を含むヨーロッパ勢が元気だったという印象でしたね。電動化に関してはやはりドイツの勢いはすごかったですし、全体としてもEV花盛りという感じでした。各社ハイエンドカーをメインにしながらも、電動化に着手するのは最後になるだろうと思われていたアルファロメオやジープまでもがプラグインハイブリッドを発表していましたからね。会場内で一番注目を集めたのはプジョーのe208だったのかな?
島下:EVにも二極あってe208やHONDAプロトタイプのような2〜300万円の一般向けのアシとしてのEVと、プレミアムカー市場向けのハイエンドEV。後者の良い例がテスラですよね。2017年にプレミアムカー市場でSクラスを凌駕したという事実は重かった。富裕層がテスラを選んだ理由は経済性でも効率性でもなく、嗜好性だったわけですから。マスカーのEV化とプレミアムカーのEV化は同じ視点では語れないですよね。
佐藤:とにかく電動化はブランディングとかコンセプトとかフラッグシップとかではなく。リアルな実ビジネス、実マーケティングになったということですよね。
クルマからモビリティへ。マイクロモビリティの可能性
佐藤:昨今のモータージャーナリズムの潮流としてはクルマのデザインやスペック以上に、モビリティやコネクティビティなど、無形のものにフォーカスがシフトしていっていると思いますが、実際のモーターショーではどうなのでしょうか?
渡辺:確かに今、自動車メーカーは車だけを売っていくことに限界に感じていて、車をシェアする=モビリティを担保するという、販売業からサービス業に近い発想へシフトしています。とはいえ、ソフトバンクと提携したトヨタでさえ、じゃあMaaSでなにやるの?という問いに明確な答を出していない。今はまさに進化の過程であって、未来がどうなるかなんて誰にもわからないですからね。
島下:MaaSに関しては一律してみんな同じことを言います。「走りながら考えます」と。行き着く先はまだわかってないけど、クルマの新しい価値はこの領域からしかアプローチできないという事実は直感でわかっている。渡辺さんの言う通り、今まで通り良いエンジンを作って、速い車を作るだけではこれから勝ち残っていけない。1000馬力が1500馬力になっても誰も幸せにならない気がしますよね。ということはクルマが人を幸せにする方法を他に見出さなくてはいけない。でも、その宣言ができるのは大きなメーカーのみ。中規模メーカーは目先のクルマを売るのに必死ですから。業界に一石を投じるアイデアや提案は強いメーカーからしか出せない環境になっている。
佐藤:その冷めた感じがパリショーにも出ていたということですね。
島下:とにかくMaaSとか、コネクテッドとか、自動運転などは新ネタが半年ごとに出るわけではないですから。やるべきことと方向性は見えているので、進捗状況のお知らせレベルになってしまう。それをモーターショーで発表してもお客さんは喜ばないですよね。
渡辺:パリショーでPSAグループのプジョーシトロエンとルノーは両方とも大きいブースを構えていたんですが、見せていたものは両極端でした。ルノーはまさにMaaSを提案していた。描いている内容はトヨタと変わらないけど、一体これはこの先誰がどんな得をするのだろう?と疑問だけが残りました。逆にプジョーはわかりやすく、昔のクーペのオマージュであるコンセプトカーを出していてプレスデーでも一般公開日でも人だかりができていました。
島下:まだまだ無形の何かより、目に見える有形のもののほうが強いですよ。
五朗:パリではマイクロコンパクトカーとかはどうだったの?NISSANがニューモビリティコンセプトとして日本でも実証実験をしていたルノー・トゥイージーとか。
渡辺:IQより更に小さい、リジェがつくっていた50kmしか出ないものとかは相変わらず出てましたよ。
五朗:実際に街で走ってるの?
渡辺:パリだとちょっと厳しいですよね。でも自動運転とか始まるとすると、あの辺の規格からですよね。
五朗:僕が聞いたのは中学生とかがあれで通学すると。
心太朗:14歳から乗れるらしいですよ。
一同:へー。
五朗:パワーが二種類あって、高出力版は16歳からだけど低出力版は簡単な学科試験だけで14歳から乗れる。親としてはモペットよりこっちのほうが安全だから、ということみたい。今回のジュネーヴではシトロエンからもトゥイージーと同規格のeメアリーという二人乗りのクルマが提案されてて、若年層狙いというよりも、大人なら免許がなくても運転できるってことを盛んにアピールしてたな。
渡辺:フランスは免許制度含めモビリティに関しては寛容ですからね。
五朗:普通のクルマの免許も16歳でとれるし。18歳になるまでは免許を持っている大人の同乗が必要だけど。
佐藤:日本は16歳からバイクの400ccまで乗れます。だったら軽自動車とかも16歳でいいんじゃないでしょうか。これだけクルマの安全性能が上がっているわけですし。自動車産業を発展させるために免許の年齢を下げる、ってことはいい考え方ですね。それこそイノベーション。
渡辺:そうなってくると技術的なことよりも道徳的なことの方が大きいですね。例えば買物難民や移動難民など、年配者の移動手段を確保するのは、オートノマスとかよりも、マイクロモビリティの普及の方がよっぽど現実的な気がします。でも、日本に絶対的に無くて、欧州にあるのが「オウンリスク」というマインド。海外だと、50kmで走っていて田んぼに突っ込んで死んじゃいました、でもそれはオウンリスクですよね、となりますが、日本ではそうならない。
五朗:軽トラに変わるマイクロモビリティがあってもよいよね。
島下:移動する物体なのであれば必ずしも所有じゃなくても良いですよね。
渡辺:田舎だったらガソリンよりも電気の方がよっぽど都合良さそうですし。
島下:まさにトゥイージーみたいなバイク以上クルマ未満的なもの。ラストワンマイルどころか、それだけで済む人がたくさんいる。
五朗:移動っていうのはレイヤーで考えればいろんな人がいて、往復100kmと30kmと5kmが同じ車である必要はないわけです。Eバイクみたいなのもありますが、クルマとしての可能性もまだまだあるはず。
佐藤:自動車産業としてその領域の顕在化は今回のモーターショーで感じられましたか?まだどこも実行段階にない気がしますが。
五朗:それをやるとなると問題になるのはやはり行政です。日本の場合、既存のルールを変えることに不可解なほど抵抗を示す警察庁の意識が変わらないとなかなか進まないでしょうね。
渡辺:専用レーンとか時速制限とか停める場所とか、地域という単位で全てセットでやらなくちゃいけない。そうなると社会的なバックアップが不可欠。
島下:で、行政を動かすのは無理だね、となって断念してしまうという…。
コネクテッドやEV化は愛着心を奪う!?
佐藤:少し話が変わりますが、先ほどEバイクという単語が出ましたが、僕は最近VanMoof(オランダ生まれの次世代Eバイク)を買ったんです。これが本当に素晴らしくて。カスタムパーツとかはまだなくて、ステッカーを貼ったりして楽しんでたんです。で、ちょっと壊れちゃって修理に出したら、「新しい車体に交換しますね」って言われて。ステッカーは?と思った時に、あっ、アイフォンと同じ、自分の所有物であって所有物でない感じに気づきました。自転車という物ではなく、エクスペリエンスがブランドになってるんだと。「物にこだわる」という趣味がなくなっちゃった瞬間でした。
島下:コネクテッドで運転手が年配の方だと認識し、運転補正で「いい感じに運転している感覚」にしてくれたとして、果たしてそれは楽しいのか?という観点はあると思います。絶対に失敗しない調理器具が出てきたら、それを使うのはもはや料理とは言わず、ただの作業。運転が楽しい、とか、運転がうまい、という価値がなくなった時に、クルマはただ人を運ぶ道具になってしまうのかも、という。
五朗:でも一方でプリミティブな体験に回帰する人もいるって聞くけど。
佐藤:ロックな人は必ずいるので、カウンターカルチャー的な需要は残ると思いますが、大きな潮流としては便利、簡単、楽という流れには逆らえないですよね。
五朗:では、例えば佐藤さんはクルマをマニュアル車に戻したいとか思う?
佐藤:マニュアルは全然苦じゃないんで抵抗はないですね。でも重ステはさすがに無理でした。
渡辺:ははは、久しぶりになんのアシストもないステアリングを触ると新鮮ですけどね。確かに毎日となると厳しいですよね。
佐藤:面倒臭さの中にかっこよさが眠っているのは間違いないと思うんです。あとはフィジカルな感覚が愛着を生むということも。でもその双方が減っていく中で、クルマへの愛着心をどう保つかが課題。先日、クルマ好きのタクシー運転手がEVに代えたという話の中で、何よりも買えてよかったと思った点は、運転時の振動がなくなったから長時間運転がすごく楽になったことだって言うんです。EVとなると動力や燃費の話になりがちですが、振動がないとか、エンジン音がないってこんなに快適なんだ、とか、そういうリアルな別体験が鍵だったりする気がします。
島下:MIRAIを購入してすぐ、名古屋まで行った時、着いた頃に「あれ?なんでこんなに疲れてないんだろう?」と思ったことがあったんです。でも初めはその理由が分からなかった。だって今まで「エンジンが振動してうるさいから疲れるなあ」なんてわざわざ思ったことはなかったわけですから。でも帰り道の途中ぐらいで気付いたんです。なるほど、エンジンの振動が無いのってこんなに楽なのか、って。
佐藤:それに気づいちゃうともう戻れないですよね。
島下:戻れないですね〜。
五朗:12気筒エンジンにして、やっとこの滑らかな感じになったけど、いきなりモーターにやられちゃう。日本刀でピストルと戦う、みたいな感じだよね。
佐藤:その辺をぐいぐい押してくる若いモータージャーナリストとかいないんですか?「なんでおっさんたちガソリン車乗ってんすか?やばくないすか?」みたいな。
島下:そもそも若いモータージャーナリストというのがいないわけですが、まあ既存の自動車メディアの読者層からすると、モーター最高!って若手が出てきても、異物感としては面白いけど共感はされないかなとは思います。
五朗:ボンネットを開けてエンジン眺めるみたいな文化は今の若者にはないだろうからね。親父のクラシックカーの佇まいは好きだけど、エンジンとかよくわからない、って。
佐藤:やはりモータージャーナリズムからエクスペリエンスジャーナリズムになるんでしょうね。クルマ単体としてではなく、この体験はありかなしか、という軸で語られる。カメラが愛着の対象から外れ、時計が愛着の対象から外れ、そしてクルマもその対象から外れようとしている。若者は「クルマ離れ」をしているのではなく、愛着の対象から外れている、という事実に我々は気づかなくてはいけない。
スマホとつながるクルマ
シェアカー時代にこそ、本当に乗りたいクルマを
五朗:心太朗は何か新しい発見はあったの?
心太朗:僕はパリモーターショーしか行ってないんですが、各メーカーの展示の演出方法できれいに分かれてるなあと思ったのは、クルマを起動させているかいないか、という点です。今まさに話に出たUXとか体験を売ろうとしているメーカー、例えばテスラとかメルセデスは全車種起動させていました。メルセデスにはマイバッハとか置いてあって、車内に座ってタッチパネルとか触れるのは嬉しかったですね。タッチパネルの感触とか、操作感とか、そういうところを若者は見ている気がします。
佐藤:タッチパネルのついていないモックじゃあ触っても意味ないだろう、ってことですよね。
心太朗:他のブースでも若い人たちはクルマと自分のスマホを繋いで、何ができるかを試したりしていました。彼らはクルマをスマホの延長として捉えている。
島下:それは良い視点だなあ。
渡辺:じゃあ外装より内装のほうが興味ある?
心太朗:そうですね。もちろん最初は外側から入りますけど、実際は中に乗った時の居心地とかユーザビリティとか、気になるのはそういうところですね。
佐藤:僕らの世代ではまだナビ画面とか親しみはありますが、若い世代からすると、なんじゃこりゃ?って感じになるんでしょうね。
五朗:前にホンダCR-Vの試乗に行った際、試乗車にちっちゃい画面のこれいつの?って思うぐらいなナビが付いていたんです。怪訝な表情を察したのか、開発者が「もう古いですかねえ?」って。当たり前でしょ!と(笑)。「CDのニーズもまだあるんですよ〜」とか言ってたけど、それって過去しか見てない。そもそもカローラ・スポーツにしろシビックにしろ、日本仕様だけが2DINナビで、海外仕様は全てディスプレイオーディオになってます。Aクラスと比べると、もう絶望的に前世代感が強い。
佐藤:ある意味、顧客主義はイノベーションを阻害しますからね。特に日本は一度買ってくれたお客様は神様だというマインドが色濃く根付いてます。本当に正しいことや新しいことより、既存のものや今ある関係を優先してしまう。それはそれで仕方ないのはわかるけど。
五朗:そりゃそうだよね。本当はクルマを作るプロがこだわり抜いたものを作って、売るプロがそれをちゃんと説明して、お客さんに売っていかなきゃいけないんだけど、どこかでそれが逆になってしまっているというか。
島下:それを押し戻すのは難しいと思いますよ。本当に難しい。でもそれを国産メーカーがやってほしいと僕は思っています。
五朗:例えばパリショーで人気だったプジョーのE−レジェンドがいい例なんだけど、日本のデザイナーって過去を振り返るということに消極的だよね?でもそこにはもっと価値があると思う。
渡辺:レトロフィーチャーですね。
心太朗:今回、一般公開の時もE-レジェンドにはずっと人だかりができていました。
渡辺:地元のヒーローだからね。
佐藤:それはやはりパリだったからじゃないでしょうか。日本でいうGTRを復活させるみたいな話ですよね。
五朗:でもこれから日本メーカーが中国、韓国のメーカーと勝負するときに、日本メーカーのアドバンテージって、そういう過去の名車とか歴史を持っているってことだと思うんです。2000GTもそうだし、ハコスカもそう。それを利用しない手はないですよ。
佐藤:レトロフィーチャーが良い悪い論ではなく、絶対的に肯定される抜群に良いデザインを作ること。
五朗:もちろんその時代背景を知った上で解釈する必要がある。でもその「レトロフィーチャー」という言葉だけで否定するデザイナーが日本には多い気がする。
島下:古いクルマをそのままコピーするのはもちろんナシだけど、エッセンスを抽出するというか、過去の名車の何が支持されているのか考えることはもっとしてもいい気がします。未来のために過去から学ぶというか、少なくとも最近ではおしゃれな若いユーザーが新車にときめかなくて、古いゴルフⅡを買っていたりする現状はもっと気にしていい。話は逸れますけど、これからどんどんカーシェアリングみたいなものが普及していくと、多人数乗車や大きな荷物を乗せるみたいな機能はそっちで担保できるので、個人で買うのはそれこそゴルフⅡみたいなクラシックなクルマだったり、あるいは2シーターのスポーツカーでもいいんですが、そういう本当に乗りたいクルマを選べるようになるかもしれない、と思うんですよ。
佐藤:なるほど。モビリティが発展するからこそ、本当に乗りたいクルマに乗ろう、と。それは明るい未来ですね。
今年開催される東京モーターショーに向けて
佐藤:パリは興行としてのモーターショーのあり方を模索する一方、ジュネーヴは伝統的なモーターショーを維持しつつ、電動化の花盛りという印象だったと。今年は4月に上海、9月にフランクフルトがありますが、やはり気になるのは10月の東京モーターショーです。乱暴な振りで申し訳ないのですが、皆さんはどう見てますか?
五朗: ほとんどの輸入車勢が欠席になるなか、お金を払ってわざわざ見に来てくれる人たちにどんな楽しさ提供できるのか。あるいは来てよかったなと思えるだけの学びを持ち帰ってもらえるのか。問われているのはそこです。もし失敗したら、2019年をきっかけに東京モーターショーは衰退していったと、後世に語り継がれることになりかねません。
渡辺:東京モーターショーもそういうことをしなければいけないとずっと言ってきたけど、結果的に何もできていないですよね。
島下:自動車先進国としての自負を貫いて業界向けの技術発表の場にするか、それともピクニックに振るか、今年の東京モーターショーは本当の意味で岐路になりそう。そういう自覚が主催者にちゃんとあるのか…。
佐藤:理想としてはマニアック度とピクニック度の両方を高めて行くことですよね。車好きも楽しめて、そうじゃない人たちも楽しめる。カジュアルにするのではなく、オープンにする。都合良く聞こえますが、そういうモーターショーにできれば最高ですね。本日は長い時間、ありがとうございました。