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【003】変革の時代に改めて思うこと 渡辺敏史

誰がいったか、「百年に一度の大変革」。

自動車業界の舞台袖で様々なシーンを眺めてきた。それを文字を通して伝えることをかれこれ30年は続けてきた。その中でもこのキーワードが放つエネルギーはかつてないものだと感じている。思い返せばば90年代の合従連衡ブームも08年のリーマンショックも、これほど長期に、かつ広範に渡って影響をもたらすものではなかったかもしれない。

CASEに代表される技術的課題を克服するにあたり、自動車メーカーは莫大なコストを擁することになり、それに伴ってサプライヤーの大再編も起こり得る。更にはMaaSの可能性を追求するにあたっては今までとはまったく違うアイデアやリソースとの連携も求められるだろうし、生活への浸透のスピード如何では、自らが作り上げてきた収益システムのスクラップ&ビルドも充分に考えられる。折からの雇用状況に加えて先々の見通しが不安定なことも重なり、既に販売現場は深刻な人手不足に陥っていると聞く。ITの驚異的な成長は様々な業界に大きな変化を押し迫る波となっているが、自動車業界とて例外ではなかったということだろうか。

とはいえ、果たして今企てられている多くの技術やサービスが、多くの人々にとってとれだけ差し迫った必要性を帯びたものなのか。それに対する答えは誰も持ち合わせていない。到達点やもたらされる結果が明確ではない、強迫観念に依る出口のない競争という側面が今の状況であることもまた確かだ。これが情報の大氾濫の遠因でもある。これほど混沌としている状況では、ファクトを整然と拾い集めて向かうべき方向を探ることさえ一筋縄ではいかない。

一方で、クルマづくりは単に波に乗り遅れず、トレンドを追いさえしていればいいものではないことは僕のような外野でも日々肌身で感じている。あらゆる業種の中でも突出した安全性や効率性が求められ、それを担保するためには思い留まり熟慮を重ねることも大切だ。

まず移動は誰もが享受できる権利でなければならない。その上で、その体験をいかに楽しいものとするか。そのデバイスを愛されるものとするかというところに自動車メーカーの本分があることは、そうやすやすと変わるものではない。混沌の時代を横目に見ながら、個人的にはそういう思いをなおさらに強くしている。

膨大な情報からまずファクトを見極めること、それに基づいた見解や予測が記せること、それがたとえ詳細な地図でなくとも確実に未来の方向を向いた羅針盤であること。この3点が、自分がこの企画に携わる意味だと思っている。ここを訪れてもらえれば、クルマにまつわるなにがしかの気づきを持ち帰ってもらえる。そういうライティングを心がけていきたい。


渡辺敏史 Toshifumi Watanabe
1967年福岡生まれ。専修大学経営学部卒。企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪雑誌の編集に携わった後、フリーの自動車ライターとして独立。現在は専門誌及びウェブサイト、一般誌等に自動車の記事を寄稿している。近著に、2005年から2013年まで週刊文春にて掲載された連載をまとめた「カーなべ」(上下巻)がある。

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