【002】この国のクルマの未来のために 島下泰久
今クルマは、社会に於ける役割、あり方の急速な変化の渦の中に居る。 “CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)”だったり“MaaS”といった言葉は、その象徴。人とクルマの関係は、きっとこの先、今までとは異なるものになってくる。
しかし日々の取材の中でひしひしと感じるのは、自動車メーカーにとって、これらは「いま始めなければならないこと」ではあるものの、将来的なビジネスとしての落とし所は必ずしもクリアになっていないということだ。たとえばクルマが所有から共有の時代になった時のために今からシェアリングビジネスを手がけておかなければならないが、それがいつ、どのぐらいの規模で起こって、その時に本当に収益をあげられるのかは解っていない、といった具合である。
それはユーザーにとっても同様だろう。「これからは電気自動車の時代になるんだろう。じゃあ今、内燃エンジン車は買うべきじゃないんだろうか?でも電気自動車はまだ不便。プラグインハイブリッドと言っても自宅に充電設備は無いし……一体、何に乗ればいいの?」という風に、要するに誰もがコレだという答を見つけられずにいるのが今の時代なのではないかと思う。
本来ならば、まさに今こそメディア、ジャーナリストの出番のはずだ。業界の動向を分析し、批評し、ヴィジョンを示す。的確な選択肢を提示し、クルマとの生活を豊かなものに導いていく。少なくとも、その助けにはなれるはずだ。
しかしながら今、クルマにまつわるメディアを取り巻く状況は決して良くはない。クルマ趣味の領域はともかくとして、自分にとって歯がゆいのが、先に記したようなクルマの未来、クルマのある生活の未来について正しくアウトプットして、社会一般にしっかりリーチできる場がきわめて限定されてしまっていることだ。
そのせいもあるのだろう。世間を賑わす記事を見ても、ネットで集めた情報だけで書かれたものと実際に取材を重ねて書かれたものの玉石混交で、ユーザーを混乱させているように見える。「こんな誤った情報が垂れ流されて…」と頭を抱えたくなること、しばしば出くわすのが正直なところである。
それならいっそと立ち上げたのが「INSPIRATIONS/Mobility」だ。信頼できる仲間たちを集めて準備を重ね、ようやく船出のときが来た。メディアとは書いたが、あるいは今までのかたちのメディアとは違ったものになるのかもしれない。それは自分たち自身も楽しみにしているところだったりする。
目指すのは、メンバーそれぞれの知見や発想、あるいは閃きを集積して、この国のクルマの未来を明るいものにしていくための一助となること。なんて、あまり気負いすぎない方がいいかとは思いつつ、それを通じて自分たち自身も視野を広げ、新たな情報を得て、より質高いアウトプットをしていけるようレベルを引き上げていけたらと期待している。目の前には、無限の楽しみが広がっているという思いなのだ。
島下泰久 Yasuhisa Shimashita
1972年神奈川県生まれ。立教大学法学部卒。国際派モータージャーナリストとして専門誌やwebなどへの寄稿、ファッション誌での連載、ラジオ、テレビ番組への出演など様々なフィールドで活動。2018‒2019 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。年度版『間違いだらけのクルマ選び』を2011年から執筆。電動化、知能化するクルマを専門的に扱うサイト「サステナ( http://sustaina.me )」を主宰