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初めて同性を意識した話

思い返せば、初めて同性を意識したのは幼稚園児の頃だった。当時、どういう事情があったのかは知らないし、今になって何があったか聞こうとも思っていないけれど、両親とは離れて生活していた。父方の祖父母の家で暮らして、そこから幼稚園に通っていた。

休みの日になると、祖母は親戚の家へ遊びに行く。もちろん自分も一緒に連れて行ってもらう。親戚の家にはたくさん漫画が置いてあって、祖母が伯母と話している間はずっと漫画を読んで過ごした。少年漫画、少女漫画、青年漫画、大人向けのいけない漫画、なんでも揃っていたから飽きることはなかった。

親戚の家は古い3階建ての家で、多分日当たりが悪いのか、昼間でも家の中は暗かった。こどもひとりで探検するのにはちょっと勇気がいる暗さ。廊下を歩いていたらそこの角からおばけが出てくるかも、とか思った。

居間は2階にある。祖母と伯母は基本的にそこにいる。3階には親戚のお姉ちゃんの部屋があった。2人姉妹で、どちらのお姉ちゃんも当時は高校生。妹のほうのお姉ちゃんの部屋は、常にカーテンは閉められていて、机の上に化粧品がいっぱい置いてあって、床には山積みになった洋服があって、ごちゃごちゃしていた。基本的に外出していて、家にはいなかったからあまり会うこともなかった。

姉のほうのお姉ちゃんの部屋も、洋服や雑誌でごちゃごちゃしていた。どれくらいごちゃごちゃしているかと言うと、こどもながらに「散らかった部屋だなあ」と思ったくらいには足の踏み場がなかった。でも、漫画がたくさん置いてあったから、親戚の家へ来たときはいつも姉のお姉ちゃんの部屋に直行した。

妹のお姉ちゃんとは違って、姉のお姉ちゃんはいつも部屋にいて、昼を過ぎてもベッドで寝ていた。毎回、部屋に入らせてもらうときは、一応、一言声をかける。そのときは、お姉ちゃんは一瞬だけ起きて、文字に起こせない何か(わかったよ的なニュアンスのもの)を言ってまた寝る。そのやりとりのあとは、特に話しかけることもなく、話しかけられることもなく、座れそうなところに座って、静かに『あさりちゃん』を読ませてもらう。これがいつもの流れ。

ある日、いつものやりとりをして、『あさりちゃん』の続きを読んでいたときのこと。お姉ちゃんが目を覚まして、自分に話しかけてきた。それはとてもめずらしいことだった。あのお姉ちゃんが起きるなんて。会話の内容はもう覚えていないけれど、何かを話した記憶がある。そして、そのあと、お姉ちゃんは「一緒に寝る?」と布団を広げた。お姉ちゃんは少し移動して、自分が入れるようにスペースをつくってくれた。その誘いに心臓がどきりとした。最初のそのどきりから、ずっとどきどきが止まらなかった。客観的に見たら、親戚のこどもと昼寝をする、ただそれだけのことであって、だけれど、自分にとってはただそれだけのことではなくて、大大大事件が起こったのだった。

お姉ちゃんは、上はTシャツを着ていて、下は下着1枚という姿だった。それもまた、どきどきを加速させる一因だった。漫画では何回もそういう姿の女の人を見たことはあったけれど、実際に目の前にすると刺激が強すぎた。どきどきしながら、とりあえず、一緒に寝てみることにした。とりあえず。

自分用につくられたスペースへ入り込む。向かい合わせだと、なんだか恥ずかしい気持ちになるから、お姉ちゃんに背中を向ける形で寝転がった。これはこれでまずかった。広げた布団をかけ直したあと、お姉ちゃんは自分にくっついてきた。それはつまり、後頭部にお姉ちゃんの胸が当たるということだ。「(おっぱいがあたってる!)」ということしか考えられなかった。幼稚園児でもこういうことは考える。性の目覚めは早いほうだったと思う。

お姉ちゃんはそこからまた眠っていたけれど、自分はずっとどきどきしていて、昼寝どころじゃなかった。こおり鬼で、鬼にタッチされて凍った人みたくかたまっていた。そして、気が付いたら、祖父母の家へ帰る途中だった。白昼夢のようだった。

お姉ちゃんとの昼寝は、自分にとってほんとうに衝撃的だった。これが、自分が生まれて初めて、同性を、女の人を意識した出来事。そして、ここから、同性を意識する日々が始まることになる。

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