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『終わらない嘘の続きを見たい』

眩暈SIRENというバンドがいた。2014年の10月に彼らと出会った。当時、自分はFucki'n Wallという音楽イベントにDJとして所属していた。オーガナイザーの$HOTAくんから「これが次の開催回の出演者リストだから確認しておいてほしい」と連絡があったので全アーティストのホームページを調べてバンド情報や楽曲をチェックした。その中にいたのが眩暈SIRENだった。YouTubeにアップロードされている動画は片手で数えられる程度でこのときはまだ「なんかかっこいいバンドおる」くらいの認識だった。Fucki'n Wall開催当日、眩暈SIRENのボーカル京寺さんとちゃんとお話しができたのは眩暈SIRENの出番が終わったあとだった。ライブかっこよかったですとかDJかっこいいですとか本当に初めて会う人間たちがやる会話をした。物販で買ったバンドロゴのステッカーはDJ用のCDケースに貼った。打ち上げは心斎橋の餃子の王将で自分と同じテーブルに座ったのはYOUR LAST DIARYのYukaさんと眩暈SIRENのNARAさんだった。二人は姉弟みたいに仲良くじゃれ合っていたことを覚えている。
それから少し経って自分の鬱病の症状が悪化した。何か嫌な思いをしたとか鬱のきっかけになることがあったわけではなく気が付いたら生き苦しいと感じる時間が増えた。DJの出番前はどこか一人になれる場所を探して何も考えないようにした。段々とステージに立つことが怖くなった。DJをすることが辛くなった。イベントに出演したくないと思ってしまった。がんばれない、がんばれない、がんばれない、もう無理だ、音楽のことは大好きなのになんでこんな気持ちでいるんだろう。全部辞めたかった。辞めたら自分には何も残らないのに。憧れて始めたのになんでこんなことになってしまったんだろう。どうして。わからない。死にたい、死なせてほしいと願う気持ちが日々強くなりお気に入りだった曲も「なんか違う」と感じるようになってしまった。そうして聴かなくなってしまった。好きなものが減っていった。疲れてしまった。そんなある日、YouTubeを開いたらおすすめに眩暈SIRENの故に枯れるという曲のMVが表示された。あ、Fucki'n Wallに出てもらったバンドだ、と数ヶ月前のことを思い出しながらサムネイルをクリックして再生した。曲を聴いている途中で「これは自分のための曲だ」と思った。あのとき見えなかったものが見えた。歌詞の意味がわかった。『途方もない空白に立ちすくむ足 飛び降りろと背中押す影』この影が自分にも見えていた。今日も駄目だったと思いながら生きていた。
眩暈SIRENの音楽をもっと知りたくなってタワレコでジュブナイル論というミニアルバムを買った。パソコンでCDを読み込んでiPhoneに同期させいつでも眩暈SIRENの音楽を聴けるようにした。歌詞カードはCDケースから取り出し何回も読んだ。京寺さんのブログの存在を知り、でらブロも繰り返し読むようになった。ゲーム実況動画も何回も見た。死にたいという気持ちは消えなかったが京寺さんが発信してくれる内容は憂鬱な毎日の唯一の楽しみになった。
眩暈SIRENのシングルやアルバムがリリースされたらCDを買い、レコ発ツアーが発表されたら行ける限りのライブは行った。眩暈SIRENの音楽が救いだった。本当に救われた。死にたいと思ってしまう自分を許してもらえている気がした。がんばって生きようではなくそのままでいいと言ってもらえている気がした。気持ち悪いかもしれないが眩暈SIRENを自分の身体の一部に取り入れたかったのでバンドロゴのタトゥーを彫った。「生」の象徴である右腕を眩暈SIRENで埋めたかった。だめになりそうなときは右腕を見たら大丈夫まだ大丈夫と言い聞かすことができた。だってこれは羅針盤だから。
自分で立ち上げたイベントが6周年を迎えた日、眩暈SIRENの公式アカウントから「このあと24時に最後の新曲をリリースします」という投稿があった。本当に解散してしまうんだ。言い方は悪いかもしれないが先に死んでしまうんだ。自分はあなたたちの音楽があったから今生きていられるのに。なぜいなくなってしまうのか。帰宅途中で24時を迎えたので新曲を聴きながら帰った。眩暈SIRENと出会った頃を思い出した。これが京寺さんの今の歌声。うれしいな。眩暈SIRENの新曲が聴けてうれしい。でももう眩暈SIRENに未来はない。解散してしまった。新曲をリリースしたことによって全て過去になってしまった。眩暈SIRENはいない。右腕に新しいバンドロゴが増えることはない。終わってしまった。悲しいとか寂しいという感情はなかったと思う。解散の事実がまだ受け入れられていない。
あなたは悲しい歌や辛い歌ばかりを残した、後ろ向きな言葉しか無くて皆を暗い気持ちにさせた、押し付けていたと話していましたね。そんなことはなかった。死にたかった毎日から救ってくれた。死んだ後も寄り添い続けると言ってくれた。そんな音楽をつくってくれた。独りで泣くなと言ってくれた。ライブハウスの中で自分を見つけてくれた。あなたが教えてくれた命の熱を忘れることはありません。わがままかもしれないですがまたどうか5人でライブをしてはくれないでしょうか。お願いです。今までお疲れ様でしたありがとうございましたと言ってしまったら本当の意味で終わりを迎えてしまいそうで怖いです。ごめんなさい。
これからもずっと眩暈SIRENが大好きです。

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