ディズニーパークに見るお化け屋敷と「蒐集」
こんにちは!
東京大学お化け屋敷サークルInsomnia広報本部長のつばさぬです。
私たちInsomniaは不眠症をテーマにしたお化け屋敷を制作中です。
このnoteでは個性豊かなサークル会員たちがホラーコンテンツやお化け屋敷、テーマパークのことなどを自由に発信しています!ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
はじめに
さて、皆さんは日本で一番有名なお化け屋敷といえばどこを思い浮かべるでしょうか。
富士急ハイランドの『戦慄迷宮』やお台場の『台場怪奇学校』などが有名どころだとは思いますが、やはり誰しもが一度は訪れたことがあるという点でいえば、東京ディズニーランドの『ホーンテッドマンション』が挙げられますよね。
弊サークル会員の中でも、お化け屋敷にはほとんど行ったことがなくてもホーンテッドマンションは体験したことがあるよという方は多くいます。
そんなホーンテッドマンションですが、こちらについては様々なことが既に語られていると思いますし、僕よりも詳しい方は他にもたくさんいらっしゃると思いますので、そのような方々に託すとして、僕が今回お話するのはそのお隣の東京ディズニーシーについてです。
最初に断っておきますが、ここで僕が書く内容は決して確定的な情報を伝えるものではなく、あくまで僕個人の妄想の域を出ないということをご了承ください。
ディズニーシー流お化け屋敷『タワー・オブ・テラー』
東京ディズニーシーのお化け屋敷的立ち位置のアトラクションといえば、言わずと知れた『タワー・オブ・テラー』が挙げられるでしょう。
本来アメリカにあったディズニーパークから輸入されたアトラクションという点ではホーンテッドマンションと共通していますが、そちらが既存のものをほぼそのまま輸入したのに対して、ディズニーシーのタワー・オブ・テラーは日本の完全オリジナルストーリーであるという点で異なります。
話せば長くなるので簡潔に述べますが、本来アメリカのパークにあったのは『トワイライトゾーン・タワー・オブ・テラー』と呼ばれるアメリカのテレビドラマ『トワイライト・ゾーン』をモチーフとしたものでした。
日本のアトラクションにこの設定が残されなかったのは、元々のアトラクションの建物が『ハリウッド・タワー・ホテル』であったのに対して、ディズニーシーにあったのはニューヨークを舞台としたテーマポート(エリア)であったためとも、そもそも日本で『トワイライト・ゾーン』の知名度が低かったためともいわれています。
ディズニーシーのタワー・オブ・テラーは本国からホテルという舞台とフリーフォールの要素を引き継いではいるものの、ストーリー面ではまったく違うオリジナルなお化け屋敷を成しているんですね。
『タワー・オブ・テラー』と蒐集
では、日本版タワー・オブ・テラーにおけるオリジナル要素はどこに見出すことが出来るでしょうか。
様々挙げられると思いますが、ここではタワー・オブ・テラーの舞台となる『ホテルハイタワー』が、このアトラクションの主人公で、ホテルの主でもあったハリソン・ハイタワー三世のコレクション空間であるということに注目していきます。
このホテルの持ち主であった大富豪ハリソン・ハイタワー三世は世界中を旅する探検家であり蒐集家であったという側面を持ちます。ホテルハイタワーはその蒐集の本拠地となる場で、このホテルでは彼が世界中で集めてきた様々なコレクションを見ることができます。
また、このホテルの建築そのものが彼の世界旅行を反映したものとなっており、西洋のヴィクトリア様式を中心に、イスラーム風の装飾やムガル様式が取り入れられていたりします。
しかし、これらコレクションが並ぶ姿にはどこか不気味さを感じます。そしてこの不気味さこそがタワー・オブ・テラーというアトラクションをお化け屋敷たらしめている重要な要素だと思うのです。
全体的な照明の暗さや館内を流れるBGMもその不気味さに一役買っているとは思いますが、やはり我々ゲストが蒐集品そのものとそれらが並ぶさまに不気味さを覚えるのは気のせいでしょうか。
このアトラクションのメインお化け(?)となっている呪いの偶像『シリキ・ウトゥンドゥ』も本来はハイタワー三世のコレクションの一つとしてアフリカから持ち出されたものでした。
そしてこの蒐集品の一つとして並べられるはずだった偶像はハイタワー三世の最後のコレクションとなるとともに、我々ゲストにも牙を向けてくるんですね。やはり蒐集品と不気味さ、ひいては恐怖には関連があるようです。
蒐集品のもたらす恐怖
では、具体的に何が我々に不気味さや恐怖を与えているのでしょうか。まず第一に蒐集品そのものが我々の見慣れない異様な様相を呈していることが挙げられます。
シリキ・ウトゥンドゥにそれが顕著にみられますが、この蒐集品は明らかに「怖い」顔をしており、これそのものが不気味であると言えます。
私事にはなりますが、僕自身幼いころアトラクションの絶叫的な怖さよりも、シリキ・ウトゥンドゥという偶像の怖さに夜眠れなかったことをよく覚えています。
では一見すると怖くないように見えるコレクションからも不気味さが感じられるのはなぜなのでしょう。これは完全な僕の意見になりますが、それはこれら蒐集品が我々にとって未知なものだからではないでしょうか。
当然ですが、私たちは普段から見慣れているものに恐怖することはありません。私たちがお化けや幽霊といった類に恐怖するのはそれらが私たちにとって未知の存在であるからだと考えます。
文字通り我々の日常からは「化け」ているものであり怪「異」であるということです。(たぶん)
ホテルハイタワー内に並ぶコレクションは、世界中の様々な場所から集められたものであり、どれも当時のアメリカ人にとっても現代を生きる我々にとっても未知のものばかりです。
そしてそのような物に囲まれたコレクション空間にいることによって、私たちはうっすらと不気味さを覚えるのかもしれません。
それだけではありません。蒐集という行為はもとより様々なものを自分の手の届く範囲に置きたい、つまり支配したいという感情の現れだともいえます。
つまり世界中のものを蒐集するという行為は、未知なるものへの恐怖の裏返しになっていると考えられないでしょうか。そしてこのアトラクションにおいて、その恐怖は現実のものとなって襲ってきます。
つまりこのアトラクションには我々がもともと蒐集品へと抱いている恐怖に加えて、それが実際に牙を向いて襲ってくるという二重の恐怖を我々へと与えていると考えることができます。
香港ディズニーランド『ミスティック・マナー』
この「蒐集品がゲストに牙を向く」という構図のお化け屋敷はタワー・オブ・テラー誕生の7年後、香港の地にてさらなる発展を遂げることになります。それが香港ディズニーランドにオープンしたアトラクション『ミスティック・マナー』です。
香港ディズニーランドには日本のパークにあるようなホーンテッドマンションは存在せず、その代わりに全く新しいお化け屋敷であるこのアトラクションが誕生したというわけです。
こちらも簡潔に述べますが、なぜ香港ディズニーランドに従来のホーンテッドマンションがないのかというと、それは欧米と中国の死生観の違いによるもの。
日本では幽霊やお化けを空想的なものとしてみなすため、東京ディズニーランドのホーンテッドマンションがファンタジーランドに置かれることとなったことは比較的有名ですが、これに対して中国では先祖に深い敬意を払い、死者の魂を尊ぶ文化があります。
さらに孔子の言葉にも「敬鬼神而遠之(鬼神を敬して之を遠ざく)」とあるように、霊的なものに近づかないという文化も存在しています。
ミスティック・マナーを含む香港ディズニーランドの拡張計画を率いることになったイマジニア(世界のディズニーパークのデザイン・設計を担うエンジニア集団の通称)のジョー・ランジセロが着目したのは、このような地域による文化の相違でした。
ジョーたちはゴーストたちが陽気に歌うホーンテッドマンションは中国の文化に沿わないと考え、結果として幽霊もお化けも登場しないミスティック・マナーという香港ディズニーランドならではのお化け屋敷が誕生したのです。
そして前述のように、このアトラクションでは、幽霊やお化けの代わりに、蒐集品が我々ゲストに襲い掛かってくるものとなっています。
東京版タワー・オブ・テラーとの関連についても触れておきましょう。
実は東京のタワー・オブ・テラーの創造を総括した人物こそがジョー・ランジセロでした。つまりこの二つのアトラクションは同じ人物によって生み出されたものだというわけです。
彼によれば、このミスティック・マナーの屋敷の建築は東京版タワー・オブ・テラーのそれを参考にしているらしく、世界各地の建築様式が複合した姿をしているとのこと。
さらに、ストーリー上もこの二つのアトラクションにはつながりがあることが示唆されており(上記画像)、まさにミスティック・マナーは東京版タワー・オブ・テラーの系譜にあることがわかりますね。
『ミスティック・マナー』における蒐集
このアトラクションの舞台となっているのは、これまた大富豪で冒険家で蒐集家であったヘンリー・ミスティック卿が、自身の邸宅を博物館として公開した施設。
この時点でハイタワー三世との共通性がみられる人物ですが、どちらかといえば強欲で傲慢な悪人として描かれていた彼とは違い、ミスティック卿は善人で高潔な人物として描かれており、この人物が痛い目を見ることは特にありません。
その代わりに、彼が大事にしている猿のアルバートが「開けてはいけない」と言いつけられた魔法のミュージックボックスを開けてしまったことで蒐集品たちが命を宿し、アルバートと博物館ツアーに参加しただけの我々ゲストに襲い掛かります。
これがこのアトラクションのメインイベントとなっています。(ゲストからすればいい迷惑です。)
このアトラクションで描かれる恐怖とはまさに、蒐集品という未知なるものへの恐怖と、支配下に置いていた(置きたかった)はずのそれらが襲い掛かってくるという恐怖を体現したものであるといえます。
このアトラクションは終始どこかコミカルで、いわゆるお化けや幽霊は登場せず、タワー・オブ・テラーのような絶叫要素もありません。それでもミスティック・マナーがお化け屋敷として成立しているのは、そのような恐怖を我々に与えるからかもしれません。
まとめ
ということで今回は「蒐集」をテーマに、ディズニーが生み出したアトラクションである『タワー・オブ・テラー』と『ミスティック・マナー』という二つのお化け屋敷について述べてきました。
これらのお化け屋敷は、私たちにとって未知のものであり、支配しようとしても支配できないものに対して抱く根源的な恐怖をテーマにしているからこそ、人々を魅了し続けているのではないでしょうか。そしてこれがディズニーの導き出したお化け屋敷の一つの形であるのだと僕は思っています。
思ったより長くなってしまい恐縮ですが、ここまで読んでくださった方々ありがとうございました!我々お化け屋敷サークルInsomniaも自分たちなりのお化け屋敷の形を日々模索しながらお化け屋敷制作に励んでいます。
是非弊サークルの今後を見守っていただければ幸いです!
参考文献:
ジェイソン・サーレル(著)小宮山みのり(訳)(2017)『ホーンテッドマンションのすべて』講談社