AIブーム以前、Excelマクロでゼロからニューラルネットワークを組んだ男に独占インタビュー 【後編】
速達生プロジェクトでニューラルネットワークと出会い、ゼロから構築していった梶田社長ですが、実際にAIを導入するにあたっては、現場の方々との連携や運用面での工夫が欠かせなかったのではないでしょうか。
ここからは、実際にAIを導入するにあたっては、現場の方々とどのように連携していったのか、そして社長になられた今、AIでどのようなことを実現したいと考えているのかを伺いたいと思います。
前編はこちら↓
5. 現場とのコミュニケーションの重要性
——AI開発というと、どうしても現場の方々からは懐疑的な反応が出ることも多いと思いますが、当時はいかがでしたか?
梶田社長 : 確かにAIに対する理解や受け入れは難しいことが多いですよね。ただ、当時は父をはじめとする社内の皆さんがAIに対してオープンな姿勢を持ってくれていました。例えば「シミュレーションができる」「人の手でやるよりも改善できる」といったAIの利点を理解してくれていたので、導入に対する偏見や抵抗はほとんどありませんでした。
AIの精度を向上させるためには現場との連携が欠かせませんでした。現場にはAI開発者には見えない知見がたくさんあり、その情報が大きなヒントになったんです。
AIの精度向上に欠かせない特徴量の発見では、現場ならではの知見が活きましたね。例えば「トヨタの休日は飲食店の需要が増える」とか、「毎月1日は需要が伸びる」といった、現場の方だからこそ知っている情報を教えてもらいました。これらはAIに学習させる上で重要な特徴量になりました。
データ収集も、現場の協力がなければ進みませんでした。ビールの売り上げは気温に左右されるため、気象データを集める必要がありましたが、現場の方々が積極的に協力してくれました。
——現場の方々もAI開発に前向きに関わってくれたんですね。
梶田社長 : そうですね。特に仕入課のSさんにはとても助けられました。Sさんは統計やAIの知識を一緒に学んでくれて、特徴量の重要性を理解しながら、データ収集や的確なアドバイスをいただけました。また、会社全体として「言葉をきちんと確認する文化」が根付いていたのも大きかったです。
例えば、「寄与率」などAI特有の専門用語が出てきても、Sさんを含め現場の方が理解しようとしてくれて、私も現場の言葉を学ぶことで、言葉の壁を一つずつ乗り越えていきました。
こうした現場の協力があったからこそ、AIを開発するだけでなく、「一緒に作り上げている」という意識を持って、楽しく開発に取り組むことができましたね。
6. プロジェクトの成果
——AIの導入でどのような成果がありましたか?
梶田社長 : 在庫の削減や業務効率化といった目に見える効果はもちろんありましたが、一番の成果は「新たな価値を届けることができた」という点です。工場出荷から3日以内に新鮮な生ビールを飲食店やその先のお客様に届ける――これは従来の手法では実現が難しかった、新しい価値だと感じています。
今でも多くの人は「AI=効率化」「コスト削減のためのツール」と捉えがちですが、実際にAIを使ってみると、それだけではないと気づかされました。AIを活用することで、単に作業を自動化するだけではなく、「今まで届けられなかったもの」や「新しい体験」を生み出せるんです。
このプロジェクトを通じて、AIは現場の課題を解決する手段であると同時に、お客様に新しい価値を届けるための技術だと実感しました。AIの本当の魅力は、単なる効率化にとどまらず、「人の手だけでは実現できなかった未来を形にすること」にあるのだと思います。
7. 社長になった今、AIで実現したいこと
——AIに対して非常に可能性を感じていらっしゃることが伝わってきました。社長になった今、AIを通して実現したいことや、考えている事業について教えてください。
梶田社長 : そうですね。AIを活用して、これまでの常識や枠踏みにとらわれない新しい体験や価値を提供して、マルト水谷グループ全体で目指す「永続可能な外食店創造業」に貢献していきたいと考えてます。
そのために、ロジスティクス・管理会計・DXの三位一体での取り組みに力を入れていきたいです。そこの中では、飲食店での正確な需要予測を基点に、管理会計とロジスティクスを組み合わせていくことを考えています。
管理会計では、メニューの出数と売上予測を行い、飲食店アクションの改善を提案するAIを開発し、飲食店経営の支援をしていくこと、ロジスティクスでは、「売れるものを売れる分だけタイムリーに供給し、フードロスゼロの実現」に貢献していきたいと考えています。
それには外食店での正確な需要予測が必要不可欠になってきます。
もう一つDXとして考えているのが、AIを活用したワインと料理のペアリングです。
これまで、ワインと料理のペアリングは、経験豊富なソムリエがいなければ成り立たないものでした。しかし、AIを使うことで、誰でも手軽に「おいしい組み合わせ」を楽しむことができるようになるんです。
私は、速達生のプロジェクトを通じてAIは単なる業務効率ツールではなく、新しい価値を生み出すための技術だと強く感じました。ペアリング提案もその延長線上にあります。従来の「知識や経験が必要な世界」に、AIを通じて新しい可能性を加え、誰もが楽しめる場を提供したい――そう考えています。
AIを使うことで、人と技術が共存し、新しい体験や価値を生み出せる未来を作っていきたいですね。
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8. 学生へのメッセージ
——最後に、AIを学びたい学生へアドバイスをお願いします。
梶田社長 : AIは、何も知らないところからでも始められます。私自身もそうでしたし、当時の環境は今ほど恵まれていませんでした。それでも、「やってみたい」という気持ちがあれば、学び取る道は必ず見つかります。
大切なのは、自分が情熱を注げる分野やテーマを見つけることです。AIは今やあらゆる分野で活用されています。需要予測に限らず、医療、農業、エンターテインメント、環境問題――可能性は無限大です。その中で、「これを実現したい」「自分はこの分野に貢献したい」と思えるテーマに出会えたら、それがあなたの一番の原動力になるはずです。
AIというのはただの技術ではなく、新しい価値を生み出す手段です。効率化や自動化だけではなく、「今まで誰も考えつかなかったもの」「実現できなかったこと」を形にできる力があるんです。それを自分の手で実現できた時の喜びや達成感は、何にも代えがたいものがあります。
最初は小さな一歩で構いません。わからないことがあっても諦めず、一つひとつ学び続けてください。そして、「何かを変えたい」「新しい価値を届けたい」という気持ちを忘れずに、AIとともに未来を切り拓いてほしいと思います。
9. まとめ
梶田典宏社長のお話を通じて、AIは単なる効率化の手段ではなく、新しい価値を生み出すための技術であることを強く実感しました。工場出荷から3日以内に新鮮な生ビールを届けるという挑戦は、AIが「これまでの常識を超えた価値」を届ける力を持っていることを示してくれました。
また、AI開発は技術だけで完結するものではなく、現場との連携が不可欠です。現場の知識や経験、細かな気づきがAIの精度を高め、真に役立つツールへと成長させます。現場と一緒に新しい価値を作り上げる――その姿勢が、AIを単なる「効率化ツール」ではなく「未来を形にする技術」へと押し上げるのだと感じました。
AIを活用して新しい価値を生み出したい方、そして現場と協力し合いながら成長したい方は、ぜひ「株式会社インサイトリード」のインターンシップに挑戦してみてください。AIで何かを変えたい――その情熱が、未来を切り拓く第一歩になるはずです!
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