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Another008 Universal gravitation
プルートはとても憂鬱だった
この街では上流階級に属する彼女も、その中では最下層であり
立場をわきまえた行動を要求されたからだ
息が詰まる
まるで自分の周りだけ大気が薄くなったのではないかと錯覚する
貴族たちは、やたらとパーティーを開催した
着飾って、もてなして、自分を誇示するためだ
会場ではとりわけテーブルゲームが好まれた
下級貴族を負かすことで小さな自尊心をかき集める様は
ますますプルートを虚しくさせた
今日もできるだけ目立たないように、見つからないように
退屈な時間がすぎるのを、物憂げな顔でやり過ごす
会場が少しざわついた
さすがです。おみそれしました。ワンダフル。といった声が聞こえた
結果の決まった何かの試合が終わったのだろう
不快感をため息で吹き飛ばすために大きく息を吸ったときだった
「くそつまんないわ!ほんとにくそ」
この場に似つかわしくないセリフと声量に驚いてしまう
地球をカブった高級ドレスの婦人が唖然とする貴族たちを見下ろしていた
彼女は慌てた執事を引き連れて足早に会場を出ていった
プルートがアースを見かけたのはそれが初めてだった
あれから毎日プルートは彼女のことを考えている
何故か気になって仕方がない
憂鬱なパーティーにも顔をだして探したが見つけられなかった
アースは会場で行われていたゲームをつまらないと言っていた
彼女は当たり前のことをあんなに大声で叫んでいた
彼女となら本気になれるかもしれない
プルートはパーティーでわざと負けることをしなくなった
連戦連勝
煙たがる小言も、耳障りな陰口も気にならない
48億キロさきの燃えたぎるマグマがプルートを強く引き寄せる
見慣れない遊具に触れているとき後ろから声がした
「ねぇ…どうしてお星さまは丸いか知ってる?」
彼女だった
突然のことで気が動転して言葉が出ない
カブっている地球は思っていたよりも青かった
「私はアース。あなたの事を聞いたの…それでね私と勝負してほしいの」
プルートは彼女を真っ直ぐにみつめて深くうなずいた
木製のプレイヤーがボールを蹴る高い音が会場に響く
「さっきの質問だけれど、あなたは知っているかしら」
プルートは首を横に振った
このフーズボールの玉が丸いのは転がりやすくするためだ
でも星々が丸い理由は見当もつかない
「宇宙は真っ暗で音もない。目印も無いからすれ違うのも大変なの」
考えてみて…とアースは促す
白黒の玉がプルートのゴールに吸い込まれる
三回入ったから15点ね、変な計算とアースが言う
プルートは敗北した
こんなに清々しく負けたのは本当に久しぶりだった
ありがとうございました。プルートは心からの笑顔でそう言った
「負けたほうがお願いするのは変なのだけれど、教えていただけるかしら」
プルートは先程の質問の答えを求めた
どうしようかしらとアースは考える素振りをする
「じゃあまた私と戦ってくれます?プルートさん」
もちろんといって握手を交わす
「さっきの質問の答えだけれど、じつは私も知らないの」
アースは笑っている
「なにそれーやだー ほんとにやだー はらたつわー」
プルートも笑った
万有引力は質量に比例するといわれている
でもそれだけでは無いのかもしれない
階級も環境も距離も時間も超えて出会った二人のように
心の中心で対流する情熱こそが本当に人を引きつける
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