Another009 Tiny Little Forest
自分はいつの間に巨人になってしまったのだろう…
テーブルの上のサラダを見てジェイコブは考える
見慣れた野菜に混じって、小さな森が皿に盛り付けられていたからだ。
「ジェイコブ、それはブロッコリーよ。世界一小さな森なの
特別な栄養があって、あなたに力と勇気をくれるのよ」
野菜を食べさせるために言った、母親の軽口だったが
その日からブロッコリーはジェイコブにとって力の源、勇気の象徴になった
焚き火の中で木がはぜる音がして、ジェイコブは現実に引き戻された
キツネザルのリコとリノが不安そうな顔で彼を見上げている
「ちょっと昔を思い出していたんだ…もう大丈夫なんでもないさ」
ジェイコブはやさしく見つめ返した
およそ50メートル先で一組の家族が焚き火を囲んでいる
楽しそうな声が彼に郷愁を感じさせた
この森は私有地のためキャンプは出来ないが
管理が行き届いていないためか侵入者があとをたたない
ジェイコブはこの森を独り占めしたいわけではない
ただ火が怖かった、森を焼いてしまうかもしれない火が
だからキャンパーが来るたびに見守ることにしていた
食事も終わって夜も更けたころ、その家族は不思議な行動を始めた
拾ってきた枝の先に、白くて大きな丸いものを刺して火に翳している
甘い香りが立ち込める、どうやらあれは菓子のようだ
最後のマシュマロがとけて落ちた 子供が泣いている
また買ってあげると親が慰めて、家族はテントに入っていった
細くて長い煙が地面から伸びている 砂をかけるだけでは火は残る
「これだから素人は」ジェイコブは静かに近づいて鎮火した
その場を去ろうとする彼にリコとリノがマシュマロを差し出した
溶け落ちたものを拾ってきたようだ 味見をした二匹は興奮している
ジェイコブは恐る恐る口に運んだ
彼は今スーパーマーケットに立っている
あれが何かはわからないが、ここにはあるだろうとあたりをつけていた
家出したときに持ってきたマジックテープの財布に、小銭が残っていたのが最後のひと押しになった 彼らはマシュマロを買いに山を降りた
時間をかけて散々探したのだが見つけられなかった
店員に聞くのが一番早いけれど「それぐらい自分で探せよ」という顔をされるのがいやで時間を無駄にするタイプだった
しばらくすると人に囲まれた おそらく警備員たちだ
キツネザルを連れて入ったのが良くなかったのだろう
ジェイコブは観念して探している物の場所を尋ねることにした
頭に被った世界一小さな森にそっと触れた 力と勇気が湧いてくる
「この棒の先に刺して火で焼くと、甘くて美味しいお菓子をください」
ジェイコブはマシュマロを手に入れた
リャマに跨って森に帰る途中 ジェイコブは生まれてはじめて海を見た
この出会いは、彼の生活を一変させる事になる
ジェイコブが人々の勇気の象徴になれたのは
この特別な出会いがあったからなのだが
それはまた別の話
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