【音楽】Yaffle - After the chaos (2023)
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Yaffle - After the chaos (2023)
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・Deutsche Grammophon
・Post Classical
・Electronica
・Ambient
・藤井風
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Yaffle - After the chaosに寄せて
2023年2月26日放送の「関ジャム 完全燃SHOW」に音楽プロデューサー兼トラックメイカーとして、STUTS・ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)とともに出演していたYaffle。
番組内でポスト・クラシカルに言及する流れで現代における音楽との触れ合い方や自らの音楽制作の姿勢などを語ったのだが、その内容がとても論理的にまとめられて、スッと腑に落ちる話で大変良かった。
以下は番組内で語られた内容を私が受け取ったニュアンスで書き起こしてみる。
ポスト・クラシカル
サブスクが浸透して気軽に音源へ触れることができるようになりスピーカーなどのデバイスも小型化。人々は各々、スマートデバイスとBluetoothスピーカー等で手軽に家の中で音楽を再生できる環境になった。
その一方、音楽以外のコンテンツも掌の中で容易に手に入る時代。個人の時間は様々なエンターテイメントで奪い合いという状況だ。
そこで、音楽との触れ合い方は「◯◯しながら聴く」という"ながら聴き"のスタイルが定着し、家事や作業をしながら、それどころか別のコンテンツに触れながらという生活に寄り添うBGMとして適した音楽が求められているとのこと。納得。
では、それに適した音楽とはどういったものか。
仰々しい展開が少なく、リラックスして聴ける。スピーカーなども高価なものを求めるのではなく、インテリアに近いもので気軽に聴けることを意識しているというもの。
そこで注目されているジャンルがポスト・クラシカルというのだ。クラシックを再構築し、一種のポップさを取り戻す原点回帰的な思想、エレクトロニカなどの手法も交えながら…という代物らしい。
そして、Yaffleはこのジャンル、現代と音楽の在り方に注目していて、新作「After the chaos」の制作アプローチにも影響を与えているという。この新作はクラシック名門でありながら、ポスト・クラシカルを広めたとされるレーベルDeutsche Grammophonからリリースされたとあってアンテナが反応した。
私はそもそもこのジャンルを認知していなかった。
Yaffleの説明がとても腑に落ちて、この新作を聴いてみたという次第。この作品自体はポップな展開というのも感じるし、小難しくなり過ぎずとても聴きやすい作品だった。ポスト・クラシカル、今後も注目したいと思う。
ストラクチャー(展開やコード進行)とテクスチャー(音色や響き)
もう一つ、興味深かったのが音楽制作に対する姿勢の話。
聴き手にグッとこさせる手法や展開というのは、ある程度、理論的に解明され体系化されてきている。(それは演劇でも同じと感じる。人を感動させる展開やオチというのはパターンがある。と語ったときにレギュラーの古田新太の険しい顔がカメラに抜かれて少しドキッとした。)
では、その中で新しい音楽を生み出すということに対して、前述の手法や展開にあたる「ストラクチャー」ではなく、楽器の音やその使いどころ、時代に適したミックスといった「テクスチャー」に重点を置いて制作に向き合っているというのだ。なるほど、と感じた。
それはおそらく演劇でも同じだろう。大枠の展開はパターンがあるだろうし、シェイクスピアなどの作品や再演されるミュージカルなどは同じストラクチャーの台本をどう演出し、どう演技し、どう時代に合わせるのかというのを追求している気がするし、新作映画でも撮影技法などに重点が置かれることもあるだろう。
最近Yaffleが手掛けた音楽作品でテクスチャーにこだわったと例に上がったのが「藤井風 - grace」のイントロという。
ストラクチャーにあたるコード進行などはベーシックなものとのこと。
しかし、テクスチャーにあたる部分については、バイオリンやギターの楽器をそれぞれバラバラに演奏させて、後からコードに聴こえるようにミックスするという手法を取ったという。しかも演奏者には適当に弾いてくれとオーダーしたとのこと。
生命への讃歌。
絵本「スイミー」から着想を得たというが、小さい魚が集まって大きな魚として泳ぐ姿というのをイメージし、生命の力強さなどを表現したかったという。
そうやって説明を聴いてこのイントロを聴くと壮大なスケールを感じて、これも納得感があった。
Yaffleが語った内容は自身の感覚によるところが大きく言語化が難しい領域と感じるのだが、分かりやすく言葉にされていてとても感心した。
After the chaos
コロナ禍や戦争といった混沌がある世界のその後に向けて…というメッセージがあるのだろう。気軽に聴けるとはいうが、洗練された音だと思う。それでも、ふと再生してみようという気にさせるアルバムだ。