“やる気スイッチ”は実在するらしい。ONにするための方法とは?
いつの間にか市民権を得た「やる気スイッチ」という言葉。
おそらくCMで何度も流れるうちに浸透したのだろう。
やらなきゃいけないことがある。でも、やりたくない。そんなときに、
「あ〜マジでやる気しない〜。誰か“やる気スイッチ”押してくれぇ〜。」
と心の内で叫んでしまったりするほど無意識に使ってしまうワードだが、これは単なる“比喩的な表現”にとどまらないようだ。
“やる気スイッチ”を科学的に研究した人物
京大を卒業後、研究者として高血圧を引き起こす原因となる遺伝子レニンの解読に成功し、筑波大学の名誉教授となった人物がいる。2021年4月13日に惜しくもこの世を去った、故・村上和雄教授、その人である。
村上教授は遺伝子研究の果てに「遺伝子にはスイッチがある。そのスイッチは”こころ”に反応する。」という仮説にたどり着いた。しかし、科学者としては仮説だけでは成り立たないので、データを集め始めた。そこには笑いの代名詞、吉本興業が関わるまでに。
この動画(8分)で「笑いと遺伝子スイッチ」の関係性が語られている。
大腸菌の研究でわかった“遺伝子のスイッチ”とは?
ノーベル生理・医学賞を授与されるに至った、こんな実験をご存知だろうか?
パリのパスツール研究所にて2人の研究者が、大腸菌を使った実験で「遺伝子のなかにはスイッチのON/OFFによく似たはたらきがある」と発見した。
その実験とは、このようなものである。
これは、セロリが嫌いな人が山で遭難しかけて、命からがらたどりついた山小屋にセロリしかなかったら、「もうしゃーない」と覚悟を決めてセロリを食べるみたいな話(どんな例え話だ⁉)だが、世紀の大発見となったのは、ここからわかった遺伝子の仕組み。
※続きは「セロリ」を聞きながらどうぞ♫
無かった能力が身に着いた?もともと能力を持っていた?
研究者が知りたかったのは「ブドウ糖が大好きな大腸菌くんは、ブドウ糖が無くなったので、乳糖を消化する能力を“新たに身に着けたのか?”、それとも“消化する能力を潜在的に持っていたのか?”」というポイント。
そして研究の結果で判明したのは、"新しく身に着けた”わけではなく、”潜在的にもともと能力を持っていた”ということでした。
乳糖を分解する能力はもともと備わっていた。しかし、通常時はブドウ糖が大好きなので、乳糖分解能力がOFFになっていた。
ブドウ糖がもらえなくなってしまったことで、「しゃーないなー」と眠っていた乳糖分解能力を「ON!」にすることで「シャキーン!能力が新たに開花した!我はNEO大腸菌なり!!(キラーン)」となったのだ。
「無かった能力」が急に天から降りてきて身についたわけではなく、「もともと備わっていたがOFFってた能力」が環境変化に対応するためにONになった。「実は潜在的に能力を持っていた」とわかったことが世紀の大発見だったそうです。
カビも大腸菌も植物も動物も人間も、同じ
そして、もう1つの科学上のすごい発見があったそうです。
「生きとし生けるものは、まったく同じ遺伝子暗号を使って生きている」という発見。
生物の基本単位は「細胞」。細胞のはたらきは細胞の中にある「遺伝子=DNA」によって決まる。DNAが「生命の設計書」。その設計書どおりに細胞が動いていくことで、生物が形成され、存在している。
姿かたちは違っていても、生物は1つの細胞からはじまっている。DNAという設計書に従って作られていく。その仕組みは、カビも大腸菌も植物も動物も人間も、同じだという発見。
そして、どの遺伝子がONになってOFFになるかによって、どんな生物になり、どんな能力がONになっていくのかが枝分かれしていく。
DNAのなかには驚くほど整然と遺伝情報が並べられている。研究すれば研究するほど、「誰なん?こんなに規則正しく並べたのは?」と不思議な気持ちになってきた村上教授。
「ちょっと責任者出てきてもらっていい?」と呼びかけても誰も出てくるはずもなく、「なんかわからんけど、こりゃなんかあるぞ…」と感じるようになった村上教授は、その"なんかわからんけどスゴいやつ”を「サムシンググレート(偉大な何か)」と呼ぶようになっていった。
まぁ、これは、大自然を目の前にしたりすると感じちゃいますよね。「なんかわからんけど、スゲー」と。
太陽が昇って、風が吹いて、雨が降って、波が打ち寄せて、心臓が動いている。僕が努力してるから心臓が動いてるわけじゃなくて、勝手に動いてくれている。
まぁ「なんかわからんけど、グレートなサムシングはあるよなぁ。勝手に動いてるもんなぁ。」と、生きてるなかで自然とそう思ったりする。
「形作る遺伝子」と「スイッチ遺伝子」
実は遺伝子には「構造遺伝子」と「調整遺伝子」の2つがあるらしい。
「構造遺伝子」は、僕らの骨、筋肉、皮膚、臓器といった「構造」をつくってくれる。一方の「調整遺伝子」は、遺伝子のON/OFFを調整する役割を持っている。
最初は仮説だった「遺伝子のON/OFF」が、実験により実証され、その功績により二人の研究者は1965年にノーベル生理・医学賞を授与された。
どうやって“やる気スイッチ”をONにするのか?
さてさて、肝心の「どうやってONにするか?」の話へ。
さきほどの大腸菌くんであれば、ブドウ糖を撤去にすることで「もぉ〜仕方ないなぁ…」と乳糖分解スイッチがONになったわけだが、僕らはどうしたらいいのだろうか?
大腸菌が環境変化によって仕方なく能力をONにしたように、特殊な状況になったときにだけ驚くような能力を発揮するのが「火事場の馬鹿力」と呼ばれるもの。
それは究極の状況に追い込まれた人間の精神的な力として表現されがちですが、村上教授は「体のなかでそういうことを可能にするだけの化学反応が起きなければ、いくら気持ちで思っても何もできない。そこにはまずエネルギーが必要になってきます。」と語っている。
これは思い当たる経験が容易に見つかる。
・会いたくない人に会わなければならないときに、足取りが重くなる
・好きな人に早く逢いたいと思うと、足取りが軽くなる
・意欲が湧いてくると、睡眠時間を削っても疲れない没頭状態になる
・やりたくないことは、気が重くて時間の進みが遅く感じる
心のはたらきが僕らの体に影響を及ぼしている現象は、これも遺伝子ON/OFFの結果であると村上教授は言います。
物事には必ず2つの面がある
遺伝子をONにする方法がいくつか語られているなかで、最初に出てくるのは「プラス発想」をするということ。
「はいはい、ポジティブ思考ね。そういうの、もういいんで…」となりそうだが、無理矢理ポジティブに考えようとして、暗い闇からは目を背けるようなニュアンスではない。
「プラス発想」と言ってしまうと抵抗感があるかもしれないが、「何事も二面性がある」という考え方であれば無理がない。本書の中では、さらにエントロピーの法則を用いて科学的に語られてもいるが、ここではこのあたりにとどめておく。
「塞翁が馬」という言葉をよく思い出すが、何事も時間軸をどう区切るかで、そこから得られる意味は変わってくる。
短い期間で見れば、一喜一憂。
少し長い目で見れば、人間万事が塞翁が馬。
進歩しすぎた科学が現代人にもたらした弊害
さらに村上教授は科学者でありながら、科学が進歩したことによる弊害にも触れています。
「プラス発想」以外にも遺伝子スイッチをONにする方法は書籍に書かれているので、気になる方は「生命の暗号」を読んでもらえればと思いますが、
本を読むのは苦手、時間がない… という方もいるかと思います。
そんな方には、時間と場所は限られてしまいますが、「映像で見る」という手があります。
2024年4月14日(日)に、京都で開催されるイベントにて、村上教授が生前に「遺伝子スイッチと人間の可能性」について語っている姿を収めたドキュメンタリー映画が上映されます。
遺伝子スイッチがONになったことで人生が大きく変化していった2つのストーリーを通じて、人間とはなんとも不思議な可能性を持った生き物であることを感じ、上映後に出演者のトークを聴くことで、さらに深く考える機会が生まれる場になるだろうと思っています。
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2024年4月14日(日)@ヒューリックホール京都
■詳細・お申込は、下記のページから(京都に移転した文化庁から「文化枠」としてのお墨付きをいただいた形での開催となっているそうです)
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ひょんなことから、この映画をつくった監督の鈴木七沖(なおき)さんと知り合うことになり、このイベントのスタッフとしてお手伝いをさせていただくことになりました。それを機に、村上教授の「生命の暗号」を読み、こうして記事を書いている次第です。
この上映会は、単なる「映画を見る会」ではないことが関わりながらわかってきました。映画を観て終わりではなく、今回はそこに出演者や監督が登壇される。この映画を通じて伝えたかったことを、改めて今のタイミングで「リアルな場」を通して伝える。
今回は、七沖さんが監督として作った映画を2本同時上映するイベントを自らが主催して開催されるわけですが、「また同じことをやることはないと思う」と話されていました。
それは、登壇される方々を一同に集める準備の大変さもあるでしょうが、大きな理由としては「タイミング」と。スタッフとして関わりながら、きっと”それ”を感じる1日になるだろうという気がしています。タイミングの合う方は、ぜひ同じ時間と空間を共有できればと思います。
お待ちしています。(会場フラフラしてるんで、お声がけくだ〜い笑)