Pay it Forward!(『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』刊行に寄せて)
今日5/29(金)、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』が発売される(レーベル9冊目)。
512ページ。自分の編集者人生で最大のボリュームを誇る本となった。
この本は、日本中の傑出した起業家の方々17名の起業体験を26のケーススタディにまとめ、さらにそこから成功のための原則を抽出し、体系化した1冊だ。
本書の詳しい内容は共著者の井上大智さんのnoteが素晴らしいので、そちらに譲りたい。
僕からはこの本が作られた経緯を少しお伝えできればと思う。
起業には「定石」がある
「起業には一定の成功の定石があります。でもそれがきちんとまとめられていない」
そう経営学者の琴坂先生からお話をいただいたのはもう一年以上前だった。
YJキャピタルで代表を務める堀さんによれば、そういったノウハウは一部の投資家と起業家のコミュニティの中だけで流通しているそうだ。
「そのノウハウをこれから起業に挑む人にも広めたい」と聞き、直感的にやるべき本だと感じた。
が、そこからが大変だった(僕がではなく、関係者のみなさんが)。
共著者の堀さん、琴坂さん、井上大智さんは起業家の方々に累計何十時間ものインタビューを重ね、創業当初に「何を考え、どう行動したか」を確かめた。
(しかも、井上大智さんはじめ琴坂研究室のみなさんは、世に出ている雑誌やウェブなどの公開情報のほぼすべてを洗い出してくれた)
そして起業家の方は度重なるインタビュー、原稿確認だけでなく、筆記式のアンケートにも答えてくださった。
著者3人に起業家の方々が17人、そして各スタートアップの秘書・広報の方。
こんなに関係者の多い本はそうない。
連絡に次ぐ連絡、確認に次ぐ確認。そのすべてに、関係者のみなさんは本当に快く応じてくれた(自分の不手際で何度もご迷惑をおかけしたこと、この場を借りて、あらためてお詫び申し上げます)
関わる誰もが本気だった。
最終段階まで著者の三人と原稿をにらみながら、校了。
正直、かなりきつかった。
それでもやりきれたのは、全員がパスをつなごうとしたからだと思う。
「先にいる人」に向けて話す
校了後のある日、堀さんと琴坂さんへのインタビューに同席する機会があった。
すべてを語りきった取材の後半、「なぜこの本を作ったのですか」という問いに、堀さんはぽろっとこぼした。
「僕、一時は悔しい思いをしたんですよ。VCになった当初は、起業家から頼られる存在ではなかった。なぜかというと、起業経験がなかったからです。相談しにきた起業家の顔に、『起業していない人間からの言葉はいらない』と書いてありました。たしかに起業していない私が『起業のためにこうしたほうがいい』とアドバイスしても聞いてもらえません。では自分に何ができるのかと考えて行き着いたのが、『成功している起業家達が何をしてきたのかを伝えること』でした。そこから『次の世代の起業家のために話をしてくれないか』と先輩起業家に持ちかけたところ、誰もが驚くほど協力的だった。起業家には『Pay it forward』の精神があるんですよね」
琴坂さんが、堀さんの言葉を引き継いだ。
「私はこれまで、1000人以上の起業家・経営者と対話を重ねてきました。
ときには、とてつもない売上を誇る大企業の経営者が話をしてくれることもあります。なぜ、いち学者にそれだけの人が時間をとってくれるのか。
そう考えたら、彼らは私ではなく、私の後ろにいる1000人、10000人の将来を作る人たち、起業家や経営者たちに向けて語りかけているんだと気づいたんです」
この本は、著者が自分の話をする本ではなく、起業家から受けたパスを、次の読者につなぐための本だ。
著者が「次の世代の起業家のために」と先輩起業家にお願いし、先輩起業家は「そういうことなら」と自分の体験談を惜しみもなく伝える。
(本書を読んでいただけるとわかるが)想像しがたいほど多忙を極める起業家の方々がインタビューに答えてくださったのも、きっと著者の後ろに見えた未来の読者に語ってくれたからだと思う。
関係者全員が力を尽くしたが、誰も「自分のために」と思っていなかった。
もちろん、ケーススタディをつくる作業、そこから成功の定石を体系化する作業は素晴らしくクリエイティブだったが、それでも、それは「自己表現」のためではなかった。
今日、パスはつながれた。
この本の読者がいつの日か大物経営者となり、「起業する前に、『STARTUP』を読みました」と言ってくれることを願うばかりだ。
Pay it forward!
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最後になりましたが、あらためて、今回の書籍制作にご協力いただいた起業家の方々・関係者のみなさまに御礼を申し上げます。
NewsPicksパブリッシング 井上慎平