令和5年(ワ)第70648号
主文
概要
原告(美容クリニックの恵比寿院の院長)は、自身の制作・公開した動画に関連する著作権(複製権・公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)並びに実演家人格権(氏名表示権)が、被告が運営するX(旧Twitter)上の匿名投稿者による投稿で侵害されたと主張。
原告は、損害賠償請求に必要な発信者情報の開示を求めて、プロバイダ責任制限法に基づき東京地裁へ申立てを行ったが却下された。これを不服として本件訴訟を提起。
裁判所は、原告の主張する著作権及び著作者人格権侵害は認められず、発信者情報開示の必要性も否定されるから、原決定(申立却下)は妥当であり、これを維持すべきと判断。
事実関係
原告は、原告自身による患者に対する術前カウンセリング、施術、術後の様子、術後の経過等を撮影し、これを一連のストーリー仕立てにした本件動画(約8分)を作成。原告は、原告が開設する「◯◯◯◯◯/医師「美容皮膚科」」と題するYouTubeチャンネル(「原告チャンネル」)において、本件動画を公開。
氏名不詳者は、原告チャンネルにおいて公開されていた本件動画から画像3枚を切り出し、これらの画像と共に「バッカル除去手術でも帽子は被らない」「ヒアルロン酸はもちろん髪の毛を垂らしたまま施術を行う」等と記載された本件記事を投稿(「本件投稿」)。これらの画像の左上隅には、原告の氏名の表示(「本件表示」)が付されていた。
※ バッカルファット除去手術:頬の内側にある脂肪を取り除く施術
本件投稿により表示される画像のうち2枚(「本件他の画像」)は、これを閲覧する者において、本件表示が付されている様子を見ることができるようになっているものの、1枚は、Xの仕様である機械的な処理により、左部及び右部がトリミング(切除)された形となっているため、本件表示を見ることができなくなっている(「本件画像」)。
裁判所の判断
争点1:著作権侵害の成否(引用の成否)
→ 肯定
引用の要件
① 引用された著作物が公表されたものであること
→ 肯定
② 公正な慣行に合致したものであることについて
→ 肯定
③ 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることについて
→ 肯定
争点2:氏名表示権侵害の成否
→ 否定
裁判体
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 間明宏充
裁判官 塚田久美子