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小さな奇跡 「オーバー・ザ・レインボー」

ナレーター大野恵里佳30代。エッジを効かせた表現を武器に、ワクワクさせるナレーションを目指してきた。そんな彼女の小さな奇跡。

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【運命の日】

漠然と声優になりたいなーと思いながらもニートになっていた。
「芸の世界でご飯食べるなんて、あんたにゃ無理やけん!」
親の反対。消化不良のまま、ただただ漠然と過ごす田舎の日々。
同級生「えっちょんって今何してるの?」
恵里佳「ふがっ!!へへへーこのとり天めっちゃ美味しいやん!」
そのとり天はなぜだか涙の味がした。やがて同級生たちは自然と遠ざかっていった。
退屈で孤独な田舎の日常。そこには変わりたい自分、変わらない自分がいた。
その日は突然やってきた。2011年3月11日東日本大震災。
普通の日常が瞬時に破壊され、あっという間に命が奪われていく理不尽さにショックを受けた。
「人間いつ死ぬかわからんけん、死ぬ前にやりたいこと全部やっとかんと。こんなハズやないんに、何やっちょんの私!って、まぁ何もしてないんだけど。。。」
それから地元のラジオ局でADとして馬車馬のように働いた。低賃金だったけど。なんとか貯めた金を握りしめ、勢い勇んで上京した。

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【ダイブ】

飛び込んだのは大手声優プロダクション付属の養成所。そこでは声優もナレーターも活躍していた。ナレーターの道ってのもいいかも知れない。「ウッシッシ」
ただそこではお芝居の勉強がほとんどだった。
恵里佳「きっとお芝居の勉強もナレーションに役立っちゃうんだぞ はぁと」
あっという間に1年が過ぎ、所属オーディションには、まるで引っかからなかった。
「こんなハズやないんに。やりたいこと全部やっとかんと」
ネットを見て、売れっ子ナレーター達が講師をしてるスクールバーズに飛び込んだ。
そこでは徹底的にナレーションの型を叩き込まれる。以前の養成所では”表現は自分の内から生み出すもの”と教わっていたのとは対極だった。
そこで恵里佳が研究対象としたのは売れっ子の「アモーレ笠井」だった。来る日も来る日もアモーレ。ひたすらアモーレ。アモーレの睡眠学習までやった1年半。

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【オーディション】

そんなある日。猪鹿蝶のマネージャー武信から電話が来た。
「来週スタジオオーディションやることになったから来て!ゴールデンの番組だから!」
それはアモーレ笠井テイストな人を探しているとのオファーだった。唐突なチャンス。
「これはもらった!私しかいない。いきなりゴールデンデビュー来たー!!神様っているんだ」心は踊り浮かれた。初めてのオーディションだった。
オーディション会場には、名前を聞いた事のあるナレーターばかりが呼ばれていた。前の声優事務所の売れっ子も来ていた。まぶしかった。
「ずっと底辺を歩んできた私が。。。ここにいていいんだっけ?」頭が真っ白になった。
キューランプが赤く光る
D「うーん、、、もっとテンション上げてもらえます!?」
恵里佳「え、あ、すいません!」
D「カフ上がってないです」
恵里佳「ず、ずいませーん!」
それからはキューランプの赤い点滅しか覚えていない。っていうか思い出したくもない。

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【エッジの覚悟】

残念な結果をバーズの大窓王に伝えに行った。
大窓王「恵里佳、君は決して天才ではない。でも可能性はあるよ。大きなゴールを決める可能性。それに必要なことは。エッジにいる覚悟。そして与え手である意識」
どこかで”まだ修行中の身”という気持ちがあった。だって売れてないんだから。でもそれは逃げだったのかも知れない。後先考えずに赤坂に引っ越した。仕事があるわけではない。だからがむしゃらに営業もしてみた。フリーなのだから。でもそれはニートではない。
「あー、事務所入ってないとうちは取引しないんだよねー」ぐぬぬ。
「新人かぁ、もっと実績ないと使えないなー」ぐぬぬ。
でもマネージャー陣も似たような苦労をしてるんだ。と思うと心は折れなかった。
それでも時間は残酷に過ぎる。同期や、後輩は売れていくのに自分には仕事は雀の涙もなかった。
恵里佳「もうナレーターとして、可能性が無いのかなぁ」
焦りや、不安。心の限界。それでも人の活躍を妬み、うらやむだけの人間には絶対なりたくなかった。「自分で自分の可能性を信じる」ひたすらにボイスサンプルを作り続けた。

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【プロである理由】

5年が過ぎた3月のある日。一本の電話。猪鹿蝶マネージャー狩野からだ。
(あれ、ヤバい何かやってしまったかしら…)と恐る恐る電話に。
狩野「春からのゴールデン新番組。最終候補二人に残ったから」
相手は泣く子も黙る男性のトップナレーターだ。
恵里佳「ぐえー。あ、失礼しました。。。」
胃が痛い。あーむりむりむりむり!
しかしそのゴールデン新番組は恵里佳で決まった。
狩野「あー、まだお試しだから。新人だし。毎回テストみたいなもんかなー。必ずレギュラーとるようにねっ!」キリッ
あまりにも唐突すぎた。驚きを通り越して無。そこは虚無の世界だった。
新型コロナウイルスで明日どうなるかわからない状況。現場は緊張感でピリピリし続けていた。
「それでも私は私にできるベストを尽くすだけだ。それがプロとしてここにいる理由なのだから」
2ヶ月間どうなるのかと胃が痛かった。
狩野「正式にレギュラー決まったよ!」

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【虹キューブ】

レギュラー獲得を大窓王へ伝えたかった。バーズの生徒たちとの放課後の場。なんだか懐かしさがこみ上げる。
大窓王「おめでとう!素晴しい。ゴールデンナレーターだね。じゃあシャンパンでも開けよう。みんなで売れてる勢いを飲もう!」
気恥ずかしかった。「いやいや私なんてまだ」と言いかけたが止めた。
「覚悟しなきゃ」シャンパンをぐっと飲み干す。
大野恵里佳は虹のキューブを一つ獲得した。それはキラキラと輝いていた。

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■現在の(地上波レギュラーのみ)一覧表
http://bit.ly/2Pg3k9w
■猪鹿蝶公式HP!
https://inoshikacho.axto.jp
■感想、悩みや質問を募集しています
https://bit.ly/2yBe91M

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