第2話「お金入れてくれるのは誰か」
「夜の路上の弾き語り」で食いつないでた僕。
駅前を通り過ぎる何千人の中でも、たくさんの人が反応してくれたのでした。小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで。応援をしてくれたり、泣いてくれたり、隣に座って曲をきいてくれたりするのでした。
平凡なのに普通のことをしたって
僕は「お金を稼ぐことが目当て」に路上に出ていましたので、当然ながらお客さんを一人でも多く捕まえようとやっきです。
ウケ狙いで、時には「wow 輪になってなんちゃら~」みたいな歌まで顔を赤らめつつ歌っておりました。
でもほとんど成果につながらなかった。
立ち止まったとしても、女子高生とか、べろんべろんに酔っぱらってキャバ嬢と一緒にどこぞに出かけるおじさんです。
この人たちはさんざん話しかけておいて、お金は入れてくれませんでした。
「感性が合えばいい」わけでもない
魂が伝わらないからかなぁと、自分が本当に好きなアツい曲だけを歌ってみたり、オリジナルソングを歌ってみたりもしました。
でもダメ。
感性が似た人が立ち止まってくれるので、話は盛り上がるんですけど、なぜか多くはお金にはつながらなかった。
2~3時間話したあとの彼らがくれたのは…
「ポケットに入っている何かのおつり」でした。
僕はバイト失業中。
正直言ってやはりお金がほしかった。
ていうか、そうしないと帰りの電車賃がない(涙)
ターゲットを絞ってみようと
そこで注目したのが「お金に余裕のある人」、つまり30代後半~50代の「サラリーマン」です。
この人たちだけにターゲットを絞ってみようと。
この人たちは、僕がもともと趣味で歌っていたフォークソングに、お金を入れてくれることが多かった。
呑んで帰ってくる道すがらなので、財布の紐もゆるかったんでしょう。
おつりではなく千円札をいれてくれることが多かったのです。
しかも、すぐに帰ってくれる(明日も仕事があるからです)ので、こちらもすぐに別の新しいお客さんをつかまえることができます。
この「サラリーマンだけ狙いうち作戦」は当たりました。
それまでは何人に評価されようと「行き帰りの電車賃」で消えてしまう金額しか稼げなかったので、これは嬉しかった。
さらにセグメント化
さらにわかったことは、「同じサラリーマンでもいろいろいる」ってこと。
「30代前半」のサラリーマンはダメでした。
元々フォークソングにひっかからない年齢層だし、たとえ歌をきいてもらえたとしても、彼らにはまだ、経済の余裕がなかったようです。
一方、「60代以上」はオーバーしすぎ。
彼らには経済はあるけど、年齢的に「演歌が好き」だし、フォークソングのなよなよした感じが生理的にダメなようでした。
石原裕次郎や村田英雄の「男らしさの世界観」を求めているようでした。
漠然とサラリーマンといっても、いろんな状況があるのだとわかりました。
最初に「どの層」か
そうやって「お客さんの生態」が少しづつみえてきたころ。
なんとなく同時に見えだしたものもあります。
「最初に誰の足を止めるのかが1日のアガリを決める」ってことです。
アタリのお客さんは「アタリを呼ぶ」。 ハズレのお客さんは「ハズレを呼ぶ」んですね。
うまく読者には字で伝えられないけど、「お客さんは同じ生態のお客さんを呼びがちだ」ってことなんです。
お客とお客はつながってる
何が言いたいかというと、サラリーマンは同世代のサラリーマンを「呼び込んでくれる」のでした。
道行く同世代に勝手に声をかけてくれたり。
僕は何もしていないのに、おじさんが2人僕のうたを立ち聞きしてるだけで「なにしてんの?」と3人目のおじさんが寄ってくるのでした。
おじさん同士は全員知らない者同士だったりします。
この現象は不思議でした。
懐かしい気持を共有したかったのかもしれませんね。
お客が散るとき
一方で、せっかくのおじさんを、意図しないところで、散らしてしまうお客もいました。
本人は良かれと思って僕のところに来てくれてる訳ですから、これは参りました^^;
それは10代の男女カップルとか、家出少女とかですね。彼女らはいくところもすることもないので、こうした路上の出会いが好きなんです^^;
さて、おじさんが集まって人だかりができ、それに興味を持った「家出少女」などが、歌ってる僕の周りに集まると…
ギャラリーに、他の若い子らが集まって来てしまうのでした。
するとおじさんが霧散!
いったん若い客が張り付いてしまうと、その後、どんなおじさんも立ち止まらなってしまうのでした。
「若者向けファミレス風居酒屋」の扉をガラっとあけたとき、大声の若者ばっかりだとなんか面倒な気持になるのと、同じ感じかもしれませんね。
僕は勝手に「女子高生が客寄せになってくれるかも!」などと思っていたのですが……
そうはうまくいかないのでした。
絞ることで
さて、ターゲットを「最初から30代後半~50代のサラリーマンにしぼる」ことにした僕は、早速「懐メロだけ」のヘビーローテーション。
そうすることで、立ち止まってくれる人はサラリーマンだけになり、少しづつアベレージがあがっていきました。
一晩で「千円札数枚と小銭」だいたい2~5千円くらいの収入がほぼ安定していったのです。
そんな中、ある事件がおきます。
それはぼんやりと「人がお金を払う理由」のイメージがつかめてきた僕にとって貴重な体験。
僕の前に「あるお客さん」が現れたのです。
その人は座っている僕の前に仁王立ちをして、こう言ったのでした。
『あたしを泣かせてみなさいよ』と。
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