15日目:「オリオン」とは過去と未来を繋ぐ星(100日目に40歳になる猪瀬)
「オリオン」と聞いて浮かぶものがいくつかある。まずはビールだ。苦すぎずすっきりと飲みやすいのが特徴の「オリオンビール」。ぐいぐい飲めてしまう沖縄生まれのにくいやつである。飲み過ぎに気をつけたい。
つぎなるオリオンと言えば大阪にある駄菓子を作る会社だ。ライターをモチーフにした甘くて酸っぱい「梅ミンツ」、コーラ味のラムネがいっぱい「ミニコーラ」など、限られたお小遣いで楽しもうとする子どもに寄り添うお菓子にはワクワクが溢れてる。私も何度お世話になったかわからないし、いまでも我が子のおやつとしても活躍しているので歴戦の猛者である。
他にもオリオンと言えば、曲名だったり、FGO(Fate/Grand Order)だったりと思いつくが、今回の本命オリオンは星座だ。
① 「オリオン」 とは
辞典がスマホアプリで利用できるのは非常にありがたい。気になった言葉をいつでもすぐに調べられるというのは精神衛生上とてもよいのだ。
家に帰って辞典を引くまでのこのモヤモヤとした気持ちを抱えないで済むのだから、こんなに素晴らしいことはないのである……スマホのある時代に生まれてよかった。
ということで「オリオン」を調べてみよう。
オリオン
・意味
〔Orion=ギリシャ神話に登場する巨人の名〕
星座の名。冬の夜空を飾る、三つ星を中心とした美しい星座。
出典 :『新明解国語辞典(第8版)』(2020)三省堂
以外にシンプル。オリオンの名を冠する企業やサービスは多々あれど、意味はどれも同じということか。
アルテミスやアポロンが絡んでるようなギリシャ神話だった気がするけどもう全然覚えていない……。星座に名称を付けようとなったとき、ギリシャ神話をモチーフにしたというのは興味深い。
当時の政治や宗教の影響があったのだろうか。それとも中二病的な発想で思いついたのだろうか。「これなんとなくオリオンじゃね?」とか「じゃ、遠いこれ蠍座にしとく?」みたいなやり取りがあったのだとしたら面白い。
② 私の釈義
小学1〜2年の頃、冬の遅い時間になると家の軒先に出て父と天体観測をした。寒さで澄みきった空気の中、白い息を吐き出しながら夜空を見上げれば満天の星がキラキラと輝いてそれはまるで宝石のようだった。
そして、私は宝石を収集している海賊にでもなったかのようにくまなく星を探し、掲げた指で空を何度も何度もなぞった。
夢中になって遊んでいると空いてる方の手をそっと父が握ってくれた。そのときの父の表情を思い出すことはできないが、差し出してくれた手がとても暖かかくてなんだか嬉しかったのを覚えている。こうしてはじめて覚えた星座の名前がオリオン座だった。リゲルとベテルギウス、二つの星が冬の空で強く輝いていた。
オリオンとは過去と未来を繋ぐ星
父とはたくさん素敵な時間を過ごしたが、それと同じくらい、もしくはそれ以上に負の感情を抱くことも多かった。端的にいって父は酒癖が悪かった。溺れるように酒を飲むことの醜さを大人になる前の私に教えてくれたよい反面教師である。
そんな具合なので、私が自分の意思表示をハッキリできるまでに成長すると酒を飲んだ父とは喧嘩にしかならなかった。ただでさえ思春期の子どもは色々と拗らせているところを、理不尽な親の行動はいちいち気になって仕方ない。要は相性が最悪なのだ。
父が感情で武装するなら私は理論で武装をし、父が理論を武装するなら、私は討論で応戦した。どちらかが感情に囚われて暴走しようものならもはや泥沼である。父との抗争は激化の一途を辿ったが、ある日、最終的には母にそのツケがまわっていることに気づいた。
それからは夕方以降の父と顔を会わずに済むよう、主に塾と部活に自分の時間を充てて家にいないようにした。きっと手放したくない思い出もたくさんあったはずなのだが、日常の中で少しずつ濁っていった感情に黒く塗りつぶされてしまったようで、いまではあまり覚えていない。
天体観測はそんな中でも残された父との数少ない思い出の一つだ。だからこそ、数年前に我が子と一緒にグランピングで見たオリオン座はとても感慨深かった。この瞬間を私との数少ない思い出にはしたくない、もっとたくさんの思い出を作ってあげたい。そんな気持ちでいっぱいだった。
もし我が子に子どもができるようなことがあるならば、そのときはいままで得た体験をまたその子に還元してもらいたい。望遠鏡を覗き込んでオリオン座を眺める彼の横顔を眺めながら、私はそう心の中で静かに願った。
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