【INOSHIRU記事紹介第3弾】
一問一答コーナー
名前:宮岡 慎一 (SHINICHI MIYAOKA )
所属大学・学年:北海道大学医学部医学科5年
留学先の国:アラブ首長国連邦
留学先の大学(機関):Tawam Hospital
留学の期間:2週間
留学の目的:臨床実習
留学の費用(概算):15-20万円
-学費:なし
-家賃:なし
-生活費:2~3万
-渡航準備(保険、航空券、Apartmentのdepositなど):約10万
プログラム(仲介してくれた機関/人):北海道大学医学部
利用した奨学金:北海道大学医学部
VISA:なし
保険:なし
留学中の住まい:UAE univeristy male housing
プロフィール
北海道大学医学部5年。大学入学までは外国に行ったこともなく英語もさっぱりだったが、入学と同時に様々な出会いを通して海外に興味を持つ。2年次よりウイルス研究の教室に通っていたこともあり、医学科3年次には1年休学をして米国 University of Wisconsin Madisonに留学し、感染症・がんを中心に学ぶ。また留学中や前後、長期休暇を利用して旅行や様々なプログラムを通して約35ヶ国の国々に渡航し、世界の感染症や公衆衛生、医療政策などに強い興味を持つ。また北方領土島民3世であり、VISA無し四島訪問や四島交流事業の運営を通して領土問題や国際問題全般に興味を持つ。現在は感染症、小児科、救急の分野に興味があり、将来は臨床だけではなく公衆衛生や国際支援など様々な視点で世界の人々の健康に貢献できるような人材になりたい。普段はSkypeで海外駐在員の帰国子女個別指導に励む。学内での医学部留学生受け入れ統括や講義1コマ担当。スペイン語オタク。
サマリー
・アラブ首長国連邦の人口80%が外国国籍という特殊な環境下で、様々な国から来た医療者が力を合わせて医療を提供している様子を見学することができた。
・日本で学ぶ医学で通用する部分・通用しない部分が明確にあることを自覚し、日本での実習・学習で欠けている点について意識できるようになった。
・今後海外の医療現場やシステムを学ぶ際の比較対象を得ることができ、次回以降の見学や実習をする際の下地を作ることができた。
Q1. 留学中にカリキュラムで学んだことについて
留学自体は2週間と短く、第1週目をFamily Medicine, 第2週をEmergency Medicineで過ごしました。
Family Medicineでは実際に先生の隣について午前中~夕方4時頃まで外来をひたすら見学するというものでした。患者さんが実際に外来を受診する時には、まず男女別々のwaiting roomに入り別々に受付を済ませます。受付を終了した後は、waiting roomにてナース(ほとんどフィリピン人)に呼ばれるまでwaiting roomで待機となります。ところで患者さんはUAEの国民(NAT)、それ以外のgulfの国々(GCC)、それ以外のNon-National(NON)の3つのグループに分けられたうえでその情報が外来診察中の医師のもとに届けられます。特にグループ分けにより受診の順番が前後したりはしませんが、UAEの国民は医療費がすべて無料である一方、それ以外の患者はみな自分の持ち合わせる保険に応じて医療費が決まるため、その目安として先ほどのグループ分けが診察表にも記載されていました。
そしてUAEでは外国人が全体の80%ほどを占めるということもあり、ドクターはもちろん、一般の患者さんも簡単な英語が話せる場合がほとんどです。外来診療は基本的にはアラビア語で行われますが、先生方は逐一今は患者さんとどんな話をしているかを英語で説明してくれて、中には英語で症状を訴えてくれる患者さんもいました。外来見学中は、「頭頸部の診察をしてその結果を知らせてください」「腹部の診察をして所見をまとめてください」といった課題がランダムに飛んできましたが、患者さんも外国人に英語で身体診察をされるのに大変慣れており、症状を英語で訴えてもらいながら身体診察をすることができました。呼吸困難の患者さんから話を聞いて身体診察を取っていくときに、心不全を疑うような所見やエピソードがあり、その問診・身体診察の様子をみて「You did excellent !」と褒められたりしたこともあり、英語の診察を形ながらも経験できたことは自分の自信につながりました。
第2週目はEmergency Medicineでの実習となりました。基本的には希望すればwalk-inからresuscitation roomまでどこでも見学できましたが、特に動きの多いresuscitation roomで一週間過ごすこととしました。このResuscitation roomは特に緊急性の高い患者に対する応急処置を行い、その後必要に応じて各診療科へ患者を仕分けるという役割を持っています。医師やナースには完全なシフト制が適応されており、シフトの期間は昼休みも基本的には取りませんが、時間になった段階ですぐに帰る医者が多い印象でした。よって担当する指導医や研修医も日ごとに入れ替わり、多くの医療関係者と関わることができました。またERを担当する医療従事者が大変国際性に富む点には大変驚きました。僕がいた4日間ですら、指導医はインド人、トルコ人、スーダン人、エジプト人と日替わりで外国籍のドクターが勤め、研修医もUAE出身だけでなくヨルダンやレバノン、パキスタンから来ていました。またそれを支えるナースはフィリピンやパキスタンから来ている人が多く、英語・アラビア語が入り混じる非常に国際的な環境でした。救急現場で用いられる道具や手技に関しては日本とはあまり大きな差は感じず(Artery Blood Gasは橈骨動脈から取っていましたが)スムーズに現場を理解することができました。毎回患者さんが運ばれてくるたびに、まずは研修医が問診や身体診察を取り、(指導医はアラビア語が話せない場合も多いため)その内容を指導医に英語でプレゼンし、フィードバックを受け治療を開始するという一連の流れに何度も参加させてもらい、眠っていた英語脳がまた呼び起こされるような感覚でした。実際に経験した症例はCOPDや心不全の急性増悪、肺炎や不整脈、てんかんや意識障害など日本で経験するものも多かったですが、交通事故による多発外傷(UAEの死因第2位は交通外傷)がほぼ毎日運ばれてきており、手技的な面でいうとエコーの当て方やPrimary/secondary surveyなどを教わることができました。
Q2. カリキュラム以外の、留学先ならではの現地での生活について
アメリカ同様に車社会で、1ブロックを端から端まで歩くのにも20分程度かかるといった具合で移動には大変苦労しました。寮の前の道路は横断歩道がほとんどないにも関わらず、片道3車線で制限速度100km/h前後で車が走っており、バスを乗るために対向車線に行くときはいつも命がけでした。
Q3. なぜその場所(国・大学)、その期間を選んだか
-場所について
北海道大学のプログラムで中東に留学が可能なプログラムはこのUnited Arab EmiratesのTawam Hospitalだけであり、また外国人が80%を占める国ではどのように医療が提供されているのかに興味があったためこのプログラムに応募しました。
-期間について
先方との兼ね合いもあり、5年生のこの時期でのみ実習を受け入れるというものでした。
Q4. 留学に至るまでの準備について
6月
□UAE大学交換留学 公募説明会 実施
□出願期間(1週間程度)
□UAE大学派遣学生選考試験(面接) 実施
□選考結果発表⇒手続き開始
7月~8月
・卒業試験期間
・夏休み(~再試験期間も含め9月中旬まで)
9月
□指定されたweb site上で【Required Documents】をUpload
□①Introductory Statement ②Preference of specialty を提出
□実習を予定していた期間が2週間早まる旨を知らされる⇒急遽実習期間が変更になる
10月
□航空券購入
□Security Clearance が完了する(メールにて通知を受ける)
□宿舎との連絡開始
11月
□UAE大学での実習開始
Q5. 準備、留学中の両方について、「こうしておけばよかった」と思う反省点と、自分なりに工夫してよかった点
普段から英語で医学を行うことを想定した学習を日本でもしており、それが役立ったと思うような機会もあれば、一方で一般的にはreview of systemでも英語で言えないものもあり歯がゆい思いをしたりもしました。医療者はもとより、患者さん相手にも思ったより英語が通じたので医学英語を勉強していけば行くほど、充実した実習になったと思います。
Q6. 留学していた場所について
・7つの首長国(Emirate) からなる
・首都はアブダビ(Abu Dhabi)
・人口は945万人
・面積は北海道とほぼ同じ
・UAE nationalは20% 弱⇒80%以上が外国人!
・公用語はアラビア語、ただし患者さんも含め皆、英語がある程度話せる
Q7. 留学中どのような人とかかわったか
病院では前述の通り様々な国から来た研修医や指導医と関わることができました。病院外ではもともと北海道大学に来ていた現地の医学生やその友達とお互いのカリキュラムの違いや授業の様子について話し合ったりもしました。
Q8. 英語の能力はどう変化したか
英語力自体は2週間という短い期間だったこともあり、あまり変化しませんでしたが、思ったよりも医学英語を勉強するモチベーションを得ることができました。英語が母国語ではない人たちが集まって医療を提供している環境は、実はそれほど敷居が高くなく(別にnativeのように英語を話せる必要はなく)医学的知識を英語やその他の外国語でも変わらず活用できれば十分働けるという将来への自信を身に付けることができました。
Q9. 留学のメリット/デメリットについて
-得たもの
・日本もUAEも、医学の知識は普遍であり今の勉強自体が将来の自分の身を助けるということ
・様々な国出身の人たちが協力しあって医療システムを回している現場を見学できたこと
・医学英語は海外の医療者とコミュニケーションを取る際の重要なツールになることを改めて実感したこと
-得られなかったもの
・80%もの外国人を抱えるUAEはどのように公衆衛生システムを構築しているのか、UAEの国民と外国国籍の労働者の間には医療を受ける上でどのような違いがあるのかについて、十分に知る機会がなかったこと
Q10. 現地で苦労した話について
先述の通り、大学間での移動には大変苦労しました。決して遠くはありませんが、実習先のTawam Hospitalと滞在先のAl AinのDown Townは徒歩で行ける距離にはなく、毎回命がけで交差点を渡りバスを利用するか、あるいは(安いので)タクシーを利用するようにしていました。
Q11. 留学について意識し始めた時期とそのきっかけ
昨年度に本学より学生を2名派遣した実績があることから、今回は本学としては2度目の派遣であり前年度の派遣者のプレゼンはUAEへ留学を決めるきっかけとなりました。実際に留学の手続きが開始したのは2018年6月頃でした。
Q12. 留学後の展望について
将来は自分の興味のある感染症や小児科、救急などのいずれかの分野で、実際に臨床医として働くのみならず、公衆衛生などの面から行政的な面でも世界の人々の健康に寄与できるような人材になることが自分の目標です。
そして自分が想定しているのは様々な国から来た外国人が協力しあって医療を提供している環境であり、今回のUAEでの実習はその具体的なイメージを得ることに非常に役立ちました。
Q13. 留学へ行く前の自分へのメッセージ
常に自分が今まで経験したことがないこと、何が得られるか予想がつかないところに向かっていくと自分の意図しなかった学びが必ずあります。そしてその学びは他ではなかなか手に入ることがないものばかりだと思うので、これからも積極的に「挑戦」を続けて欲しいと思います。
Q14. 後輩へのメッセージ
欧米やアジアでの臨床留学は比較的イメージしやすいかもしれませんが、中東での臨床実習の機会はそれほど多くはありません。中東に限らず、他の人があまり経験したことのない臨床留学を経験できる機会があるのであれば、積極的に挑戦する価値は大いにあると思います。一緒に日本から、世界の医療に貢献していきましょう。
Q15. その他、言い残したことがあればどうぞ
80%もの外国人を抱えるこのアラブ首長国連邦の医療事情を学びたい!そんな思いから始まった今回のUAE大学の留学でしたが、当初想定していたものとは異なり、(大学病院ということもあるのか)患者はUAE国籍の方がほとんどである一方、医療提供者側は国際色が大変豊かであり、様々な国から来た人々が協力しあって病院を運営している様子を見学することができました。社会的に弱い立場に置かれているであろう外国人労働者がどのような医療を受けているのか、という自分が最も興味のある部分を知る機会はそれほど多くはありませんでしたが、一方で英語・アラビア語を上手く使い分けながら様々な国の人が協力しあって仕事をしているその様子は 日本やアメリカなど一つの国に絞ることなく、様々な国から来た人たちと協力しあって世界の人々の健康を守れるような仕事をしたいと考える自分にとってとても魅力的に映りました。UAEは多様な人種を抱える国として外国人の受け入れは大変寛容です。病院の警備員やレストランの従業員、ドクターや街中のおじさんに至るまで、みんなが私達の今回の留学を歓迎してくれているような、そんな雰囲気に包まれていた2週間でした。