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『日本メーカー超進化論 デジタル統合で製造業は生まれ変わる』ものづくり太郎は”焼き鳥の串”

 有名Youtuber ものづくり太郎の著作だが、彼は製造業を横断し、日本のロケット開発で生まれ”焼き鳥の串”の機能を担っていることがこの本から分かる。

 米国でも日本でも、宇宙研究やロケット開発は、新技術だけでなく、役立つ知恵の宝庫だ。今でもそうだが、宇宙プロジェクトでは、科学者やエンジニアなど、多くの異なる領域の専門家が活躍している。そのため、それぞれの専門家を束ねる役割が必要になる。ロケット開発の父として知られる糸川英夫さんは、その役割を「焼き鳥の串」と表現した。串そのものは食べられないが、ネギやタン、ハツという、異なる部位のバラバラな食材を食べやすくするため、1本の串に刺すからだ。

「焼き鳥の串」がイノベーションを生み出す–ロケット開発から生まれた糸川英夫の「成功するチーム作り」UchuBizより

 本書では自動車産業の製造拠点としてタイが重要だとしている。ところが、タイに派遣されたいる日本人海外赴任者は、2、3年で交代する改革マインドのない人ばかりで、本社は設計機能をタイに置かず、単なる出先機関としてしか考えていないことも指摘している。これは他の日本のグローバル企業でも同じような状況だ。しかし、中国のEV企業はタイを本格的な製造拠点にしようとしている。そうなると、タイにおいて優秀な人材の獲得という意味で、日本は危機的な状態なのだろう。

 また、本書はデンソーの三次元CADを100人のパートを使い二次元の図面に変換して現場運営をしている、という状況についても注意喚起をしている。設計で新しい技術を取り入れても現場では従来どおりのやり方がされており、そこに合わさざるを得ないというのだ。しかし、例えば「aPriori」というソフトを使えば、三次元データを読み込み、製造プロセスを考慮したコスト計算ができるというメリットがあるという。デジタルツインによるシミュレーションなどもデジタル化のメリットだ。(これらは1990年代の後半にすでにトヨタ自動車では実現され、試作レスの開発がされている)

 「ものづくり白書」(経産省、2020年版)には次の結果が示されている。

  • 3Dデータでの設計を行っているのは17.0%

  • 3Dデータと2Dデータでの設計が44.3%(ex.デンソー)

  • 2Dデータでの設計が26.5%

 驚異的なFoxconnの規模を紹介し、「成功する人は方法を探し、失敗する人は理由を探す」「スピードのあるものには利益が残り、スピードのないものには在庫が残る」という創業者の言葉が成長の原動力だとも言っている。また、ドイツのインダストリー4.0の試みからも、日本の状況を国際比較している。一般的に製造業に勤務する人たちが日本国内の異業種を含めた製造業と比較したところで大差はない。3Dデータが浸透しない理由はここにもある。つまり、ものづくり太郎氏のような”焼き鳥の串”の機能をもつ人材が、水平に情報を集め整理分析し浸透させる必要性があるのである。

 最後に、ものづくり太郎氏は自分がやろうとしていることを次の3つに明確にまとめている。

  • 二次元データを扱うのをやめてCADデータを活用していくこと

  • 社内のデータ統一を図ること(マスターデータをつくること)

  • 業界全体、あるいは業界の垣根を超えて、システムなどの標準化を図っていくこと

 この3つができれば、AI時代に対応していくことができるというのだ。

 また、昨今のグローバルコンサルファームの現場をしらない実態を例示し、「虚無を売っている」と断定しているところなどはまったく同感する。そのため、製造業のエクゼクティブの集まる会員制のサロンのようなものを作るようだ。

 いずれにしても、ものづくり太郎氏はアクセス数で金を稼ぐYoutuberの領域を飛び越えて、世界の製造業を自由に水平移動し、上の3つの目的を日本の製造業で実現させる”焼き鳥の串”となることは間違いない。

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Creative Organized Technology 研究会(創造性組織工学研究会)
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。