『海外に送り出した社員の命をどう守る? 在るべき企業の海外危機管理』日本企業の海外赴任制度は限界に達している
1970年代から本格化した日本のグローバル化の手段である海外赴任者制度は、パンデミックに極めて弱く、海外赴任者は年々高齢化(既往症や持病がある)している。さらに社命とはいえ、無理に海外赴任をさせるとメンタルの問題におちいる若者も急増している。追い打ちをかけるように、人口減少が日々確実に進行している。日本人の海外赴任者だけでグローバルビジネスを拡大することは、明らかに難しくなっている。これはエンタープライズリスクマネジメントとして取り組まなければならない経営課題だが、その対策方法はすでに『日本人海外赴任者制度の限界と対策』(noteマガジン)で解説済みだ。
かといって、限界に達している海外赴任制度への対策は段階的にしかできない。本書はその対策によって減少していく海外赴任者や出張者をいかに守るかという意味で参考になる。
本書でも指摘されているが、日本のグローバル企業の海外赴任者や出張者の責任部署は、健康リスクについては人事部であったり、セキュリティーリスクについては総務部であったりと、体系的に整備されている企業が少ない。そのため、危機対応と危機管理を混同しているケースが多い。
危機対応とは、テロなどのリスクがあったときに対応することを指し、一般的にはクライシスマネジメントと呼ばれている。危機管理とは、テロのリスクのある国に赴任する場合には何を準備したらいいかなど、事前に準備することを指し、一般的にはリスクマネジメントと呼んでいる。この2つは根本的に異なる対応が必要になるので、それぞれに明確な方針をもっていなければならない。
例えば、平時に行うべき準備(リスクマネジメント)として本書が取り上げているのは、次の6つだ。
24時間365日の連絡受付対応
マニュアルの策定
国外退避計画
机上訓練
専門サービスの調達
専門会社の起用
平時には予防と準備、有事には緊急対応、終息時には再発防止が課題になる。本書に挙げられて例は、リスクマネジメントの基本が示されているが、人事ローテーションで海外赴任者の安全配慮義務担当になった人は、一度は目を通しておいた方がいいものばかりだ。
また、リスクマネジメントやクライシスマネジメントを行う専門サービスはアシスタンスサービスと呼ばれているが、これらを提供する会社は次のような会社だ。これらのアシスタンスサービスの会社を選び、海外傷害保険の足りない部分を埋めておくことも企業のグローバルリスクマネジメントにつながる。
アフリカ、南米、中東、中国の奥地、離島などの医療サービスのレベルが低く、セキュリティーリスクの高い国に海外赴任者が多い場合は、インターナショナルSOSを選ぶグローバル企業が多い。年間のサービス費用が高額なため、十分に使いこなせない場合、かなりオーバースペックなサービスになる。
欧米やアジアの医療、セキュリティーリスクの低い国に海外赴任者が多い場合は日本エマージェンシーアシスタンスか、ヨーロッパアシスタンス(旧AXAアシスタンス)などを選ぶグローバル企業が多い。医療アシスタンスサービスが中心なためセキュリティーアシスタンスは別会社と提携して提供されるケースがある。年間サービス費用は比較的安価。
特にセキュリティー関連のコンサルを得意とする本書の著者である安全サポートや、海外のリスク情報を提供する共同通信デジタルなどもあるため、これらをうまく組み合わせるとコストパフォーマンスの高いリスクマネジメント、クライシスマネジメントを行うことができる。
医療通訳サービスに特化した中国を得意とするWellBeなどもある。
いずれにしても、海外赴任制度をうまく現地化できた会社がグローバルビジネスに成功するという大きな流れの中で、どうやって既存の海外赴任者を守りつつ縮小し、持続可能な真のグローバル企業になっていくかが課題なのだろう。