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『BtoB製造業のコミュニケーション革命: 顧客接点のデジタル化がもたらす未来』価値創造と価値獲得を”つないでこそ”
B2B製造業に特化したデジタルマーケティングの本が出版された。日本のB2B製造業は自社の価値の把握と情報発信が苦手で、特に潜在的な顧客に対する価値の提供ができていないな現状を打破したいというのが著者のスタンスなのだろう。ニセコが外国人により価値の再認識がされたように、B2B製造業の価値は相手が判断するものだという前提がないと、潜在顧客とのコミュニケーションは成立しないという。
筆者のスタンスとして注目すべきは、価値のコミュニケーションを次の2つに分けていることだ。
・CC(コーポレートコミュニケーション)
・MC(マーケティングコミュニケーション)
神戸大学の石井淳蔵氏が指摘するように、顧客はブランドにお金を支払っている。ブランドが企業に宿りやすいのが日本企業、プロダクトに宿っているのは欧米企業とも言われているが、日本企業は日本市場に対してしか思考が及ばず、コーポレートブランディングを考えてしまいがちだ。
ところが、海外では販路がないことがほとんどだ。するとプロダクトブランドで勝負していくしかなくなる。そういう意味では、CCとMCという言葉を通じて、日本企業のブランド接点に対する意識を分けて考えさせる必要性は高いと言える。
控えめな日本のB2B企業が参考にすべきコミュニケーションをMBL.comとしている点も面白い。顧客の多彩なニードに答えるためMBL.comは、自分たちが持つ情報を最後の最後まで絞り出しているというのだ。一方、B2B製造業とデジタルコミュニケーションのメリットとして、必要な情報だけを提供する工夫が必要だとしている。一見矛盾しているように見えるが、大量の情報源をベースに、必要な情報だけを、必要な人に、必要な時に届けることで、アクションにつなげることが重要だということなのだろう。そういう意味でMBL.comの提供する膨大な情報は、成績の分析から過去データまで深掘りできる点など、整理された情報になっているのである。また、B2B製造業にとり深掘りできる情報を格納する基盤がPIM(Product Information Management)だということに言及しているのはそのためだろう。
最後にA社を例にして、本書の結論は「つないでこそ」だとし、次の3つの「つなぐ」がないと、B2B製造業のCCとMCは成立しないとしている。
1)コンテンツやデータをつなげる
2)リアルとデジタルをつなげる
3)社内の複数の部署をつなげる
確かにその通りだと思うが、冒頭のニセコがグローバルに成功した例には、次の「つなぐ」が隠されていることを忘れてはならない。
4)価値創造と価値獲得をつなげる
つまり、パウダースノーという自然が創造した価値(自然の生み出したイノベーション)が、価値獲得(マーケティング)と新結合したからこそ成功したと言えるのだ。日本のB2B企業に欠けているのは、価値創造と価値獲得が新結合できないことだ。
ものづくりとマーケティングとセールスが高度に連携した場合、売り上げの成長は19%早くなり、利益は15%も増加する
ただし、価値獲得(マーケティング)から価値創造(イノベーション)に至る登頂ルートは、金を握るトップにマーケティング思考がない場合、遭難する確率が高いことを肝に命じておくべきだ。逆に価値創造から価値獲得に至るルートは、トヨタのチーフエンジニア制度の成功例を見るまでもなく、成功確率は高いと言えるだろう。
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