『地域創生の失敗研究』(9−4)久米島システム
(9−2)小さなモデル「新しき村」の失敗研究で20個の失敗研究を列挙し、マイクロ水力発電の成功で有名な(9−3)石徹白村の水力発電にあてはめて考察してきた。次は海辺の地域創生として、沖縄県島尻郡久米島町の事例を20個の失敗研究に当てはめてみよう。
沖縄県島尻郡久米島町の地域創生
マイクロ水力発電は山間部の安定したエネルギー売電の手段になると思うが、同じように日本の離島では海洋温度差発電が天候などに影響されない安定したエネルギーの創造手段になる。海洋温度差発電とは、太陽からの熱エネルギーにより温められた表層海水と、海洋を循環する冷たい深層海水との温度差を、タービン発電機により電力に変換する発電方法だ。現在の技術では、表層海水と深層海水との温度差が年間平均で20℃以上ある亜熱帯、熱帯地域に適用可能とされている。日本では、沖縄周辺の他、小笠原諸島や黒潮流域がその条件に該当する。
久米島の沖縄県海洋深層水研究所
マイクロ水力発電同様に、海洋温度差発電に興味があったので、2013年に沖縄県の久米島の沖縄県海洋深層水研究所を訪問したことがある。沖縄県海洋深層水研究所は機械棟などを除くと大きくは「取水ピット」「農業研究棟」「水産分野研究棟」などに分類され、隣の敷地は隣接する民間の海洋深層水を利用した養殖場となっている。沖縄県で海洋深層水の取水プラントを作る候補として3つほどの候補地があったようだが、久米島が選ばれた。その理由は、岸から比較的近い場所からDrop-offがあり、深層水が取水しやすかった(2.3km沖)からだ。直径60cmの取水パイプを使いこのプラントで取水される海洋深層水は全国シェアで28%(深層水13,000tは日本最大)ある。海洋深層水は深度200m以上の深さの海水を指すが、ここでは612mの深層水を取水している。
車エビの養殖
この研究所では表層水と深層水をブレンドして車エビの養殖に適する水温にして、車エビの母エビの養殖に成功し、民間に移転した。さらに海ぶどうも海洋深層水で民間で養殖され、車エビの母エビは沖縄県の60%、海ぶどうは50%のシェアを占めているそうだ。元々の久米島の産業はサトウキビの栽培だったが、TPPの影響をダイレクトに受け、他の産地と価格競争がはじまっている。この母エビや海ぶどうはこの研究所(研究員4名)の研究成果から生まれた新産業で、他にヒラメ、トラフグなども養殖され、海洋深層水をパイプで土に埋め、冷やした土でホウレンソウを栽培する農業利用などの研究も深まっている。海洋深層水はこんなに恵みがあるのだ。事業の拡大などにより、最近の久米島では海洋深層水そのものが不足し、このプラントを10倍に拡大する試みがあるようだ。
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。