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『牧野昇の五転び人生論』多段式人生のススメ

 牧野昇氏というと、東大からのMT鋼の発明者で三菱製鋼から三菱総合研究所を創業した財閥系エリートというイメージがあるが、実は挫折を5回も経験しているという。個人的には30代でイスラエルのビジネスを行っているとき、当時会長だった牧野昇氏にお世話になり、大手町の頃の三菱総合研究所にインキュベータとして入居していたことがある。数回ほどしかお会いしたことはないが、気さくな人で、私を気遣って「ウチの連中は馬鹿だから」という発言が印象的だった。

 大学卒業したとき大病をし、大学の研究者となったが、『文芸春秋』に書いたソ連に関する論文の末尾に「科学技術を進歩させるには軍事産業を強めなければならない。そこに問題点がある」と書いたことが、左翼知識人の批判にさらされ、東大を辞めてくれと辞職勧告を受けて退職しているのだ。30代後半のことだ。

 東大時代に開発した日本の対米輸出第1号となったMT鋼は東京計器で工業化されることになり入社し、次世代磁石の出現により製品の寿命がつき、牧野氏の部門が三菱製鋼に買収されることに。40代前半のことだ。そこで取締役となった。

 しかし、1970年の40代後半で三菱総合研究所というたぅた5人のシンクタンクの常務に就任した。自分の意志で替わってきたのではなく、上からの司令でやむを得ずの転身だったという。5年間の赤字から黒字に転換し、この本を書いた頃の牧野氏は、5人から社員1,000名になった三菱総合研究所の取締役相談役だ。

 古今東西の歴史を学ぶまでもなく、偉人と言えども人生は思い通りにはいかない。1度や2度の挫折はあたりまえのことだ。しかし、牧野氏の人生が示すように5回の挫折でも創造力で乗り越えていけるものだ。牧野氏は言う「回り道が近道のことがある。それが人生だ」、と。

 個人的に牧野氏と接点があったこともあるが、本書は読んでいて楽しい。最近のビジネス書にはない人生の知恵がつまっている。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。