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『トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーション』(5−4)原価企画(設計VE)とシステム合成の比較

 今回はシーズン5の最大の山場になる。まず最初にMRJのような旅客機の一部を機能展開してみると、次のようになる。

  • 旅客機の1次展開:胴体、主翼、エンジン、尾翼、舵面、着陸装置、コックピット

  • 胴体の2次展開:客室、貨物室

  • 客室の3次展開:圧力隔壁、エアコン、座席、ドア・通路、トイレ・ギャレー

  • 座席の4次展開:読書灯、映像・音響装置など

 わたしたち乗客は旅客機の4次展開された座席しか見えないが、実際の航空機のすべてを機能展開すると、読書灯や映像・音響装置などの最終的な量産部品になる。

 航空機でもロケットでも自動車でもテレビでも機能展開ツリーの構造はすでにある程度決まっている。自動車では、初代プリウスでHVの機能展開ツリーを確立したが、新しくBEVが出現したため、この機能展開された階層構造が少し違ってくることになった。さらに空飛ぶ自動車になると機能展開される階層構造はまったく違う。

 (5−3)原価企画と設計VEにおいて、トヨタには他社のベンチ−マークを含めた原価データベース(これができる前は、大きなフロアーに部品を並べていた)が存在していることを紹介したが、このデータベースの構造が自動車の機能展開された階層構造にデザインされているとする。たとえば、(5−2)トヨタのイノベーションの肝は設計VEを使った原価企画(利益創造)で示したように、たとえば、部品を「働き」から考えて、今まで2つの部品を組み立てていたものを1つにすれば部品点数は減り、同じ働き(機能)でコスト削減(価値:V=機能(→)/コスト(↓))ができるということになる。これをコスト削減対象となるすべての部品で行うのが原価企画、すなわち利益創造だ。

 このことを『価値の創造主』(日経BP)の著者である櫻井克夫氏は、次のように表現している。

 製造原価の目標値は、比較車型を号口のクレシーダとし、それとの差額(+表示)で管理していった。新設部品や新機構部品が多かったが、早期に原価目標を設定し、企画の初期段階から設計や仕入先、生産技術部と連携を良くとってVE活動を行った。

 号口とは量産を指すが、クレシーダ(マークII・クレスタの海外仕様車)というすでに存在する量産車と原価を比較しながらVE活動を行ったとあるので、V=F/Cの分母のコストをプレシーダのものより下げる(↓)活動をしたのだろう。

 このVE活動による原価企画と、(3−5)1人の天才より多様な人材の組み合わせで天才以上の能力を!で紹介したCreative Organized Technologyの現状分析とは決定的な違いがある。この違いこそが、トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーションの本質的な違いになる。


ペンシルロケットの機能展開と比較

 『糸川英夫のイノベーション』で示したように、最初のペンシルロケット(スタンダードな23cm)の構造は、尾翼のところで前と後ろの2つにわかれる2ピース、先頭が真鍮で真ん中がジュラルミン、下の鉄の3ピースの2タイプあることを紹介した。

  ペンシルロケットを旅客機や自動車にように機能展開すると、次のようになる。

  • 2ピースのペンシルロケットの1次展開:前方部分、尾翼部分

  • 3ピースのペンシルロケットの1次展開:先端部分、真ん中部分、尾翼部分

 スタンダードが23cm、2段式、長さ30cmという3タイプのペンシルロケットでも機能展開するとそれぞれが違うことになる。

 つまり、櫻井克夫氏がプレシードとコスト比較した機能展開した階層構造からの部品が、ロケットという新しいこれからやるものは、馬車と同じで現在の自動車のように機能展開が固まっていないのである。

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