『ESGサイトの作り方』(環境研究)
ESGスコアは、ESGアナリスト機関が各企業の非財務情報(統合報告書、Webサイトなど)を参考にし、スコアリングしたものだ。このESGスコアはアナリストが年に評価する方法と、Webサイトをクローリングしデータを集約し日時にAIが算出する方法の2タイプのスコアリング方法がある。
企業がESGアナリストに対しエンゲージメントを高める手段は、1)統合報告書、2)Webサイトなどがある。
1)は日々更新することが難しい年次のデータ、2)は日時に更新可能なリアルタイムのデータを提示することが可能となる。
ここでは、エンゲージメント手段として重要なWebサイトをいかに作成するかに焦点を当てて、私なりの考えをまとめてみたい。
たたき台として、「ESGサイトランキング2020(Gomez)」をベースに分析してみる。
これらの企業のサイトに共通するのは、トップページに「サステナビリティー」(積水化学は「CSR」と表示)というタブがあり、そこからサステナビリティサイト(ESGサイト)に入るという流れだ。
ESGサイトのユーザーは、ESG投資家やESGアナリストですから、商品やサービスを購入するユーザーとは違う。
ESG投資家やアナリストは日本人だけでなく、グローバルに存在する。そういう観点からサイト構造を考察してみよう。
1位のリコーのGlobalサイトに入りトップページからSustainabilityタブを探していると、見失ってしまうが、スクロールで見つけ出すことができる。
2位の積水化学のGlobalサイトに入ると、日本語サイトと同じように「CSR」タブがあり、そこをClickすると英語のESGサイトが表れる。
馴染みのあるAmazonサイトで考えると、日本語のページも、英語のページも、他の言語のページも構造は同じだ。日本語サイトとGlobalサイトの構造は同じであった方がメンテナンスも容易だろう。
さらに少し分析を進めてみる。
3位の伊藤忠商事、4位の三井化学、5位の東レ、6位のアサヒグループホールディング、7位のMS&ADインシュアランスグループホールディングス、8位のみずほフィナンシャルグループ、10位の資生堂も、積水化学と同じく、英語サイトと日本語サイトの構造は同じだ。
しかし、1位のリコーと9位のコニカミノルタだけ日本語サイトと英語サイトの構造が違う。これは仮説だが、リコーとコニカミノルタのサイトは構築する際に、Globalサイト(英語)をマスターとしていなかったのかも知れない。
全体の構造からすると、日本語サイト、Globalサイト、各国語サイト、ともに同じ構造として、トップページから同じ流れでESGサイトにたどり着いた方が、「日本語コンテンツは充実しているが、英語コンテンツは一部しかない」というような構造の違いによるバラツキが生まれにくいESGサイトになる。
次に、ESGサイトの中に入ってみる。
トップのコミットメント、そしてマティリアリティー(重要課題)が示され、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)とそれぞれのKPIに展開される、という流れは基本的にどの企業も同じだ。
それぞれコンテンツのまとめ方に個性はあるが、「GRIスタンダード対照表」など共通する部分もある。
GRIスタンダード(Global Reporting Initiative)とは、オランダのアムステルダムに本部を置く、サステナビリティ報告書のガイドラインを制定している国際的な非営利団体が策定した、ESG情報などの非財務情報を開示するための基準だ。
この基準は、マテリアリティは企業自らが特定すべきもの、という大前提があり、企業の財務パフォーマンスへのインパクトではなく、経済、環境、社会へのインパクトを重視する。
GRIスタンダードでは、非財務情報を開示する対象は、投資家だけではなく、地域社会や取引先、従業員等を含む多様なステークホルダーと考える特徴がある。
以下、GRIスタンダード対照表サイトを列挙する。
GRIスタンダード対照表でなく、社会的責任に関する国際規格であるISO26000をサステナビリティ推進のグローバルな共通指標として捉えている企業もある。
その場合は「ISO26000対照表」を用意する訳だが、現時点での有効な方法として、積水ハウスのようにマルチサーチ機能を搭載することで、あらゆるスタンダードに準拠する、という方法もある。
GRIスタンダードは、「マテリアリティは企業自らが特定すべきもの」という大前提があるが、最近は、業種によりマティリアリティーを固定化してしまうSASB(Sustainability Accounting Standards Board)スタンダードいう方法が浸透してきた。
SASBスタンダードは、あくまで投資家の情報ニーズに応えることが大きな目的で、同業種内で企業ごとにマテリアリティがバラバラに特定されていたら、比較分析が難しくなる。
したがって、あらかじめ業種ごとにマテリアリティが指定されていれば、分析する側には大変に好都合だという考え方だ。報告する側もマテリアリティ特定に悩む必要はなく、ただ求められる情報を提示すれば済む。
SASB(サステナビリティ会計基準委員会)は、米国サンフランシスコを拠点に、非営利の独立した基準設定組織として2011年に設立された。
米国最高裁の定義「省略された事実がもし開示されていたら、合理的な投資家が、利用する情報の総合的な判断に大きな影響を与える可能性あるもの」に基づき、マテリアリティーと関連する指標を特定しているのが特徴で、投資家の情報ニーズに応えることを目的としている。
おそらく、今後はSASBスタンダードをESGサイトで採用する企業が増えるだろう。
さてここで、「ESGサイトランキング2020」(Gomez)のランキングでは10位内に入っていないオムロンのESGサイトを分析してみる。
トップページ( https://www.omron.co.jp/ )からGlobalサイト( https://www.omron.com/global/en/network/ )に入っても同じ構造で、外個人アナリストも心地よくSustainabilityタブでESGサイト( https://sustainability.omron.com/jp )に入れる。
1位から10位の企業と同じように「トップのコミットメント、そしてマティリアリティー(重要課題)が示され、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のそれぞれのKPIに展開される」のだが、次のように、主要ESGデータが一覧(HTML)になっていることが、他社と大きく異なる。
つまり、「E」「S」「G」から展開されたKPIが時系列で数値化されたHTMLページが用意されているのだ。
これは説得力があり、前述の「ESGサイトランキング2020(Gomez)」で、オムロンは21位と「ベスト10」に入っていないのかは不明だ。
しかし、Webサイトをクローリングしデータを集約し、日時にAIが算出する方法であるアラベスク社のESGブック(旧S-RAY)などのESGスコアランキングでは、オムロンは常に上位になっている。
ESGサイトに必要なことは、データについて定量化することだ。さらに簡単なこととして、あらゆるデータを1枚のHTML(クローリングされやすいので、PDFではなくHTML)にまとめ、Webサイトに掲載しておくことだ。
各ページに分散している細かいESGデータを、一つひとつ探して拾ってもらうのではなく、必要な情報をまとめた1ページを用意しておけば、アナリストもAIも認識しやすい。
「ESGサイトランキング2020」(Gomez)のランキングに掲載されることで、担当者の社内評価が高まるかも知れないが、それ以上に大切なことをまとめると、次の2つになる。
ここまでESGサイトを分析してきたが、ESGサイトによりESG投資家やアナリストとのエンゲージメントにはひとつの方向性があることが分かってきた。
つまり、九州大学の馬奈木俊介教授が示したようにESGスコアを1%アップする(=企業利益が14.86%、株価が13.37%上昇)には、エンゲージメントを分かりやすく的確に行うことが必要条件だ。
しかし、表示フォーマットが標準化される方向性のため、それだけでは差別化を図ることが難しくなる。
したがって、KPIのデータを定量化し、目標に近づける活動そのものが差別化要因になる。(当たり前ですが)