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『イスラエルボイコットとパレスチナ』(10−5)人が中心のイノベーション


UchuBiz連載より

 上図のインサイト(マスクドニード)から使命分析までの流れで示した「使命分析」は、すでに存在している商品やサービスにあてはめて考察してみる価値がある。たとえば、糸川さんは自動車(ガソリンエンジン車)を次のように使命分析している。

 自動車をカタチの上からとらえると、4つの車があって、エンジンがついており、ガソリンで走るというイメージしか生まれてこない。自動車のミッションという視点からすると、A地点からB地点まで、人間とか貨物を最短距離で安全に輸送しようというのが、重要な使命(ミッション)であるはずだ。ところが、実際には交通が混雑していて走ることができない。

 オートモービルは、日本語に翻訳すると「自動で走るクルマ」ということで、走るという任務があるはずだ。したがって、信号機で止まっているときは、オートモービルでなく、オートストップになる。昔、自動車が発明されたころは、踏切も信号機もなく、スイスイ走れたので、そのころはオートモービルと呼んでもいい。

 自動車会社の発想は、エンジンがどうだとか、スタイルがどうのと、現状の形式の範囲から一歩もでられないでいる。いくつめの信号は、何時何分何秒には赤になる、青になるというのは事前にプログラムされているから、その情報を受信できれば、途中でスピードをコントロールできるはずだ。

 つまり、糸川さんは、自動車というものを完成商品とみないで、あくまで、A地点からB地点まで、人間とか貨物を最短距離で安全に輸送するシステムの一つの部品と考えるべきだといっているのである。これは、一つの都市における「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」というCASE時代につながる発想だ。ガソリンエンジンであれ、ハイブリッドであれ、BEVであれ、自動車の使命分析を行なうとこういう発想になる。

 逆に自動車の使命を考えないで、自動車そのものが完成品だとすると、6気筒はもう古いから、8気筒でいこうとか、ピストンの往復運動はどうだとか、ユーザーのオートモービル(安全に止まらないで走る)であって欲しいという、インサイト(マスクドニード)とはまったく関係のないことばかりいじくりまわす改善的イノベーションにとどまってしまう。

 製品の企画開発だけでなく、管理部門でも使命分析を行なうと話が違ってくる。

 たとえば、採用企業が増えているジョブ型雇用で考えると、なぜ、ジョブ型雇用にするかを明確に答えられる人事部門の人は少ない。ほとんどが、流されるようにメディアの情報に背中を押され、メンバーシップ型は古い欧米のようなジョブ型にしなければならない。あるいは日本的なメンバーシップ型とジョブ型のハイブリッドにしないといい人材がとれないという話になりがちだ。

 また、組織の使命を大きく分けると次の3つになる。

・完全に保存を使命とするもの
・修理を使命とするもの
・新しいものをつくり出す創造を使命とする

 経営コンサルタントの酒井崇男氏によると、労働の種類は次の4つに分類できるという。

A)複数分野の知識を伴う創造的知識労働(年収1000万円〜数億円)
B)知識を伴う定型労働 (年収400万円〜600万円)
C)改善労働を伴う非定型労働(年収300万〜500万円)
D)知識を伴わない定型労働(時給1000円)

 現在の自分が働いている会社が、1)の階層型組織で、階層どころがタコツボ化しているとする。そうなると、創造を使命とする組織のように新しいものを生みだせなくなってしまい、企業として成長が見込めない。すると、必要になる人材は、B)C)D)の人材でなく、成長の原動力を創造できるA)の人材になる。

 そういう場合にこそ、ジョブ型雇用は有効だ。
 なぜなら、階層型組織に採用入社で育ってきた人間には、摩擦をいとわずタコツボ組織を横断するとか、マーケティング部門にイノベーション部門を結合させるなどという改革は望めない。階層型組織には、会社で与えられた固有技術やその企業でしか通用しないファーム・スペシフィック・スキルを、いわれたとおりに忠実にこなすB)D)のタイプの人材か、C)の改善的イノベーションを行なう人材しかいない。要するに、自社の組織の使命は3つのうちのどれなのか。その組織に不足しているものは何なのかによって、必要な人材が異なるということだ。これによって、その組織で育成して育つ領域の人材であるならば、求人には人材を大量に確保できる手段を用いた方がいいということになる。逆にその組織で育てるのが難しい場合、人材を発掘しなければならないということになる。育成するのと発掘するのでは、やり方がまったく違ってくるのである。

 Googleの検索エンジンに対抗できなかったマイクロソフトは、OpenAI(ChatGPT)に100億ドル(1兆3000億円)を投資した。つまり、A)の人材(ChatGPTのアーキテクチャ)に100億ドル払う価値があると判断したのだ。このように、発掘にはジョブ型雇用方式もあるが、マイクロソフトとOpenAIのようなオープンイノベーション方式や、買収して手に入れてしまうアクイハイヤー方式という手段もある。
1万人の新卒採用をし、数百億円の教育投資をして人材を育成したとしても、ChatGPTが生まれてくる可能性は低い。しかし、EXCELやWordを改善するエンジニアなら育成できるということだ。

 改善的イノベーションではなく、特に改革的イノベーションの分野では、人材は確保し育成するものではなく、国内外から発掘し登用するものだ。つまり、はじめからダイヤモンドである人材を発掘し登用する必要がある。人材という言葉の後に、「発掘」とか「登用」という言葉を続けるシステムを創造すること。これがこれからの経営層の重要な役割になる。

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