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『お遊さま』映画とは、かくも深きものか

 『教養としての映画』という伊藤弘了さんの本に、この映画が紹介されていたので観てみた。

 この映画の全体を決めるのがオープニングシーン。
 見合いに向かう姉妹の姉が先頭を歩き、カメラワークによって妹の顔は付き人の陰に隠れている。男は姉を見合い相手だと勘違いし一目惚れする。そして、姉妹の思いやりが深い。この前提での男と姉妹の「三角関係」を描いた映画だ。

 オープニングのシーンのカメラアングルが、映画全体のストーリーを暗示させるものとなっているだけではなく、京都という舞台設定で、さまざまな町家の部屋の中の構造を見事に映し出す固定カメラ。その中に映し出される人間の動きと感情が実に見事にマッチしている。
 Z世代の人は映画を1.75倍速で早送りして結末を観て終わる人がいるというが、それでは溝口健二の世界は楽しめない。彼の作品を注意深く観ると、実に深きものなのだ。いくつかの伏線を経てたどり着いた最後の手紙を読むシーンは感動的だ。

 モノクロ映像だが、京都の新緑が舞台となっているので、カラー映像をバックに、日本人の心の葛藤を凝縮し、うまくリメイクすると親が結婚相手を決めるイスラム圏などでも評価されるだろう。原作は谷崎潤一郎の小説『芦刈』だという。日本文学には映画のネタが埋もれていることが、この作品で分かった。

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Creative Organized Technology 研究会(創造性組織工学研究会)
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。