いつもガラス窓から眺めていた場所へ
素敵な素敵な画材屋さん。
ずっと前から入りたかったお店だ。
ぶら〜と入ってゆっくり店内で物色すると言うよりは、欲しいものをさっさと手にとってカウンターに行く、”長居は無用”という感じのお店だ。
絵は好きだったけど、冷やかしで入るようなお店ではないので、今まで入ったことはなかった。
最近、とっても絵が描きたくなった。
写真を撮ってる事もあり、描きたいものもある。
上手く表現できるかどうかは別として
とにかく描いてみたい衝動に駆られたのだ。
いいなと思った光を思い出したり、撮り損ねた風景を思い出して
それを絵にすればいいと思った。
絵具で絵を描くのは難しい、、、
水彩画は特に難しいと思う。小学生が使う身近な画材だけど、あれって1番難しいんじゃないかな?
淡い色を使ったら下書きの鉛筆が丸見えだし、
濃い色を使ったらベタ塗りになるし、
どんどんどんどん色を足して行って汚い色使いになったり、
しまいには手の施しようがなくなったりする。
そんな記憶が私にはある。
水彩画が上手く描けたらどんなに良いだろうと思う。
むかし学校の美術の時間にやったアクリル絵の具なら、自力でなんとかなりそうな気がした。
アクリル絵の具は、なんかやり直しがきいた記憶がある。
上から塗り足せば間違えた部分が隠せる。隠ぺい出来るってことだ。
姑息だけど。
だから、今回はアクリル絵の具で何かを描きたいと思った。
抽象的なもので、例えばカメラでいう開放で写したような画を描きたいと思った。
(f値が小さいとよくボケる。玉ボケとかね)
お店は駅前にあり、私はよくその前を通って駅に向かっていた。
大きなガラス窓の向こうには子供たちの絵が飾られていた。
教室に通う生徒さんの絵だ。
ドキドキしながら店内に入る。
ドキドキしなくてもいいと思うのだが、なんとなく緊張。
入り口に回ると同年代のご婦人が入ろうとしてるところだった。
なんだか安心して、そのご婦人のあとに続いて入店した。
店内には背の高い棚がずらりと並んでいて、当然のことだが、画材がびっしりと並べてあった。
棚と棚の間の通路は人ひとり分のスペースしかなかったが、老舗という感じがとってもして、私のテンションは上がっていった。
通路の奥にカウンターがあり、そちらに店のご主人が立っていた。
「いらっしゃい、入店したらアルコールで手を拭いて」
テキパキと声がかかる。
消毒用アルコールのそばに私の探していた画材が置いてあった。
Turnerのアクリル絵の具だ。
12本入りのセットが何種類か置いてあった。
何かのコラボ的なセットや、パールが入っているセット。パステル調の絵の具のセットなどがあって少しづつ取り合わせが違った。
私はゆっくりと吟味した結果、やっぱり基本のセットを買うことにした。
それから、ぐるりと店内を見渡した。
地下へ行く階段があり、上から覗くと地下にはたくさんの額縁が置いてあった。
(わぁ地下があったのか)
私が店内を興味深く見ていると、テキパキした店主が
「何かお探しのものはあるかね?」
と声をかけてきた。
「アクリルの〜」
「アクリルのなんだね?」
「えーと、あの〜」
上手く喋れない。テキパキしなきゃ!
「絵を描きたいと思って、あの〜、アクリル絵具で〜」
ハッキリ伝えなきゃとは思いつつも、それでもまだしどろもどろだった。
店主はアクリル絵の具の棚の前まで連れて行ってくれて、
「これはアクリルガッシュの棚。個別に売ってる。
箱に入ってるのより容量が大きいのしかないけど、その分たっぷり使える。欲しい色を足して使う。」
テキパキと説明された。
私は棚から、みどり色のチューブを手にとって、
箱のセットに足した。
あとはキャンバスだ。
キャンバスの棚の前で考えあぐねていたら、
また様子を見にきてくれた。
「これでいいんですよね?」
「そう、あとは大きいのに描くか小さいのに描くか」
そう言ってカウンターの方に歩いて行った。
私は少し迷って中くらいの大きさのキャンバスを選んだ。
F4というサイズだ。
(よし、これでよし)
私はカウンターで会計を済ませ、店主に丁寧に挨拶をして店を出た。
素敵な空間だった。
心が豊かになる空間だった。
私の街にこんな素敵なお店があるなんて。
ちょっと誇らしげな気がした。
店主も想像通りで、
素敵だった。
またあのお店に画材を買いに行けると思ったら、それだけで嬉しい。
私はとってもいい気分で川沿いを歩いて帰宅した。
何を描こうかな?
みどり色の絵にしたいのだけは決まっていた。
あとは私の画力だな。
まぁ、それは置いといて。
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