8.7全日本プロレス後楽園大会雑感
ここのところずっとタイミングが合わなかった全日本プロレスを久しぶりに見てきました。
今回は16名参加の「王道トーナメント」。
参加全選手による入場式も行われ、そこに乱入してきた現三冠チャンピオンの諏訪魔が「このトーナメントの優勝者が9月18日に行われる日本武道館大会で三冠タイトルに挑戦する」と自ら説明してくれました。
ヒールで、チャンピオンで、MCで、専務って忙しいなオイ。
1、世界ジュニアヘビー級選手権試合前哨戦 ジュニアスペシャル8人タッグマッチ
タイガーマスク
TAJIRI
ライジングHAYATO
児玉裕輔
VS
大森北斗
ブラックめんそーれ
井上凌
阿部史典
四代目タイガーマスクとTAJIRIとライジングHAYATOが同じリング上がってるとごった煮感が激し過ぎて、みちのくプロレスを見ているような錯覚に陥る。
タイガーマスクの入場テーマを10年ぶりくらいに会場で聴きました。懐かしいなオイ。作詞は糸井重里です。
今年の春から新日本が自分の団体で出番のなくなったベテランを他団体に(たぶんお求めやすいギャラで)提供する、出版社でいうバーゲンブックみたいな政策を始めたんだけど、四代目タイガーもその対象となって6月から全日本に出てます。
全日本に来てすぐに佐藤光留から世界ジュニアを奪取。
田村男児、イザナギと防衛を重ねて次は大森北斗と続く防衛ロードの前哨戦。
プロレスラーで「大森」で「北斗」だと、どうしたって頭に他の選手が浮かんでしまうから損だと思うんだけど、デビュー以来ずっとその名前を通すところに大森北斗の芯の強さがある。
一部の良識的なファンから不興を買った四代目ウママスク記者会見にしても、そもそも大森北斗がフツーにしゃべったところでなんも話題にならないんだし、引っ掛かりを作った時点でいい仕事をしたと思う。
ただしその先の展開が何も練られてなく、今日も入てくる途中で自分で脱いでしまったりするのはいただけない。
自分で始めたんだから突っ込まれるまで自分から脱いじゃダメだ。
タイガーに負けるまで「頑張りますヒヒーン」で通さないと。そういうのはTAJIRIがよくわかってると思うよ。
野村直也が戻ってきたときのアクションといい、大森北斗はプロレス自体はよくわかってると思う。
まだ技量が追い付いてないだけで。
若手で唯一ヒールができるし、伸びそうなセンスいっぱいあるのでがんばってほしい。
2、6人タッグマッチ
芦野祥太郎
本田竜輝
サイラス
VS
石川修司
ヨシタツ
大森隆男
大型外国人サイラス、新日本に今来てるジョナと雰囲気似てる。定着するか。
ここ半年くらいの全日本の「無理めの本田プッシュ」を見てると人材不足で無理矢理田上明をジャンボ鶴田のパートナーに押し上げてた時のことを思い出す。
本田はこれからちゃんと伸びてくれるのかいな。
3、6人タッグマッチ
諏訪魔
KONO
歳三
VS
永田裕志
田村男児
佐藤光留
四代目タイガー同様、新日本バーゲンブック政策で6月から全日本に出ている永田さん。
なんかトーナメント優勝して武道館メインに行ってしまいそうな予感があって嫌なのよね。
いや、永田さんはいいんだけど、せっかくの50周年記念大会なんだからメインは宮原とジェイクにしてほしいな…ってだけで。
客席にはブルージャスティスTシャツやタオルを持ったファンがチラホラいて(みなアラフォー以上)、根強い人気を感じました。
永田さんに関して最近印象深いのはこのツイートで。
大人の滋味を感じる。
そんな永田さんがブードゥーマーダーズ全日本再侵攻を食い止める役目をなぜかあてがわれていて、今日も身体を張っていた。
しかし試合はヒールな攻撃をする諏訪魔をレフェリー和田京平が「そんなことすんじゃねえ!」みたいに必要以上に当たり強く突っ込む、諏訪魔京平劇場が見せ場になっていた。
京平さんも「厳密なレフェリー」というキャラはいいんだけど、ちょっと欲しがっちゃって押し出し過剰になっちゃってる。
レフェリーが説明でもないのに自分でマイク持ってヒール煽っちゃダメだよ。
ちょっとバランス崩れてきてるよ。
4、第9回 王道トーナメント 公式戦 1回戦 時間無制限1本勝負
ジェイク・リー
VS
綾部蓮
ここからトーナメント一回戦。
綾部はプロレスリングJTO(ジャストタップアウト=TAKAみちのくの団体)所属。
キャリア2年の25歳。
身長が2メートルちょうど。
パッと見てとにかくデカイが、横幅はそれほどないのでヒョロッとした印象与える。
当然まだトーナメント優勝とかそういうレベルではなく、チャンスをもらってる段階。
前王者ジェイクとの試合はチャレンジマッチの様相を呈していた。
見ていて5~6年前の、ジェイクが初めて三冠戦に挑戦した試合を思い出した。
相手は石川修司。
ジェイクは宮原のパートナーとして台頭してきた頃で、とはいえまだ自身のフィジカルの高さを活かしきれておらず、プロレスラーとしてのキャラクターも未完成だった。
あの日、石川はかつての自分自身に教えこむようにして試合をしていた。
石川もフィジカルの良さを試合に落としこめず、プロレスにもがく時期が長かった。ユニオン初期から中期の頃。
そんな石川に「大きな身体のプロレス」を教えたのはゲスト参戦した中西学で、中西もまたもがく時期が長かった。
そうやってプロレスは連鎖している。
入場だけで世界観を持つジェイクを見ながら、いつか綾部もこうなれるかな、と考えた。
綾部は大きいだけで、まだ何も持ってない。
ジャイアント馬場の技をやらされたりしていて、それもまた若き日の石川修司と同じだ。
石川もジェイクも中西も、みんなもがきながら「プロレスラー」に変わっていった。
綾部がなれないわけがない。
ジェイクだけでなく、先日タッグを組んだ石川もまた綾部のことを気にかけていた。
いつか、成長してキャラクターと技を身につけた綾部が身体が大きいだけの若手のホープと試合する日が来るだろう。
それを私は客席で見ていて、「むかし石川修司って選手がいてね…」と同行の人にきっと言う。
5,第9回 王道トーナメント 公式戦 1回戦 時間無制限1本勝負
青柳亮生
VS
野村卓矢
全日本で唯一のハイフライヤーである青柳亮生と大日本プロレスの前BJWヘビー級チャンピオンである野村卓矢の試合。
青柳亮生は青柳優馬の弟だが、野村卓矢と野村直也は名前が似ているだけの他人です。
大森北斗と隆男含めてこの団体、同性被りが多すぎる。
野村卓矢は黒のショートタイツに黒のレガースつけてキックと関節技主体で闘う。
ハードヒットなどの格闘技系団体への出場も多い。
鈴木みのる、鈴木秀樹がゲスト出場したときはいずれも野村が対戦相手を務めた。
「ストロングBJが全団体で一番強いと思ってるし、そうじゃないといけない」
と主張し、“強さ”を前面に出した試合をする。
一方の青柳亮生は昨年ごろからジュニアのハイフライヤーとして一気に台頭してきた。
まだベルトは獲れていないが、近い将来この人が全日本ジュニアを背負うんだなというのは見てればわかる。
昨年の王道トーナメントはベスト8まで残っており、「今年はそれ以上」との思いが強い。
2人の試合スタイルはまったく違うのに、試合はやたら噛み合った。
昔のUインターとWARの対抗戦を思い出した。
あの時も「試合スタイルは全然違うのに、試合は妙に噛み合う」というのがよくあった。
野村は打撃と投げ技、青柳は飛び技と丸め込みを駆使して一進一退を重ねながら最後は野村勝利。
素晴らしい試合。
こういう試合を興味ない人に届けられるとプロレス人気は上がると思うんだけど、どうしたらいいのかな。
TikTokとかでバズればいいんだけど。
6,第9回 王道トーナメント 公式戦 1回戦 時間無制限1本勝負
青柳優馬
VS
野村直矢
今日はこれを見に後楽園に来ました。
ジェイクがもがいていた5~6年前、赤タイツの野村と青タイツの青柳、仲間でありライバルだった若手2人。
先に野村が出世して三冠挑戦するポジションまで上がったもののケガで長期欠場、その間に青柳が台頭。
青柳は昨年2021年に宮原とのタッグで世界タッグチャンピオンになると、今年2022年にはチャンピオンカーニバルに初優勝。
全日本プロレスの中心選手になっていく。
一方、欠場を続けていた野村は昨年2021年をもって全日本を退団。
今年に入ってからは渡瀬瑞基との“REAL BLOOD”でキャプチャー、ガンバレプロレスなどに出場するようになった。
野村と青柳の線はここで切れた…ように思っていた。
発端はTwitterだった。
5月に野村がキャプチャー王者になった旨をTwitterで報告すると、青柳はこういう引用リツイートをした。
全日本とキャプチャーにこれといった関係性はない。
「お待ちしています」という書き方からは「できたらいいけど…」という感情が垣間見え、これは青柳のフライングだったと推測している。
とにかく、青柳が先につついた。
ちなみにこの時、大森北斗は「やめとけ」と野村に絡むことに苦言を呈している。
ここからTwitter上で野村と青柳の口論が発生し、6月の新百合ヶ丘大会に“REAL BLOOD”がやってくる。
そして半年前まで所属選手だった野村直也は「外敵」として参戦することになった。
野村が全日本を辞めた理由や背景、外敵扱いとはいえ半年で戻ってきた背景は一切説明されていない。
虚実の皮膜が見えない。
REAL BLOODになってからの野村はコスチュームもファイトスタイルも全日本時代と変えた。
黒のロングタイツを纏い、殺気を見せた打撃を連発するようになった。
(野村が現在、主に活動するキャプチャーは格闘技をベースにした団体である)
格闘技寄りのスタイルになって“特別参戦”するようになった野村はまず大森北斗を一蹴。
そしてこの青柳優馬戦を迎える。
しかし、青柳戦の野村は出だしこそ格闘技寄りのスタイルだったものの、試合が進むにつれて徐々に「かつての野村直也」の姿に戻っていく。
終盤にはスピアーからのジャックナイフ式エビ固め出した。
6~7年前、毎日毎日諏訪魔やジョー・ドーリングにボコボコにされてた若手時代の技。
野村が特別な思いを抱えながら戦っているのが伝わってきた。
二人は自分のフィニッシュを出し、お互いがそれをカウント2で返し、延長戦のように試合は続いていく。
最後は野村が新技を出して勝利した。
「宮原健斗のすぐ後ろ」というポジションにいた野村はドロップアウトし、アウトサイダーになって戻ってきた。
期待されながらなかなか成長できなかった青柳は自ら“陰湿”というキャラクターになり、「団体を混沌とさせる」と言うようになった。
「赤タイツの野村と青タイツの青柳」だった頃には到底考えられなかった未来を現実として、二人は今生きている。
きっとこれからもいろいろ変化があるはずだ。
野村と青柳、7年経っても二人はまだ歴史の途中である。
7,第9回 王道トーナメント 公式戦 1回戦 時間無制限1本勝負
宮原健斗
VS
TARU
現三冠チャンピオンの諏訪魔がトーナメントをボイコット、代わりに同じブードゥーマーダーズのTARU総帥がエントリーして組まれた一回戦。
TARUっていくつになったんだ?と調べたら57歳と出てきて驚く。
もうそんななのね…道理で…と思うが、そもそも57歳で後楽園シングルメインできるのだからすごいことだ。
場外で宮原を痛め付けていると、TARUの風貌が怖かったのかリングサイドの5~6歳くらいの男の子が泣き出してしまう。
レフェリー和田京平「コラ!何子ども泣かせてるんだ!謝れ!」
もちろんTARUは何食わぬ顔で乱闘を続けるが、セコンドのKONOが泣き出した子どもにスッと駆け寄って何か声をかけていたのは見えた。
ダメだよーKONO、ヒールなのに評価上がっちゃうじゃないか。
組み合わせとしては分かりやすいくらいベビーフェイスvsヒール…のはずなんだが、ちょいちょい宮原の狂気が漏れ出ててくる。
最後は宮原が定番のシャットダウンスープレックスで普通に勝つと、諏訪魔がリング上がって「ブードゥーに戻って来いよ」と勧誘する。
(昔、宮原がブードゥーにいたの知らなかった)
宮原のパートナーであるライジングHAYATOが「ダメですよ、宮原さん!」みたいに止めるとしばらく考えていた宮原はHAYATOの腹を蹴る!そして場外へ投げる!
声を出してはいけない観客が「えええ!!!」と驚いてると諏訪魔が「よっしゃよっしゃ」と握手する…がその諏訪魔にも顔面キック!
客席は今度は歓声。
「ば~か!今さらブードゥーに入るわけないだろう!」
あの…場外であなたのパートナーお腹押さえてうずくまってますけど…。
「どうしたHAYATO?そんなところで」
サ、サイコパス…。
その後無理矢理HAYATOをリングに上げ、いつもの締め。
いや、ここでいつかの伝説的なマイク
「残念ながらオレには人望がない!」
を言って欲しかったな。
DDTのファンなら来月の大会には『人望』というメッセージボード作ってくるのに。
それはともかく、面白い興業だった。
やっぱいいね全日本。
来月の武道館も楽しみだ。