2月14日

書店員になって2年目か3年目の頃、よく話しかけてくる高校生の女の子がいた。
背が低く、濃いめのメイクとソバージュヘアの眼力が強い子だった。
今で言うと平手友梨奈が「Popteen」に出てたらイメージ近いと思う。思えば「egg」とか「Cawaii!」とかギャル雑誌全盛期だった。
余談になるが野球ライターの長谷川晶一さんはこの頃「Cawaii!」の編集者だったそうだ。

その平手さん(仮)はくだんのギャル雑誌と、内容きつめの少女コミックか(フラワーコミックがそういうのよく出してた)、やっばりきつめのTL=ティーンズラブ小説、たまにコバルト文庫とかそういう本を買っていた。
『水戸泉』という作者のファンである、という話を聞かされたが「え…塩をいっぱい撒く相撲取りの人じゃなくて?」と思ったのを覚えている。

彼女は「すみま、せ~ん!」と不思議な呼び方で私をよく呼んだ。
だいたい「〇〇は次いつ出ますか?」という質問で(この時代は一般のお客さんが近刊発売予定を知るには書店の壁に貼られた「刊行予定表」を端から端まで見るしかなかった)あったけど、たまに「(2冊の本を差し出し)ねえねえ、お兄さんこれとこれだったらどっちが売れてるの?」みたいなことも聞かれた。
あの頃はまだお兄さんだった。

そんな感じで2月になった。
今も昔もこの季節になるとバレンタインの話が出てくる。

そうすると考える。

(平手さん(仮)からチョコレートもらえたりするかな…)

淡い期待を胸に2月14日の朝、開店すると平手さん(仮)がやってきた。
「ねえお兄さん!」というとカバンから何か出そうとしている。
(え!マジで!)とドキドキしてる私に彼女が差し出したのは、うちのレジ袋に入った文庫本だった。

(…?)と思ってる私に彼女は言った。

「お兄さん、これ昨日買ったやつなんだけど、返品できない?おんなじの持ってて」

人生で「やっぱそうだよなー!!」と叫ぶランキング1位があるとすればこの時だったと思う。

#happyvalentine

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