アンハッピー・パラダイス〜生まれた男〜
夜通し降り続いた雨が止んだ時分、俺の299回目の人生も終わりを迎えようとしていた。
腹に開いた風穴からインプラントが溢れ出す。
おそらく心拍増幅器の一部だろう。
精根尽き果てたと言わんばかりに煙を吐き出している。
路地裏に逃げ込むために興奮剤を過剰摂取<オーヴァードーズ>したせいだ。
もうこの手は使えない。
万策尽きた事実を反芻しながら、俺は饐えた匂いを放つ路地裏で座り込む。
…朝日が昇ってきた。
いつもそうだ。
俺が死ぬときはいつも朝日が俺を照らしていた…
意識が薄れゆく中、追っ手が俺にたどり着いたのが見えた。
奴の口角が少し上がる。
撃鉄を起こす音。
マズルフラッシュが視界を塞いだ。
その瞬間、300回目の「リブートコマンド」が実行され、俺の意識は太平洋を跨いだ先の「施設」へと飛ばされた。
おはようございます。
貴方の精神はこれで300回目のリブートを迎えました。
残りのリブート耐用可能数は0回です。
「起床後」の頭の中で無機質なアナウンスが鳴り響くのを、俺は黙って聞いていた。
それから数時間後、カプセルベッドから起き上がると、また朝日を拝む事になった。
…最後の人生をこれから迎える事になるな。
俺は少し緊張していたが、同時に嬉しくもあった。
リセットの効かない人生。きっと実のあるものになるだろう。
朝日に向かって「おはよう」と呟き、シャワールームへと向かう。
その足取りは、やけに軽かった。