過去に起きたドローン戦争の片鱗
水星の魔女のアドステラ世界を、かつて大きく揺るがしたとされるドローン戦争。その割にはその名前すらまともに出てこない
しかし、作中の様々な事柄をよく見ると「これがその影響か」と思わせる描写がある
ラジャンによる証言とデリングの演説
プロローグでデリングが演説した内容は、一部ガンダムを批判するものに置き換わっているが、基本的には「ドローン戦争」についてであるということが15話でのラジャンの台詞で分かった
「命を奪った罰は、機械ではなく人によって科されなければならない」
「人々は意思を放棄し、兵器に決定権を委ねる」
現代も既にドローンによる「スウォーム兵器」は完成しつつあるが、あくまで今は人が命令を下し操作する群体、言ってみればエアリアルのガンビットのようなものだが、これが一歩進んで「AIが全てを管理し人がそれに従う」戦争に至ったのだ
https://milirepo.sabatech.jp/drone-swarm-attack/
そこでも兵士の命はパーツとして損耗され続けていた、ガンダムとの違いは、デリングの言った「相手の命だけでなく乗り手の命すら奪う」点
いや、それすら実のところ「共倒れ」するか「勝ってもいずれ相手に殺される」かの差でしかないと考えれば、差というほどでもない
デリングの頭の良さならそれくらいはわかるはずだから、サリウスの徹底したガンダムアレルギーほどでないのはそれが理由かもしれない
同時にサリウスのアレルギーは、そのドローン戦争で家族を、養子を迎えているとなれば息子を失ったんじゃないか、と前から考えている
アドステラ世界におけるAI
以前同じタイトルで記事を書いたこともあるが、あの世界でのAIの賢さは、決闘委員会でロウジのハロがそこらの人間よりはるかに優れた受け答えをすること、文脈把握どころかまともに文脈がなくても、自分に何を求められているのか瞬時に理解し受け答えするほど
現実ではチャットボットがすごいと話題となっているが、あれも結局は人間の方がAIの文脈を把握し、行間を読もうと迎えに行っているだけで、AIそのものはまさに「機械的に」作業をこなしているに過ぎない
このとてつもなく優秀なAI、小説では「文脈把握ミスなど百年以上前の話」と、人類が宇宙に本格的に進出しだしてアドステラ暦を言い出した頃からの完成度であるらしいことがほのめかされている
つまりAIはミスを犯さない、判断は正しいから人々は決定権をAIに委ねていった、その結果が「ドローン戦争」となったと思われる
(の割にダリルバルデAIの体たらくを描いて、それが真に「完璧じゃない」事も示している)
意思決定拡張AI
これに対して出てくるのが、ダリルバルデの「意思決定拡張AI」である
前者、ロウジのハロと対極的に「人間の意図を全く汲み取らない」AIで、名前の「意思決定拡張」は、複数のAIの組み合わせでより正確な予測ができるということで、どうやら「AIが意思決定する能力を複数のAIで拡張した」という意味らしい
この違いに戸惑ったが、要するにダリルバルデのAIがドローン戦争で使われたAIで、使用者の意図を汲んで動く、などということはそもそも設計思想にない、ラジャンの言う通り「パーツとして消費される兵士」の間違った判断など必要ないのだ
意図を汲もうと思えば完璧すぎるほど汲むことができることをロウジのハロで示し、それをする意味なんてないよね、とダリルバルデで示した
それなのにロウジのようなメカオタクですらハロに人格を認めて惚れ込んだりする様子がない、というかAIとのコミュニケーションがまともにない
この徹底ぶりは、この作品でAiに人格が宿り、人間に尽くしたり反乱したりという展開はしない、という宣言だと思うのだが、どうなるのだろうか
その他細かい点でも
他にも、シャディクの戦争シェアリングに代わる、抑止力という構想が「人間の判断じゃ絶対戦争起こる」と言われていること、フォルドの夜明けの新兵ジャリルが、新兵あるあるで恐怖に耐えきれず判断ミスで飛び出したことなど、ドローン戦争時なら起こらなかったであろうこと、AIに委ねるという、大概の作品では最終的に否定される選択肢が出てくる可能性が
そこもうまいよね、インキュベーションパーティーでミオリネに「私たちの世代はガンダムなんて知らないし」と言わせた、そのガンダムができる更に前に起きたドローン戦争のこと、当然学生は知る由もないし、歴史で学んで目の当たりにしてなきゃ、シャディクがそれを持ち出して俺ならうまく使える、なんて考えても不思議じゃない、って思えるもの