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謝罪から「このマスクすご~い」へ空気を変える『王様のブランチ』のマジック

2020年12月5日。TBS『王様のブランチ』は、アンジャッシュ児嶋の「今年は特に何もなかった」というボケで幕を開けた。

佐藤栞里「今年も残すところあと少しですね~」
藤森慎吾「今年も色々ありましたね。児島さんはどうでしたか?」
児嶋一哉「今年は俺的には特に何もなかったですね」
藤森慎吾「あったんだよ!」

(録画してなかったため、うろ覚えで恐縮なのだけどこんな感じだったはず)

皆さんご存じの通り、何もなかったわけないのである。つい2日前、記者会見があったばかりなんだから。相方であり、ブランチのMCだった人が。彼が突然全てのレギュラー番組の出演を見合わせてから、もう半年も経っている。

その記者会見の映像が流れたのは、番組が始まって少ししてからのことだった。

神妙なコメントのあとの「全員マスク姿」

それはレギュラーコーナー「エンタメニュースランキング」でのこと。20代~40代女性が選ぶ今週のエンタメニュース、堂々の1位が「渡部建 記者会見」だったのだ。出演者の顔を映していたワイプが消え、女性記者に囲まれながら謝罪する渡部建の顔が、画面いっぱいに映し出される。

VTRが終わり、番組はスタジオに戻った。画面はスタジオセットに座る児嶋一哉のバストショット。「あのバカタレが……」と口を開き、神妙な顔で相方の騒動を詫びる。スタジオは、静かにその話に耳を傾ける。

……と思ったら、カメラが引くと他の出演者全員がいつのまにか白いマスクをつけていた

MCの佐藤栞里をはじめ、藤森慎吾、横澤夏子といったレギュラー陣、ひな壇のブランチリポーターまで、みんなマスク姿で神妙にうつむいている。「なんでマスクしてるんだよ!」と児嶋。

藤森慎吾「いや僕らは黙っていたほうがいいかと思って」
児嶋一哉「お前らはいいんだよ!なんかしゃべれよ!」

「おかしいだろ!」「本番中だぞ!」と続く大声のツッコミに、クスクス……と少しずつ笑いが広がっていく。

このやりとりを見て「空気を戻すためにマスクを仕込んだのか」と思った。そのときは。

元MCだからといって、エンタメニュースランキングから「渡部建 記者会見」を外すのは、いかにもわざとらしい。でもスタジオに戻って何もコメントしないのも不自然だ。児嶋さんにコメントしてもらうことになるけど、そのあと空気が重いままでは番組もままならないし、児嶋さんだってやりにくい。

かといって「さ!次のコーナーは」と急に切り替えるのも変なので、徐々に空気を戻したい。そのためのマスクであり、児嶋さんのツッコミなんだな……と思っていた。

でもそれだけじゃなかった。

TBS山本アナから、栞里ちゃんがつけているマスクは「ただのマスクではない」と告げられたのだ。

全ては話題のフォーカスを“ひきはがす“ため

そんなこと言われても、見た目は普通のマスクなのである。ユニクロのエアリズムのマスクみたいなやつ。

ところが、このマスクをしたままスマホで自撮りをすると、写真のなかのマスクにきれいな模様が浮かび上がるのだ! 仕組みはちょっと聞き逃したのだけど、なんだか新商品らしい。

実際にその場で試してみて「すご~い」ってなるスタジオ。トレンド情報を挟んで、次のコーナーに移る。それはいつもの『王様のブランチ』だった。空気が完全に戻った。

そうなのだ。たとえ出演者たちがマスクをして、ひとボケ挟んでも、話題のフォーカスは「児嶋さん」から動かない。

番組を進めるには、児嶋さんに合ったフォーカスをひきはがさないといけない。

そこでマスクを言わばボケに見せかけた伏線として使った。「なんでマスクしてるんだよ!」からの「新商品のアイデアグッズ紹介」へ、段階的にフォーカスを移していたのだ……!

巧妙すぎてびっくりした。マジシャンの手際を見るようだった。ただ、これは注意して見なければ、マジックが行われたことすら気づかれないだろう。

* * * * *

この流れはスタッフによって綿密に計算されたはず。でもここで思うのは、児嶋さんの受けの深さだ。

相方の不祥事に真面目なコメントをする。それをイジられる。マスクのことを知っているのに知らないふりしてツッコむ。番組の流れのために、それを引き受ける。

思えば冒頭の「今年は特に何もなかった」「あったんだよ!」も、台本で用意されたやりとりなんじゃないかと思う。“例の件”に軽く触れることで、このあとのイジりが唐突なものにならないための補助線として。

イジりをしっかり受け止めて、しっかりツッコミとして反射する。自分の仕事をやりきる。

それこそが「するべきこと」と、相方に示しているようでもあった。


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井上マサキ
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