ささやまビーファーム 松村まなさん
■プロフィール
「株式会社ささやまビーファーム」の代表取締役。田舎暮らしへの憧れを叶え、2005年に大阪府池田市から丹波篠山市へ夫婦で移住。自然が好きだった夫が急にミツバチを飼いたいと言い始めたのが事業を始めるきっかけ。丹波篠山市今田町で、可能な限り原材料を「採取してつくる」ことを目標にして里山で活動し、自分たちが使うぶんだけを山からいただき、商品を生み出している。100%天然の丹波篠山産生蜂蜜、山から採ってきたヒノキ・杉・クロモジで抽出した丹波篠山産の和精油、ローズマリーやラベンダーなどのハーブ園をつくっており、それらで作った石鹸をはじめとする化粧品などを手掛けている。また、最近新たに丹波篠山市役所横に実店舗を構えた。
2021年度には、地域(コミュニティ)に密着した地域プロジェクト実践型学習 (Community Based Learning)「里山資源を活かしたスモールビジネスをつくろう」で講師を務めた。
ささやまビーファーム公式サイト:
https://www.sasayama-bee.com/
■起業から現在に至るまでのストーリー
・想いと勢いと経験を武器に移住、そして起業。
リーマンショックの時期に夫がミツバチを飼いたいと言い始めた。当初趣味程度にミツバチ2郡の養蜂を行っていた夫が、本気になったことをきっかけに、夫婦で養蜂をしていくことに。松村さんは当時、経理関係の仕事をしていたことが役に立った。蜂蜜を売って得られる収益などを試算、採算性が低いことに気付き、もう一本の柱が必要と感じ始めた。
路地いちご、染め物、竹細工など試行錯誤を繰り返す中、2015年のある日、篠山の森林に入った際、合歓の木(ねむのき)の良い香りと出会い、「この天然の香りを閉じ込めたい!」と精油(アロマオイル)づくりを着想。「篠山のものを原材料に取り入れた商品をつくりたい!」と決心した。手作りの蒸留器など試行錯誤を経て、最終的には機械化。精油の商品化に成功した。
続けてきた蜂蜜は、産地直売所で売れたものの、精油は売れなかった。手作り市やマルシェなどにも積極的に出店。方向性や価格の妥当性を、お客さんからの生の声を聞いて検証した。その結果、精油そのものではなく、それをアロマスプレーという、すぐに家庭で使える形で販売する方向に舵を切り、少しずつ軌道に乗せていった。
こうして当初の目論見通り、「蜂蜜とアロマスプレー」という2本の柱を育てつつあったが、ここで満足しないのが松村さん。新たな一手を打ちたいと、次に挑戦したのが石鹸づくりだった。廃棄せざるを得なかった蜂蜜と精油で得た自然の香りを組み合わせた石鹸の開発に取り組んだ。化粧品の開発・販売には保健所からの許可が必要だが、そこで初めて夫が化学系の高校を卒業していることを知り、難なく化粧品製造・化粧品製造販売業認可を得ることができ、商品開発の幅を広げることができた。また、石鹸販売の際、表記される製造者名が個人名では印象があまりよくないのではと考え、法人化を決意。2017年10月、株式会社ささやまビーファームが誕生した。
・2度の大事件。それを経て大きく成長したビーファーム。
それが起きたのは、夫婦二人で進めてきた事業が、軌道に乗り始めていた2019年だった。ある朝響いた夫の声「なんだこれは!⁉?」大切に育てていたミツバチの巣箱に、あろうことか殺虫剤をまかれていた。当然ながら多くのミツバチが犠牲に。すぐに回復することもできず、その年の販売量は通常の年の約3割程度しか蜂蜜を採取できなかった。事業の継続が難しくなり、どうしようかと悩み抜いた末、2020年4月、クラウドファンディングをスタート。なんと100万円もの寄付が集まり、なんとか事業継続に漕ぎ着けた。また不幸中の幸いとも言える、クラウドファンディングを通した人脈もできた。「まぁ結果オーライでしたね」と松村さんは笑う。
もう一つの事件は、2020年4月。新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発令された。それと同時に、1日5本程度だったアロマスプレーの注文が急増。1日100本もの注文が入るようになった。当時はエタノールもスプレー容器も価格が高騰、製造するための人手も不足していた。それでも注文に対応すべく、なんとかエタノールとスプレー容器を大量に仕入れ、人も新たに雇用した。しかし、同年9月になると新型コロナウィルスの流行が少し収まり、また同業者が増えたこともあり、「コロナバブル」がはじけたように、注文が止まってしまった。残ったのは、大量の在庫と新たに来てくれた従業員の方々。経営は明らかに厳しくなった。「でも、従業員さんの前では笑顔でいないといけないでしょ。実際、かなり胃が痛かったですけどね。」
しかしそんな中でも、スプレーに石鹸のおまけをつけて差別化を図ったり、テストマーケティングを行ったり、積極的に商品開発したりと、どんな状況でも、松村さんは打ち手を止めない。前々から仕込んできた石鹸も軌道に乗ってきた。そんなことを笑いながら話す松村さんからは、冷静で淡々としながらも、内に秘める情熱を感じた。
・現在の事業と今後の展望
現在ささやまビーファームの柱は、蜂蜜・石鹸・アロマスプレーの3つだ。しかし、養蜂での被害、コロナバブルの経験などから、リスク分散をもっと進めたいと考える松村さん。「どんないい商品も、いつか売れなくなる。いつ何が起きるかわかりませんからね。」今後も商品開発や事業拡大を続けるという。シャンプーの開発や精油事業の拡大。またこれまでネットショップや委託販売中心だったところから、新たに構えた、丹波篠山市役所すぐの実店舗での販売促進や、蜂蜜を使用した菓子製造の計画なども精力的に同時進行中。
当初は夫婦二人三脚で進めてきたが、今は従業員が12名。「主婦層の方が多い。働きやすいように、シフトも自由。いつ誰がくるかも、私は把握してなくて『あ、今日は〇〇さん来てたのね』とびっくりすることもあります。(笑)」従業員からの意見も積極的に取り入れ、商品開発や事業展開に活かす。ティール組織のような、時代の先をいく働き方と感じた。今後は、ささやまビーファームがチーム一丸となって事業を発展させたいと語った。
■松村さんに会いたい方へ
最後に、スクール生との関わり方の可能性について伺った。すると、「もちろん応援したいし、いつでも連絡してほしい!」と即座に返ってきた。起業したいけど何から手を付けたらいいか分からない、というような相談でも、なんとなく自分が活躍できる場所がほしい、という相談でも、どんな相談でも乗ってもらえそうだ。スクールでの出会いをきっかけに、松村さんの元で働き始めた方もいる。「自分も色々苦労してきたから、やりたい気持ちを応援したいと思っているんです。」との言葉をいただき、インタビューを終えた。
■インタビュアーあとがき
「人生は一度きり。やりたいことをやらないともったいない。」「最悪、全て事業が失敗しても、なんとか生きていけるっていう想いがあるんで、不安はないです。」と、笑顔でおっしゃっていたことが、強く印象に残る。様々な挑戦や失敗、そして成功を繰り返し、今も新たなチャレンジを続ける松村さんからの言葉は、起業を目指す誰しもに深く響くものだった。起業には、常に不安が伴う。そんな方には、松村さんに相談にいくと、足を前に踏み出すヒントを得られるのではないだろうか。