献血は素敵な1日の始まり(なるる/21)
この間、免許の学科試験を受けに県の運転免許センターへ行った。
母親から、「収入印紙とか買って色々手続きが多いんだから、あんたは早めにいっといた方がいい」と言われ、早めに出た。
学科試験開始時刻13:00、免許センター到着時刻11:00。
受付の人に13:00からの試験を受けに来たんですがというと、「13:00試験の方は、12:45の受付でも間に合いますよ。」と言われる。
1時間45分。
免許センター付近は正直いって、なにもない。
しかし、どうしよう。
お腹も多少空いているし、喉も乾いた。
できれば、座って学科試験の勉強ができるところがいい。
そんなとき、「献血やってます!今ならハーゲンダッツ無料プレゼント」の文字が目に入る。どうやら、免許センターの隣に献血ルームがあるらしく、そこで献血をするとハーゲンダッツがもらえるというのだ。
ハーゲンダッツを食べたいということと、献血を一度くらいしても損はないだろうと思い、献血ルームへと向かった。
おじさんが、まるで八百屋の対象のように「献血どうですかぁ」と通りすがりの人に声をかける。興味深そうに建物を見つめる人や、無視して免許センターに入っていく人、僕はそんな人々の隙間からおじさんに話しかける。
「1時間45分で終わりますか?このあと、試験があるんです。」
「45-50分程度はお時間をいただきます。が、それくらいなんで間に合いますね」
それならまぁいいかと思って、自動ドアをくぐり抜け献血ルームへと入る。
このとき、僕は少し驚いた。あの自動ドアは、もしかしたら某ロボットの「どこで◯ドア」だったのではないかと疑う。どうやら違う。
というのも、献血ルームに一抹の病院らしさがない。どちらかというと、共同オフィスの内装みたいな感じ、社員さんは食事無料の大手IT企業みたいな雰囲気。
出迎えてくれる女性に「初めてなんです。あと、12:45から試験があって」と伝える。
かしこまりましたと言われ、席に通される。
「こちらのシートを埋めてください」
バインダーに挟まったそのシートはいわゆる問診票で、その人の血液を本当にもらえるかどうか判断するためのものだった。
過去に海外に滞在したことは?とか、輸血されたことは?とか。そんな質問に答えていく。
それを渡すと、説明をしてもらえた。
「献血自体は10-15分で終わります。ただ、その後、多少安静にしていただく時間が必要なので、こちらの待合室でお飲み物を飲みながら30-40分待っていただくというのが全体の流れです」
どうやら、献血できる条件をクリアしていたらしい。しかも、飲み物は飲み放題、テーブルに置いてあるお菓子は食べ放題だと言うのだ。
こんな素敵な時間を過ごせるなら、早く着いたのも悪くなかったと思う。
すると「失礼します」と言われ、首から「少し立ちくらみがしたら、すぐにしゃがんでください」と書かれた紙をかけさせられ、手首には番号を書かれた紙をつけられた。
「これは、初めての献血の方には必ず首にかけてもらうようにしています。また、これからはお名前ではなく、この手首の番号でお呼びしますので、ご協力お願いします」
個人情報を保護する観点から、とのことらしい。
その後、お医者さんからの助言で少し血糖値をあげるために「クッキー」を食べてくださいと言われ、食べる。
僕は400mlを献血することに決めていた。正直、緊張する。
番号が呼ばれ、ここに横になってくださいと言われる。
歯科医のベッドがもう少し寝心地が良くなった、鮮やかな黄緑色の椅子に案内される。テレビも椅子に付属されていたので、寝ながら見ることができる。
色々と説明があった後(何分くらいで終わりますよとか、リモコンはここに向けてくださいとか)、いよいよ針が刺される。
ちらっと見た。めちゃくちゃデカかった。今まで、見てきた針の中で一番でかい。じーっと見ていると、刺そうとしているおばさんからの一言、「よく見てられるわね」。
確かにおかしいかもしれない、けどこんな太い針が自分の体にどう入っていくのか気になる。
「では、刺しますよー、チクッとしますからね。痛いのはここだけです。」と言われる。
針が体にスーッと入っていく。うまい、確かにチクッとする痛みはあるけど、長引かない。一瞬のうちに勝負がつく感じ、プロだなと思う。
そうして、僕は昼のワイドショーを見つつ、あっという間に終わってしまった。400ml、意外と早い。それこそ10分かかったかな?と言うくらいだ。
その後、待合室に案内され、とりあえずこれを飲めだの、冷凍庫を開けられ、好きなハーゲンダッツを選んでくださいだの言われ、飲んで食べて、これもあっという間に食べ終わり、飲み終わった。
番号を呼ばれ、最終的な注意事項や体調が悪くなった場合、ここに連絡してくださいと言われ、献血は無事終了した。
勉強しつつ、飲み物を5杯くらいは飲んだ。
これで、誰かのためになるならなんか嬉しい。
僕は正直、ハーゲンダッツと飲み物が欲しかっただけだった。だけど、結果として献血で誰かが救われることにつながったのは、やっぱり嬉しい。
ちなみに、学科試験は受かった。なんか素敵な1日だった。
ただ、ごめんなさい。一言、あの献血のサービスデザインに関して言いたいことがある。
個人情報を保護することはとてもいいことだと思う。ただ、それなら問診票は必ず一枚ずつバインダーに挟んだ方がいい。複数枚の問診票が同じバインダーにあって、前の人の筆圧が強すぎたらしく、僕が書こうとした時には、その人の名前と住所まではっきりわかるくらい問診票に跡が残っていた。
でも、なんとなくそういう点に敏感になれるのもデザインや造形に1年くらいは携わっているからだと思い、成長を感じた。
やはり素敵な1日を終えることができそうだ。
なるる
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