碧・藍・桃、感想いろいろ【ポケモンSV ゼロの秘宝】
先日『番外編』が配信され、DLCもひと段落したので、『前編・碧の仮面』『後編・藍の円盤』と合わせて感想を書く。
前編・碧の仮面
林間学校に選ばれた他のアカデミー生が完全にモブなのがやや気になるが、その分スグリとゼイユの味が濃かったので良かった。
スグリがオーガポンに執着する一方で、オーガポンが無情にも主人公を選ぶという展開がエグい。本編のネモ・ペパー・ボタンにとって「救世主」だった「主人公」は、DLCのスグリにとっては「栄光の簒奪者」であった。「主人公」の善の側面と悪の側面の両方が描かれる形になった。
「主人公よりも前から、主人公よりも強い思いを抱いていたのに、主人公の主人公性ゆえに、全てを主人公に奪われる」という構図は、一応『剣盾』のホップでもやっていた。しかし、ホップは根がカラッとしているのに対して、スグリはジメジメと湿度が高いので、よりキツい印象になっている。
一方のゼイユも、あまりにもリアルな「気の強いお姉ちゃん」像だと話題を呼んでいた。引っ込み思案なスグリの心中を勝手に察して、強引に背中を押したり逆に追い払ったりする姿は、まさに出来の悪い弟を手のひらの上で転がす姉そのものである。それが良い方向に働く(スグリが主人公と仲良くなる)パターンと、悪い方向に働く(スグリがハブられたと感じてグレる)パターンの両方を描いているのが丁寧で、ゼイユのお姉ちゃんムーブを善とも悪ともできない作りになっている。
オーガポンとともっこを巡る物語は、やや唐突に感じる部分もありつつも、排他的な田舎の伝承を巡るストーリーとして面白かった。ポケモンは色んな「伝説」を扱ってきたけど、明確に誤った形で伝承されたパターンは意外とやったことなかったのでは。
さらに、赫月ガチグマはサブイベとして満点に近いシナリオだったと思う。本編と絡まないが土地柄を活かしたイベントは、世界観の解像度が上がって嬉しい。イベントムービーもサブイベとは思えないくらい力が入っていた。
ただ、エンドコンテンツとして配置されている「鬼退治フェス」は微妙だった。この手のミニゲームが面白かった試しがない。一回きりなら別に良いが、報酬のために何度もやる必要がある上、ソロだとクリア不可能で、マルチでも熟達したプレイヤーが集まってようやくクリアできる難易度は、流石に調整ヘタクソすぎる。一応、『後編・藍の円盤』配信と同時に難易度調整が入ったらしいが、もうやる人いないよ。
後編・藍の円盤
『前編・碧の仮面』から一転、『後編・藍の円盤』のシナリオはかなり肩透かしだった。
ブルーベリー学園編は、四天王組のキャラクターコンテンツとしてはおおむね及第点だが、それぞれがほぼ独立しているのが味気ない。ポケモンリーグ攻略って昔からそういうもんだよねと言われればそうなのだが、本編では途中に悪の組織や伝説のポケモンが絡んだイベントが挟まるので退屈しない。『後編・藍の円盤』にはそういった要素がほぼなく、スグリと戦うまでのただの前座といった感じだった。でもタロちゃんはかわいかった。
エリアゼロ編は、あまりにも唐突すぎた。ブルーベリー学園での冒険は全く関係なく、エリアゼロ関連の伏線は一切回収されず、唐突にテラパゴスが出てきただけ。テラパゴスについての深掘りもない。ただ、尺がない中で、スグリの「どれだけ頑張っても主人公には勝てない」という挫折と「それでも友達として主人公の隣に立つ」という再スタートの描写に絞ったのはまぁ良かったのかもしれない。
『前編・碧の仮面』とは異なる顔を見せたゼイユは良かった。弟が幼いうちは姉が腕力で勝つことができるが、成長すると男女の性差の影響が強くなり、弟の腕力に負けてしまって制御できなくなる。そんなよくある姉弟関係をポケモンバトルに置き換えて描写しているのがうまい。それでもなんとかスグリのために自分にできることを考え、主人公を呼ぶという選択をしたゼイユは、まさしく「お姉ちゃん」であった。
また、レベルデザインもかなり良かった。シングルバトルのレベルとしてはほとんどカンストしてしまっているプレイヤーに対して、ダブルバトル特有のギミックを仕込んだ四天王をぶつけることで、十分苦戦しうる難易度になっている。
特に、初戦のタロ戦がダブルバトルのチュートリアルとして極めてよくできている。「ひらいしん」プラスルと「ちくでん」マイナンを並べて「ほうでん」を撃つことで、全体攻撃技が強いこと、シナジーを形成する並びがあることを教えてくれる。「じしん」ではなく「10まんばりき」を撃つドリュウズを見せることで、味方を守るために単発攻撃を選ぶという発想を与えてくれる。その上、プラスルとマイナンのどちらを先に倒されても「てだすけ」によるサポートを見せることができる。すごい。
古代三犬・未来三闘のイベントは、赫月ガチグマに比べて唐突にぶっこまれた感があって微妙だった。サザレの成長も特にない。しかも3体セットであるはずのうちの1体はイベントレイド限定。舐めてんのか。
エンドコンテンツである「ブルレク」と「どうぐプリンター」はかなり良かった。テラピースを代表とする、枯渇しがちだったアイテムの入手難度が大きく緩和され、ようやく『ポケモンSV』が人間でもやりこめるゲームとして完成した。「ブルレク」もオープンワールドの特性をしっかり活かしたミニゲームで楽しい。マルチ前提の効率なのはいただけないが……。
ただ、目玉コンテンツであったはずの過去作御三家との旅がほぼ成立しないのは許せない。なんだよ3000BP×4って。シナリオ攻略中にそんなに集まる訳ないだろ。
番外編・キビキビパニック
パニックホラーをコメディテイストで描きつつ、主要キャラクターの良いところを存分に引き出した名シナリオ。
主人公宅訪問パートは、育ちが良いので主人公母を手伝うネモ、家族との付き合い方というものを知らないのでぎこちないペパー、社会不適合者ゆえ遠慮を知らないボタンと、三者三様の振舞いが面白かった。
ホームウェイ組とキタカミ組との絡みも、ネモ×スグリは「勝敗にかかわらずバトルを楽しむ者」vs「勝利のためだけにバトルをしてきた者」、ゼイユ×ボタンは「おもしれー女」vs「おもしれー女に無遠慮に毒舌を吐く女」と、それぞれの新しい関係性が見られて嬉しくなった。
キビキビダンスについても、普段からおもしれー女なのを加速させるゼイユ、奇怪なダンスに照れがあって動きが小さいペパー、普段動かない癖にやたら激しく踊るボタン、バトルジャンキーの自我が強すぎてだいぶ残ってるネモと、キャラクターがにじみ出ていて楽しい。
まさしく番外編として非の打ち所のないキャラクター描写だった。
総評
DLC発表当初は、本編未回収の謎をDLCで回収するのだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば新キャラとの物語が描かれた。世界観を縦に深掘りするのではなく、横に広げるような作品だった。しかし、キタカミ地方とブルーベリー学園という異なる舞台を冒険しながらも、スグリとゼイユの物語を描くという点では一貫しており、その点では縦の深掘りを見ることができた。
本編と合わせて主人公の「主人公」性について清濁の両面に触れつつ、最終的には綺麗にまとめられてスッキリした読後感なのがポケモンらしい。やはり『SV』はシナリオが良いな。