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三菱総研の新規事業失敗談シリーズ No.1:事業構想編
「このアイデアなら絶対に成功する。」「この事業は成功させなければ。」「どうすればうまくいくだろうか」
新規事業担当者は様々な思いを抱きながら事業開発に取り組んでいくと思います。しかし事業構想フェーズでの期待や高揚感、不安とともに突き進んだ結果、華々しい成功とは程遠い現実に直面することが多々あるでしょう。今回は、三菱総合研究所において私たちが事業構想フェーズで経験した数々の失敗と、そこから得た教訓についてお話しします。
はじめまして、今回執筆を担当する人材・キャリア事業本部 新事業推進グループの恩田豪です。
私はもともと全国の子供たちの未来を支える教育のインフラに関わりたいと考え、新卒で教科書会社に就職し、デジタル教科書や学力等の調査制作を担当していました。しかし自身が社会人として働く中で就職以降の人材を支えるインフラが不十分であると感じ、転職することを決断し三菱総合研究所人材・キャリア事業本部にジョインしました。現在は人材にまつわる社会課題解決に資する新規事業開発を進めています。そこで得られた失敗談はきっと新規事業開発に携わるみなさんのお役に立つかと思いますので是非ご一読ください。
事業構想フェーズのはじまり
我々が新しく事業を創っていくにあたって、注目したのは社会人リスキリングの分野でした。社会人が自己研鑽に充てる時間は世界でも非常に短く問題視されているということを課題と捉えて事業アイディアを検討しました。当時俎上にあがっていたのは、ToC向けのリスキリングサービスでした。具体的には動画学習時に学んだことを記録する機能をつけて定着と継続をサポートするようなものでした。このあたりで若干違和感を覚える方も多いかと思います。しかしそれは飲み込んでいただいて先に進みましょう。
「事業を失敗させたくない」「ニーズがないと思いたくない」「アイディアを否定されたくない」といった思いは誰もが持つものでしょう。しかし、それに捕らわれてネガティブな指摘を無視し続けることは新規事業開発においてはご法度中のご法度です。もし今新規事業開発に取り組まれている方の中で、すこしでもそのような雰囲気を感じ取っている方がいましたらすぐにでも声をあげることをおすすめします。ここからは具体的にどのような失敗が生じていたのかについて言及していきます。
1. ニーズ調査の結果に対する思い込みを
事業構想フェーズで最初に手を付けたのは、市場の課題を「仮定」することでした。仮説を立てること自体は悪くありません。しかし、その仮説を「検証」せず、まるで事実であるかのように信じ込むことはどんなにそのアイディアが良いものだったとしてもその価値を限りなくゼロにしてしまいます。
例えば、当初検討していたプロダクトは、アンケート調査等で得られた「社会人は自己研鑽に充てる時間が非常に短い」という前提に基づいていました。しかし、すでにお気づきの方もいらっしゃる通り、これは誰の困りごとでもなく一般的な行動傾向でしかないのです。
また、ニーズインタビューも一応行ってはいたのですが、クローズクエスチョン中心のインタビューで、Nice To Have(あったらいいが必須とは言えないもの)ばかりが引き出され、結果的に「〇〇があるといい(かもしれない)」というような見かけ上の肯定的な回答を集めてしまったのです。
失敗の原因
「社会的な課題がある=ニーズがある」と勝手に信じ込んだ。
ニーズを確かめる際に、Must HaveでなくNice To Haveを引き出し、それを根拠として「ニーズがある」として検討を進めてしまった。
教訓
ニーズ調査は机上の空論ではなく、誰かの困りごとを拾う作業です。アンケートは言わずもがな、顧客インタビューを行ったとして適切なインタビューが行えなければ何も意味がありません。
2. 「競合がいない=ブルーオーシャン」という思い込み
次に陥っていた思い込みは「競合がいない」という幻想です。当時、上層部から競合調査をしろと言われていました。しかし、「これは新しいサービスだから競合はいない」というロジックでまともな競合調査をおこなっていなかったのです。たしかに同じようなコンセプトを持つ類似サービスはなかったのですが、大きな落とし穴でした。
そのアイディアは先ほど触れた通り、動画学習補助ツールでした。当時実際に競合のリサーチを行っても、似たようなサービスは見当たりませんでした。これを「画期的なサービスだからまだ存在しない」と考えてしまえばそれまでです。大学院などで多少論文を書いたことがある方ならすぐに思いつくところですが、先行研究の存在しない研究分野は必ずと言っていいほど何かそれなりの事情があるわけです。私が大学院で先行していた臨床心理学の分野で言うと、「自殺」に関するテーマがそれに該当していました。理由は明白で研究対象にインタビューすることができないからです。
しかし、さらにリサーチを進めていく中で判明したのは、検討しているアイディアは、すでに既存の動画学習サービスの標準機能として組み込まれているケースがほとんどであり、その機能に対して課金する仕組みを取っているサービスが存在しなかったのです。
失敗の原因
まともに競合リサーチをしていなかった。
「競合がいない理由」を正当化していた。
教訓
競合がいない場合、「市場が未成熟である可能性」や「既存の代替手段が強すぎる可能性」を疑うべきです。競合分析を行う際には、直接的な競合だけでなく、間接的な競合や代替手段も徹底的に洗い出す必要があります。特にこの「代替手段を洗い出す」ということが重要で、代替手段を使ってでも解決しようとしていない課題というのは対して困っていない課題であるのです。ここは非常に重要な観点ですので是非気を付けてください。
3. 仮説検証が不十分なままいきなり大規模開発
さて、ここまでの流れを踏まえればわかるように、きちんとした仮説検証のプロセスは全く飛ばされてしまっていました。しかし、当時は「急いで事業を立ち上げなければ」という思いに駆られ、まともにMVP(Minimum Viable Product)を定義することなくいきなりフルスペックのプロダクト開発に進んでしまったのです。
具体例
開発初期段階で、すべての機能を盛り込んだフルスペックのプロダクトを目指して多額の開発費の予算取りを行い、実際に開発が進みました。しかし、これまでの流れを踏まえれば当然の帰結として、完成したプロダクトを市場に投入した結果、ターゲット層に全く響かず、ほとんど使われませんでした。
十分な仮説検証を行わないことは、どんなに可能性を秘めたアイディアも価値をなくしてしまう大罪と言ってもよいでしょう。事業開発のゴールは作り上げたプロダクトをユーザーに買ってもらい、それをスケールさせることです。そのためにはターゲット層に実際にプロトタイプを使ってもらい、フィードバックを得て改良を重ねていくプロセスが必須ですし、それを無視すれば致命的な結果になることは必然です。
失敗の原因
十分な仮説検証を行わずにシステム開発に突入した。
ユーザーからのフィードバックを事前に得られる手段を軽視した。
教訓
仮説検証を繰り返しながら小さく始めることが成功への近道、というよりもそれ以外で成功しようとすることはただでさえ難しい事業開発の難易度を自ら跳ね上げる行為です。MVPを開発し、少数の顧客に使ってもらいながら改善を重ねていくスモールスタート以外の道は基本的にはないと思って進めるのがよいでしょう。
失敗をどう乗り越えたか?成功への転換点
これらの失敗を経て、私は事業構想フェーズにおける以下のステップを見直しました。
1. 思い込みを捨て、ニーズ調査を徹底的に行う
· 情熱や直感に頼るだけではなく、データや現場の声、ファクトに忠実に判断する。
顧客インタビュー:具体的な課題や不満をヒアリング。特に想定される課題への対応策を現状取っているかはマストで確認するべき。
データ分析:市場規模や競合動向を数値で把握。ただしあくまで参考程度に。
2. 競合を正確に把握するための分析フレームワークを活用
競合のいない市場は必ずしも「ブルーオーシャン」ではない。
SWOT分析で競合の強み・弱みを整理。
ポジショニングマップを作成し、差別化ポイントを明確化。
3. スモールスタートで進めるために仮説検証を反復する
小さく始め、反復的に改善するプロセスが成功への鍵。
最初はMVPを作り、最小限の投資で検証。
テストマーケティングでターゲット層の反応を確認。
これらを取り入れた結果、次のプロジェクトではリスクを大幅に減らし、確実に市場ニーズに応えるプロダクトを生み出すことができました。
新規事業開発は簡単ではありませんが、失敗を糧にして成長することができます。もしあなたが事業構想フェーズにいるなら、ぜひ私の失敗談を参考に、より良い道を歩んでください。
※本コンテンツの作成にあたり、一部 ChatGPT を利用しておりますが、内容につきま しては十分に精査し、問題ないことを確認しております。