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有漏神社
「うろじんじゃ」という(ただし滋賀県神社庁のホームページには「ウロウ」と記載されている。下に書く御由緒も同ホームページによる)。
湖北エリアの東側、住所的には滋賀県長浜市木之本町山梨子(やまなし)に位置する。鳥居は琵琶湖に面している。このあたりは、賤ケ岳に連なる湖北丸山、西野山、山本山などの山塊が琵琶湖に迫っている。それぞれの山の標高こそそれほど高くないものの急登の連続する険しい山塊であり、そのために湖岸に舗装された道が整備されていない。したがってこの神社には、徒歩もしくは船舶やカヌー、SUP等の手段でしか来ることができない。御由緒にも「(略)…往昔湖上舟楫の神として鎮座され、遠く江南堅田方面の漁民のこの地に出漁することも多くその舟楫守護の神として崇敬したと伝える。古来祭儀に際しては、氏人ら舟に依って参拝した(略)」とある。
この神社に行ってみようと思ったのはほんの偶然だ。仕事中に、現実逃避のためにGoogleマップで、長浜の木之本のあたりを見ていたとき、西野水道のちょっと北あたりの湖岸に「有漏神社」というちょっと変わった名前の神社があるのを見つけたのだ。Googleマップで見る限り、この神社に(陸路で)到達する道は見当たらない。おおお。そそられるじゃないか。
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国土地理院の地図で見ると神社近辺に破線が記載されているため、登山道のようなものはあるのではないかと推測した。ネットで「有漏神社」と検索すると、先達たちがこの神社を訪れた記録などもあり、ここを訪れてみようと思い立った。
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右の方の赤い線は山塊を南北に貫く尾根の道
最近は南越前町の石積堰堤に心を奪われていたのだが、冬の訪れとともに北陸は常に雨もしくは雪の降る状況となってしまい、ましてこれらの石積堰堤群は山間部に位置しており、天候が悪ければ行くことすらかなわない。冬の間は、南下して関西に脱出するに限るのである。
日曜日の朝、Eテレの日曜美術館を観て将棋フォーカスを観てゆっくりしてからやおら出かける。敦賀は重い雲が立ち込めていたが、30分も車を走らせて湖北に出ると日の光が差している。やはり敦賀は北陸なのだなと否応なく思い知らされる。
西野水道(にしのずいどう)の駐車場に車を止めて、トレッキングシューズを履く。西野水道(初代)は江戸時代に掘られた余呉川の放水路である。江戸時代に掘削されたものなので当然ながら手堀りである。トンネル好きの僕はこれまでに二度訪れている。中の見学は自由になっており、現地には見学用のヘルメット、ゴム長靴、懐中電灯が用意されている。ヘルメット、ゴム長靴は問題なく使えるが、懐中電灯は電池が切れていることが多いので自分で持参した方がよい。トンネルの中は真っ暗なのだ。
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今回は西野水道が目的ではないのでスルーする。戻ってきて余力があればトンネルの中に入ることにしようか。駐車場から北へしばらく農道を歩き「開放厳禁」と注意書きのある柵の扉を開けて山道に入る。急登が続き、山塊の尾根へ出る。尾根道もそこそこアップダウンが続き、山道を久しぶりに歩く僕はぜいぜい言いながらのろのろと歩いた(言い訳をしておくと、堰堤を訪れるときは川沿いの道が多く、川沿いはほぼアップダウンがないのだ)。
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…僕が短足だからなのか?
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疲れてしまって、途中からいちいち確認することをやめてしまった
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誰かが植えたのか自生しているのかも分からないが、今回の行程の中で咲いているのはここだけだった
有漏神社へのルートはどうやら二つあるらしい。尾根道を歩いて有漏神社の背後から湖面へ下りるルートと、湖畔を歩くルートだ。僕は折角登って稼いだ高度を失うのが惜しくなったので、尾根道を歩くルートを選択した。湖畔を歩くルートは帰りに歩けばいい。
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アップダウンを除けば、時折見える琵琶湖の風景、意外と多い分岐路、突然現れる寒椿?山茶花?など変化が多く、楽しんで歩くことができる。途中、西野山(320m)を通過した。山頂なのにまったく眺望がなかったが標高320mではそんなものだろう。
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やがて「有漏神社 1.2km」と書かれた標示が現れたが、指し示す先は谷底へと続いておりその手前にはご丁寧に木で柵まで据え付けられている(でも、この柵がなければ、僕も標示を真に受けて谷底へ進んだかもしれない)。国土地理院の地図を確認すると、その位置に道はないので無視して進む。
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指し示す先は谷底真っ逆さまで柵が設置されている
もう少し進むと湖面へ下りる分岐路が現れた。国土地理院地図の位置ともおおよそ一致しているので、そちらを進む。これまで稼いだ高度を悲しくなるくらいかなぐり捨てて、あっという間に湖面に辿り着く。ざっぱーんざっぱーんと波が打ち寄せる音が絶えず響く。
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ここは目的の有漏神社の少し北方のようで、湖畔を南下する。石がごろごろとしており歩きにくいので、少し山側に入って歩く。とくに道はないが石垣が続いており少々ぬかるんではいるものの比較的歩きやすい。この石垣は「阿曽津千軒」と呼ばれた集落の遺構か。阿曽津は「千軒」と呼ばれるほどに大変に栄えた集落であったらしいが、千年ほど前に何らかの理由で沈んだとのことだ(ちなみに琵琶湖周辺にはこのような水没伝承遺跡が、阿曽津千軒も含めて12ほどあるらしい)。そんなことに思いを馳せながら歩いていくと、大きな鳥居が見えてきた。目的地、有漏神社だ。
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よく見たら、鳥居の柱に松の枝が結わえ付けられている
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波の音が心地良い
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美しい場所なのに誰もいない
本当に湖面ぎりぎりに鳥居が立っている。夏の間ならカヌーやSUPなどで訪れる人も多そうだが、もはや冬の入口であり僕以外に誰もいない。湖畔の静寂を独り愉しむ。贅沢この上ない。
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とはいえじっとしているとだんだん寒くなってきた。お参りして帰ることにする。そこで気づいたのだが、鳥居の柱に、新春用だろうか松の枝が結わえつけられてあった。結わえつけているのが梱包用のPPバンドなのが少し残念だが、この神社が地元の人にちゃんと大切にされていると知り心がなごんだ。
急な石段を登り、お参りする。拝殿は「有漏神社」と書かれた白い幕で覆われている。琵琶湖からの風が強いので、その防護のためだろう。拝殿の後ろに本殿が置かれている。ともに賽銭箱はなく、二礼二拍手一礼のみし、帰路の安全をお祈りする。
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本当に湖面ぎりぎりに鳥居が立っている
帰りは、もう急登は嫌なので、湖畔を歩いていくことにする。本殿から鳥居のところまで下りてきて、湖畔を南へと向かう。石垣が続いている。行く手を岩礁に阻まれる。こんなんどないして歩けっちゅうねん。国土地理院の地図には湖畔に道が…あれっ。よく見たら破線が切れている。これはこの岩礁のことなのか。仕方なく覚悟を決めて岩礁をよじ登る。ざっぱーんと水しぶきでズボンの裾が濡れる。琵琶湖に落ちそうになりながらボルダリングの真似事のようなことをしてなんとか難所を越える。
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高巻くこともできず、本当に大変だった
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その後はまた湖畔を歩いて阿曽津集落跡の中の道を抜け、ゆるやかな登りで往路の尾根道に戻った。湖岸の難所を除けば断然こちらの方が楽であるものの、あの岩礁をもう一度越えろと言われたら絶対に嫌である(あとから調べると難所を避ける道が存在したようだ。なんてこった)。リベンジしたいとも思うが、次に行くとしたらもっと季節が良くなってからだ。
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湖側に覆いが立てられている
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そんなわけで元の尾根道を歩いて、出発地点に無事戻った。西野水道に潜る余力はもうなかった。
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膝ががくがくである
もし再訪するとしたら、
①折りたたみ自転車を積んで車で西野水道に向かう
②折りたたみ自転車で賤ケ岳に向かいリフトで山頂に上がる
③尾根を縦走して有漏神社を通り、湖畔を歩いて西野水道に戻る
④車で賤ケ岳に向かい自転車を回収
とかかなぁ。そのくらい嫌な急登だったのだ。
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