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高倉谷川砂防堰堤群

 先日、アカタン砂防堰堤群を見学して明治期の石積堰堤にすっかり魅了されてしまった。

 帰ってからいろいろと調べてみると、南越前町観光情報サイト「南えちぜん日和」にアカタン砂防堰堤群が掲載されていたが、同じところに「高倉谷川(こうくらたにかわ)砂防堰堤群」というのが紹介されている。

 なんだと…?まだあるというのか…?

 すっかり石積堰堤にハマってしまった僕としては行かねばなるまい。たまたま休みをもらえた平日の午後、とにもかくにも行ってみることにした。とうとう平日にまで遊びに行くほど南越前町にハマってしまった。いやむしろ平日に南越前町に行ける環境に感謝すべきなのか(もう南越前町に住んだ方がいいのか?)。

 高倉谷川は日野川の支流田倉川に注ぐ支流である。アカタン砂防堰堤群のときの出発起点リトリートたくらよりさらに田倉川をさかのぼる。今回は自家用車だ。高倉谷川砂防堰堤群は全部で12基あるそうだが、今回訪れたのは下記の6基である。このうち、西高倉堰堤が、アカタンより少し遅れて平成21年1月に国の登録有形文化財となっている。

・西高倉(にしこうくら)堰堤
・谷中(たんなか)堰堤
・大成口(おおなりぐち)堰堤
・大成(おおなり)堰堤
・立成(たてなり)1号堰堤
・若杉堰堤

入口に立つ案内板。こういうものがあるから我々は訪れることができるのだ。感謝
案内板の地図部分を拡大。このあと携帯の電波が入らなくなるので撮っておいた方がよい

 車では行けないところもあり、全基制覇しようと思えばそれなりの装備と時間が必要だろう(少なくとも早朝から出かけなくてはなるまい)。今回はあくまで偵察と位置づけた。それでも長靴は必須である。ワシはワークマンの防水フェストブーツというのを履いておるよ。折りたためるし収納袋もついておるし便利じゃよ。

 アカタンの堰堤は、堤体の左右いずれかに水通しの部分が接続されていることが多かったが、ここ高倉谷川の堰堤は石積みの真ん中を堂々を水が通っている。「縄たるみ」という方法で、中央部を少し凹ませて水通しとしているのだそうだが、形としては現代のコンクリートの堰堤により近いのかもしれない。とくに西高倉堰堤は、雨後で水量が多かったこともあるのかもしれないが、轟々と滝のように水が流れ落ちていた。いかにも豪壮で見映えはするものの、堰堤としては大丈夫なのだろうかと少し不安(?)になった(アカタンの堰堤はいずれも、水流を弱めている印象だったので)。

1.西高倉堰堤

西高倉(にしこうくら)堰堤の所在を示す案内板。これ無かったらたぶん分からない
親切にもハシゴが掛けられている。これを使って水面に下りる
西高倉堰堤の堤体部。雨後のためなのかふだんからそうなのかは不明だが、水量がすごい
さらに寄ってみる。水しぶきがすごくてこれ以上近づけない。レインジャケット必須。ワシはmont-bellのストームクルーザー着とるよ
導流堤も大きくて立派


2.谷中堰堤

谷中(たんなか)堰堤の所在を示す案内板。少し右に視線を転じれば谷中堰堤が見える(というよりこの画像にももう見えている)
谷中堰堤の堤体を上部から
水面に下りてパノラマで撮影。左から右にかけてのグラデーションが美しい
堤体の中央部。「縄たるみ」の水通し
堤体の左側。端に近づくほど、上部に近づくほど小さな石が使用されている
堤体上部から。川の流れに大きな石をぶつけて水流を弱めている


3.大成口堰堤

大成口(おおなりぐち)堰堤の案内板。上の部分が落ちてしまっている
水面に下りて堤体を真正面から
堤体真正面を少し引きの画像で
堤体上部から右岸に目を転じれば、奥に小さく大成堰堤の姿が見える。次に向かうのはあそこだ


4.大成堰堤

 大成口堰堤からはさらに奥の大成堰堤が見えている。ただし見えているからといってアクセスしやすいわけではない。辿り着くのは少し骨が折れる。

木々の間に見える大成堰堤。だいぶ近づいてきた
大成堰堤。比較的小さな堰堤だが、自然といちばん調和している堰堤のように思える。僕は今回の中ではこの堰堤がいちばん好きだ。
寄った写真。細かく苔むした石の表面を水が白く流れ落ちてゆく。美しい

 空積みだから堤体の中を水が通る。土砂を止めて、水だけを通す。その水は土地を涵養しやがて苔が生えて自然との境目がなくなってゆく。

空積みだから、堤体から水が湧きだすように流れ出る


5.立成1号堰堤

案内板は1~4号を指し示すが、今回は1号のみ
H字鋼の一本橋を渡る。結構撓んで揺れる
一本橋の上から見た下流のコンクリート堰堤
立成1号堰堤。左側に急な坂道があり、堤体の上部に上ることができる
堤体の上部。縄たるみの部分以外は見事に地面と化している
堤体上部
堤体上部。中心から端を見上げる


6.若杉堰堤

 車でアクセスできる最奥の堰堤(たぶん)。明治の石積堰堤を活かしてコンクリート堰堤がつくられている。先人に敬意を払うようで、いいよね。

若杉堰堤。石積堰堤の奥にコンクリート堰堤
さらに寄った写真
振り返れば、車で走ってきた道の下を水が流れており、そこにも小さな石積堰堤があった
名も無き支流の名も無き小さな石積堰堤だが、たまらなくいとおしい

 今回はここまで。残りの堰堤もいつか訪れたいものだ。そして入口から西高倉堰堤までの間に殿入口(とのにゅうぐち)堰堤というのがあったらしいが見つけられなかった。心残りとみるか、次回へのお楽しみとみるか。ともあれ、現代も力強くはたらく明治期の石積堰堤を見ると、心が洗われるようだ。

7.後日談、その他

 はじめの方に、西高倉堰堤を見たときの感想として、水量が多くて豪壮で見映えはするものの堰堤としては大丈夫なのだろうかといったことを書いたが、帰ってからいろいろ調べて、自らの不明を恥じた。僕のくだらない心配など、つくられた当初から想定済みだったのだ。恥ずかしくなるとともに、それ以上にとても嬉しくなった。全国治水砂防協会の機関誌に掲載されていたレポートを一部引用する。

 アカタン(アカタン歴史的砂防堰堤群)とコウクラ(高倉谷川歴史的砂防堰堤群)の歴史的石積み堰堤の美しさは、山村集落古木と瀬戸(福井県南条郡南越前町)の誇りです。
 アカタン砂防奥の東堰堤に初めて訪れた人は、谷間にひっそりと佇む上品で何気ないようで優雅な姿にため息をつくことでしょう。近づいてみると良質な土地の岩石を鋭い角をつくって割っているが、それぞれがしっかりと組み合って難攻不落の存在感に圧倒されるでしょう。
 一方、コウクラで印象的なのは、前法水叩き工(コウクラの用語)です。緩やかな縄たるみからの越流が一気に落下するのではなく、所どころ石を突き出して石積みに変化を持たせ、そこを叩きめぐりながら流れ落ちる優れた工夫と風景をつくっています。水量が多い時は躍動して轟き、夏には心地よい滝浴みができる風情のある堰堤です。住民の調査によってアカタンに9基、コウクラでは12基発見しました。ともに驚くほどの労働と熟練した石工の手仕事によって、その場に調和した感性で造られているので、時が経つと共に美しさが増しています。

田中保士.住民が始めた「砂防に学ぶ体験活動指導者養成講座」 ~アカタンとコウクラ砂防を生かす山村集落の試み~.機関誌砂防と治水.2013,no216,pp.76-77. 


 後日、南越前町地域おこし協力隊の現役隊員とOBと雑談していたときに、アカタンと高倉谷川の堰堤を見に行ったことを話すと「大鶴目谷川というのもありましてね…」との答えが返ってきた。えっ?まだあるの…?

※Instagramには多少の動画も載せています。よろしければそちらもどうぞ

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