日々是レファレンス ガンダムとボルヘス
福井の足羽山のふもと、毛矢黒龍神社や藤島神社の近くに毛矢珈琲という喫茶店がある。
毛矢珈琲さんは本がたくさん置いてあって、中でも僕の大好きな南米の作家が多くて(ボルヘスとかガルシア・マルケスとか)嬉しい。なぜ南米の作家が多いのか店主に尋ねてみたらもともとそっち系の専攻なのだそうだ。すごいな。
今日はボルヘス『幻獣辞典』をお供にコーヒーをのんびりいただく。この『幻獣辞典』は古今東西の空想上の怪物を集めたものであるが「辞典」の名のとおり読み物としては決して面白いものではない。ボルヘスの小説のネタのためのメモとか覚え書きをそのまま集めただけじゃないのかといったぶっきらぼうっぷりである。それがボルヘスらしいと言えばボルヘスらしいし、これをボルヘスらしいとして楽しめるようになればもう立派なボルヘスファンである。知らんけど。
また、中には、ボルヘスがそれっぽく創作した怪物も含まれているそうだ(確かめたことがないので事実のほどは定かでない)。そこもまたボルヘスらしい。
さてこの『幻獣辞典』に、最初に登場する怪物の名はア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Qu)という。この名を見てあっと声を上げる人は僕と同年代かガンダム世代、もしくはその両方だ。アニメ『機動戦士ガンダム』(いわゆる「ファーストガンダム」)の終盤に登場するジオン軍の要塞ア・バオア・クー(A BAOA QU)。その名はボルヘスのこの本に由来している。
幼少期に『機動戦士ガンダム』を観て育った僕は、大学生になってボルヘスを読むようになり『幻獣辞典』と出会い、要塞の不思議な名前の由来を知る。その本と再び出会い、幼い頃と学生の頃の記憶をともに手繰り寄せるような気持ちになる。時空を軽やかに飛び越えるレファレンス。