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広野砂防ニオダン堰堤群
※この文章にはかなりの妄想が含まれますのでご注意ください。
大河内川砂防の探索を終えて車に戻ってきたのが15時。
日没までにはまだ間がある。ということで帰り道にあるニオダン堰堤群を見に行くことにした。広野ダムから曲がりくねった道を抜けて広野橋のたもとに車を止める。
「ニオダン」という不思議な響きの地名は、漢字では「入谷」らしい。この辺の地域では「谷」を「タン」と読む傾向があり、「入」も「ニュウ」→「ニウ」→「ニオ」と転訛したのかと思えばなんとなく合点がいく。
ニオダンの堰堤群を訪れるのは、大河内川に比べるとずっとお手軽だ。田中保士氏のレポート中の略図にしたがって川沿いの小径を歩く。ただしニオダンの堰堤群はいずれも国土地理院の地図には記載されていない。
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川の名前は不明だが、日野川の支流である
ちょっと歩きにくくて随分細くなっている小径を奥に歩いてゆくと最初に遭遇するのは「ニオダン砂防床張工」である。石が積まれているというよりは、川床に石畳のように整然と石が並べられている。水が石の間を縫うように流れてゆくので、渡捗も簡単だ。
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そして僕は「パリ~ルーベ」という自転車レースを思い浮かべる
サイクルロードレース好きの僕は「パリ~ルーベ」を思い出す。「パリ〜ルーベ(Paris-Roubaix)」は、その名の通りパリ(正確にはパリ北方のコンピエーニュという街)からベルギー国境に接したルーベまでおよそ260kmを走る自転車レースである。年1回開催され、自転車レースの中で最も格式の高い「クラシック」と呼ばれるものの一つである。このレースの特徴は、総数30箇所弱、総延長で50kmにも渡る石畳区間である。なんだ石畳を自転車が走るだけかと思われるかもしれないが、われわれが普段日本で目にする石畳を想像してはいけない。「パヴェ(pave)」と呼ばれるそれは、石畳というよりも、こぶし大の石がにょきにょき突き出た土の道だ。そんなところをロードバイクで走るのだから、石にタイヤを取られて転倒するなどということもあるし、転倒して膝の皿を割りその後のキャリアに大きく影響したという選手もいる。転倒までいかなくてもパンクは頻発し、当然ながらパンクはレースに大きく影響する。この石畳区間に突入するとき、選手たちはみな天に祈りを捧げる。雨の日は泥まみれになって走り、晴れの日は巻き上がる砂埃(だって舗装されていないから)にまみれて走る。サイクリストはだいたいサディストだが、そのサディズム的側面をもっともよく示すのがこの「パリ〜ルーベ」というレースなのである。過去の優勝者はこのレースを「苦しみを受け入れるレース」「愚か者のレース」などと形容している。しかし(だからこそ?)サイクリストの人気を集め、選手たちからも「いつかは出たい」とリスペクトを受ける特別なレースなのだ。
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少し険しくなる道を進むと「ニオダン砂防下堰堤」がある。二段構えであり、間の踊り場は床張工が施されたなんとも豪華な仕様である。上段の水通しの部分が狭くなっており、下段の水通しはそれに比べて広くなっている。上段と下段で優美な三角形を描いておりとても美しい。まったく見ていて飽きない。
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下堰堤からさらに奥へ進む。道の脇にはそこそこ大きな規模の石積みがなされており、平地を造っている。ここにも集落があったのだろうか。
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最奥の「ニオダン砂防上堰堤」。堤体の真ん中の部分が縄たるみとなっている。なぜかここだけいろいろなところに丸太が刺さっている。上流から降ってきて刺さったものか、あるいは何らかの工事や補強の名残りか。堤体の左右の部分は苔がむしたり草が生えたりしている。
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広野橋から上堰堤まで、ゆっくり歩いても20分ほどである。ひょっとするとアカタン砂防よりもお手軽かもしれない。
※Instagramには多少の動画も載せています。よろしければそちらもどうぞ(インスタには妄想は含まれておりません)。